いま、暗い夜を過ごす人へ
台風21号が過ぎ去った。
この世のものとは思えない光景を残して。
強く降った雨の痕跡、そして停電などのインフラの障害。
まだ不安の中に取り残されている方たちがいる。
どんな思い出も、音楽が美しくしてくれることを私は信じてやまない。
東日本大震災のとき、大きな揺れにあって帰宅できなくなった私は暗くて寒い3月の夜空の下、UNLIMITSというバンドの曲を聴いていた。
マイナーコードが疾走するもの悲しい旋律。なぜこれを選んだのかはいまだに分からない。
それでも3月が来るたび、私はあの景色と一緒にUNLIMITSの音楽を思い出すのだ。
でも、その思い出は一筋だけ淡く明るい色を発している。
あの風景に、音楽がなかったらどれだけ悲惨な記憶だったろう。
大雪で足止めになった新幹線で聴いていた曲。
何時間も電車の中で身動きがとれなかったけれど、車窓が切り取る銀世界にいつだってBGMが付いている。そんな綺麗な思い出だ。
音と風景に、記憶は強く結び付けられると思う。
街ごと剥がした風と雨の爪痕。灯りのない夜。
目にしながら、どんな音楽でもいいから聴いてみてほしい。
たぶん、少しだけ、怖くない記憶になっているから。