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ストレンジラブ

冨家さん主演の『ストレンジラブ』を観に、下北沢へ行って参りました。下北沢は小劇場が多いと知ってはいたものの、初めて舞台観劇を目的に降りた。

今回の会場は、お役所の施設内にあるので若干混乱したが、受付の方が丁寧に案内してくれたので助かりました。

劇場入り口正面。左側のお二人は、受付担当兼出演者。

この会場、舞台と客席が近すぎてびっくり。手の届く距離に俳優さんが立っている。だから表情の機微が、どアップで見れる。

さて本題へ。
冨家さんの舞台は過去にも観たことがあるので、期待は充分にあった。そしてやはり想像を超える演技力の高さ。昭和の巨匠がまだご存命なら、絶対ご指名が来ただろう。
冨家さん演じる瑞樹は、軽度の知的障害を持つ男性。ピュアで真面目で可愛い笑顔を冒頭から見せてくれる。瑞樹はラブホテルの清掃員をしており、きっちりタイマーを計って「時間でーす!」と入ってくる。だが真面目な性格故に、レナ誘拐事件に巻き込まれてしまう。

瑞樹の職場がラブホテルゆえに、めちゃくちゃクセ強な人物たちに囲まれている。オーナー親子はもちろん、序盤のデリヘル・青紫弥生(相原美穂さん)が面白すぎるのなんの。客にプロレス技かけるし、ポテチ貪ってるし笑
他にもデリヘル嬢がいるのだが、もうエネルギーが強いし、ずっと見てられるくらい面白い。この女子勢、TikTokで絶対人気出る笑


私が本作を見て思ったのは、登場人物における『ギルバート・グレイプ』との相似点である。
『ギルバート〜』はディカプリオとジョニデ出演の名作。二人は兄弟だが、弟のディカプリオは知的障害のある弟を演じている。彼の演技力の評価がグッと上がった作品だと知られている。こちらはジョニデがなんとか問題を解決し、弟と彼女とともに新しい一歩を踏み出すエンドで終わる。
だが『ストレンジラブ』は悲劇的な形で終わる。瑞樹の弟・洋二(金馬貴之さん)は、両親を失ってから兄のことを支えようとしたが支えきれなかった。舞台上で深くは描かれなかったが、彼の人生において、兄・瑞樹の存在はかなり負担をかけてしまっていたんだろう。
父親が自殺し、母親が蒸発という家庭の崩壊も『ギルバート〜』で似たような形で描かれる。だからこそ、洋二の重荷はキツかったはずだ。(事件を起こすのは許されないが)
現在公開中の『富都のふたり』を思い浮かべた人もいるかもしれない。
瑞樹はラストシーンで洋二への思いを話す。それまで受身的に他人からの言葉を受け取ってきていたが、死ぬ間際に「洋二のことは嫌いだった」という愛の叫びを放つ。ここの冨家さんの迫真の演技力に、たくさんの人たちが涙した。私も泣いた。普段ハンカチを持たないズボラ女だから手がびっちょびちょになった。

他の登場人物にも目を向けたい。

刑事二人組は冒頭からいや〜な感じをプンプンさせる。だが、この二人のおかげで時系列が分かりやすくなり、混乱を招くことはなかった。舞台はフラットな空間ゆえに、場所や時間の「壁」を作らないと混乱を招くが、刑事組は「現在」の象徴なので「壁」を汲み取ることができた。

瑞樹の介護者である真弓は、彼を献身的に支える。ハグで愛を伝えるシーンが個人的に良かった。真弓の登場シーンはそう多くないものの、時折瑞樹が真弓の名を呼ぶので、深い愛情を感じられる。瑞樹は最後自殺するので悲しみに暮れるが、妊娠している描写があるので、まだ救いがあったと思う。

その対照として、レナはすごく歪だ。誘拐され、父親を失ったのをきっかけに、何かと不安定な精神を持ってしまった。復讐に走り、他人を利用する。もしかして誘拐のトラウマと共に愛着障害になってるのかもしれない。瑞樹のことも振り回し、ラストで妊娠した真弓の姿を見て、笑みを浮かべるのが印象的。この笑みが何を表すのかは、複数の答えが出そう。


見終わってから、タイトルにある「愛」が何だったのかを考えさせられた。ラブホテル、デリヘル嬢たちの話す「愛」、瑞樹が抱く家族と真弓の想い、洋二の瑞樹への想い、レナが抱く父親とアキラと瑞樹への感情など…
なるほど「愛」にはさまざまな形が存在する。

深夜なのでだんだん何を言いたいか分からなくなってきたが、とても濃密な90分作品だった。
友人、恋人、夫婦、家族で見ても良い作品だと思います。

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Tommy
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