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21歳の推しを応援して16年の私が再び21歳の推しを見つけた話

この夏、私には新たな「推し」が出来た。私は推し(21歳)と同年代の息子がいる、50代の中年女である。
彼の沼に嵌ったのはこの夏クールのドラマがきっかけである。私は完全に油断していた。まさかこの歳でこんなに若い子に入れあげる(この言い回しが既に中年、いや初老?)などとは想像もしていなかった。
しかし実際はたかだか10話のドラマを観ただけでズブズブと足を踏み入れてしまった。ドラマは既に終了したので、動画配信サービスに入会して過去の作品を観たり、安易にファンクラブに入会して配信される動画を見たりしている。もはやこれは、ドラマの登場人物ではなく彼自身に嵌ったのだと認めざるを得ない状況である。

大人になって推しの沼に嵌ったのはこれが二度目である。一度目は今から16年前、この時もきっかけはドラマだった。そして偶然にも、彼の年齢もまた21歳であった。
まだ30代半ばだった私は、自分が彼に嵌ったと気付いた時大いに狼狽えた。自分より16歳も歳下の人を好きになるなんて!と。
しかし私のみならず、大勢の30代以上の女性がこのドラマをきっかけに彼にバタバタと撃ち落とされていた。学園モノでブレイクした直後の新入社員役だったのでそのギャップにやられたのか、ドラマの中の彼が10歳年上の女上司と恋に堕ちる設定だったからなのか、いずれにせよあのドラマにおける彼の存在は不思議な魔力があった。

当時彼はとあるグループの一員で、本業はアイドルであった。まだSNSが今ほど盛んではなかったので、私の夏は違法にアップロードされた動画や音声を探しまくることであっという間に過ぎ去った。彼らはCDデビューはしていなかったがコンサートの映像は世に出ていたので、それも購入して繰り返し観た。テレビ出演がある日は手に汗を握りながらその日を待った。
彼はテレビ向けのタイプではなく、言葉足らずで作り笑いも苦手だった。なのでテレビに出る日は朝からドキドキしっぱなしだった。それでもいざテレビ画面の中にいる彼を見ると、誰よりも輝いて見えたのだ。

それから16年の月日が流れた。
この16年は想像以上に波瀾万丈の日々であった。
推しがいる日々が純粋に楽しかったのは最初だけだった。二つのドラマでブレイクしたはずだったのにそれ以降、彼の起用は途絶えた。彼が言うことを聞かないので事務所幹部に嫌われているとか、彼の人気があまりに突出しているのでグループ内の人気のバランスを保つためとか、色んな噂が囁かれた。ファンは、彼はもっと活躍できるはずなのに不当な扱いを受けているといっては怒り、良い扱いを受けている他メンを嫉妬し、ネット掲示板で毎日繰り広げられる彼への非難を目にしては心を痛めた。私の大切な人は最高にカッコよくて可愛くて歌もパフォーマンスも完璧で果てしなく愛おしい存在なのに、不器用で正直すぎるせいで世間に理解されないのであった。私はその理不尽さに絶望した。本来ならば彼は天下を取れる実力があるのに、と。

その後、彼はグループを抜け、事務所も辞めて独立した。そこに拡がっていたのは天国であった。彼は自由に好きなことが出来る様になった。その代わり、メディアに姿を見せることはなくなった。
しかし、そんなことは大した事ではなかった。私達が彼を守り、応援し続けていけば良いのだ。当時はSNSがメディアと同等の力を持ち始めていた。テレビになど出なくても彼の実力はきっと評価される。彼はいつかまた、メディアから請われてこちらの世界に帰ってくるのだ。そう思い、ひたすら彼を応援し続けた。

独立から7年が経った今、彼はマイペースに仲間と活動している。とても楽しそうである。
その姿を見ていると嬉しくて、グループにいた頃の不安定な彼のことを思い出しては「本当に良かった」と心から安堵する。プライベートでも素敵な奥様と可愛いお子様にも恵まれている。
そしてタレントとしての彼には昔からの根強いファンがまだまだ残っているので、それで充分やっていける。それは奇跡的に素晴らしいことである。
しかし本心を言えば「ここで終わる人じゃない」という気持ちがどうしても拭えない。もっともっと登り詰めるはずの人だった。独立してからもそのチャンスはあった。しかし、結果的にはここまでそれは果たされず、代表作を残すこともなく、経験を積むこともなく彼は既に30代後半に差し掛かっている。
彼の歌やパフォーマンスはここ3年くらい見ていない。曲作りをしているのかもわからない。創作意欲が途絶えたのか、それ以外の理由があるのかもわからない。


そんな想いを抱えていた私の心の中に新しい推しは静かにすっと入ってきた。圧倒的な美しさを持ちつつ、大人の色っぽさと子供の無邪気さを両方見せてくれる彼。
彼のすごさは21歳にして人格が出来上がっているところである。落ち着いていて不安定さが感じられない。安心してみていられるのだ。
彼が公の場に出る姿を、私はヒヤヒヤせずに見ることが出来る。上手に受け答えも出来るし、礼儀正しい。完璧である。そんな姿をみるにつけ、推し一号が同じ21歳だった頃のことを思い出す。当時の彼ならこの受け答えは絶対に出来なかったはず、いや、今でも無理かも…と。
また、ストイックで努力家な新しい推しを見ると、一見不真面目だけど好きな事にはとことんのめりこみ過ぎる推し一号を思い浮かべる。求められることよりも自分のやりたい事をひたすらに追求する彼は、しかし気分屋でもある。
そんな推しに振り回された16年。結局私は彼から離れられてはいない。そしてその不安定さこそが、彼から離れられなかった一番の原因かもしれないことに薄々気が付いてもいる。
目の前に新たな推しが現れた今、私の気持ちはどう変わるのだろうか。恐らくこれから地道な努力を続けて急激に成長を遂げるであろう新しい推し。作品もどんどん発表されていくだろう。追い切れない存在になるかもしれない。
一方で恐らく今後もマイペースな活動を続けていくであろう推し一号。私が信じてきた「天下を取る彼の姿」は多分これからも見れないと思う。彼は彼の仲間と、ずっと彼を応援してきた優しいファンと共に、温かい世界で生きていく。
両極端な2人の推しをそれぞれ応援していくことが私の幸せになるのだろうか。今後の自分の気持ちを見守っていきたい。

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