ADHD生存記 1ー障害者年金をうける

自分はADHDかつASDがちょっとある精神障害者である。現在、精神障害者保健福祉手帳2級、障害者年金をもらって暮らしている。あとはパートを少し。

子どもの頃からなにか要領が悪く、ずっと将来が不安だった。小説家とか漫画家とかそういうのになるしかないと思っていた。自分に才能があるということからではなく、特別それが好きだったからというわけでもない。
ただ、「自分はおそらく会社とかそういう組織内部でうまくやっていくことができない」という確信とか恐れのようなものがあった。もちろん"思春期には誰しもそういう不安を感じるもの"ともよく言われるし、自分もそうなのかもしれないとは思っていた。
しかし、成長するにつれ自分にはとうていできないことを軽々とやって次々と段階を昇っていく同級生たちを見て、やはりこれは何か違うのだな、と実感せざるをえなかった。たとえば「将来のこと」を考えるのが異常に苦手だった。高校生にもなれば、1年生時から大学受験のことを考え始めるようだったが、自分はそれが全然できなかった。

今もできてないと思う。「将来のこと」ということを考えるたび、頭にもやがかかってのしかかってくるように考えるのが辛くなる。だから運良く大学に進むことはできても、今度は就職のことなど考えることができなかった。会社という組織に自分が適合することなど、絶対に無理だと感じていた。

そこで自分に救いようがないと思うのは、「それでも頑張ってみよう」と思ってしまったことかもしれない。なんとなく会社というものに入って、頑張ったところで何も評価されないのはもちろん、適応できない辛さが日々積み重なって、やがて心がぺしゃんこになって辞めてしまう。今までその繰り返しだったと思う。

たとえば会社という組織が「目の前の仕事を仕上げる」ということだけでいいのなら、自分はたぶんやっていけたに違いない。でも組織に属するというのはそれ以外のところというのがあって、それは態度や物言い、服装、身振り、空気を読む……などなどいろいろあるが、そういうのが自分はまったくダメだった。あるところではまったくの役立たず扱いをされ、あるところでは上司の間違いを指摘して「生意気だ」「態度が悪い」とされた。

かくして、失敗ばかりして歳ばかりとって、自分は発達障害ではないかと思い、知能検査、心理検査を受け、ADHDとASDの診断を受けた。二次的に発症したうつ病もあり、何年か診察を受け続けたあと幸いにも心療内科の先生に「これなら障害者年金受給できると思うよ」と助言をいただいて、年金申請をすることにした。

もっとも、障害者年金申請は楽なことではない。現在かかっている病院の先生から専門の書式で診断書を書いてもらうのはもちろん、そもそもが自分が「発病した日」を証明する必要があるのだが、自分がうつ病を「発病」して心療内科に通い出したのはたしか大学3年生のころだった。しかし現行では病院は過去5年分のカルテしか保持義務がなく、申請時点で20年以上前のカルテなど保管しているはずもなかった。この時点で詰みになってもおかしくなかった。実際にその病院に(これも幸いだが病院は残っていて、同じ先生が運営されていた)電話で問い合わせて探してもらったが、やはりカルテはなかった。

自分の場合は、当時の大学の学生相談室の相談員の方が幸運にもまだ御在職で、記録自体は破棄してしまったが、僕のことはよく憶えていて、病院に対して「自分はこれこれのように記憶している、この旨で診断を証明する記録を書いてほしい」と一筆書いてくれたので病院から診断書を得ることができた。念のためその診断書を見てみると「当院の記録にはないが、〜大学の先生が仰るのだからそういう風なこともあったのでしょう」というような酷く投げやりなことが書かれていて、とてもイヤな気持ちになった。いったい、そういうことを人の人生を左右するような書類に書くようなことだろうか?書く内容に不満があるならせめて僕と面談してみるなどすればいいではないかーー。

発達障害というのは、生まれた時からの障害である。しかし、それが病院で正式な診断を受けるのはいつになるか分からない。主に周囲との関係で本人に問題が出始めてから心療内科などで診察を受けて初めて分かる。極端な話だが、周囲が何も問題視せず、本人も何も苦にしなければ、診断も年金も要らず、発達障害であることに気づかずに人生を終わっても不思議ではない。事実、「発達障害」という診断名が生まれたのはここ最近のことだ。

ここで先に触れたカルテ5年問題が出てくる。「いつ症状が始まったか」と言われたとき、たとえば僕の場合は「うつ症状が出始めた大学在学時」ということにされてしまった。しかし、それでは前述のようにカルテほか症状を証明するものがないのだ。
知能テスト、心理検査などを経てADHDの診断を得たのはつい数年前で、もちろんカルテも残っている。そちらを基準に考えてくれれば簡単に申請書類を揃えることができたのに……。自分は何度かそのように年金申請窓口の担当者に提案してみたが、なしのつぶてだった。

これはもう年金支給制度の欠陥としかいいようがない。自分は幸いなんとか申請できて、受給を受けられることになったが、他の方でもし同じようなことがあった場合どうなるだろう? そしてそのために人生に絶望をひとつ積み重ねでもしたら?
障害者年金の申請は、心理的にけっこう辛い。過去の嫌なできごとを全て思い出しては書き留める、そういう作業が必要になるからだ。僕は二度としたくない。

なんとか他の方も年金受給に至れるよう、制度自体の見直しが進むよう願うばかりだ。







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