イベント企画をしている人から聞いた話
私は、人と話していてネタがなくなってくると「怖い話が好きなんです。何か怖い体験ないですか?」と聞く。だれしも1つくらいは持ちネタがあるもので、喜々として話してくれることが多い。
この話は、飲み会の席でイベント企画会社に勤めている人から聞いた話だ。
その人は今は出世して大都市で行われる大きなイベントを手掛けるようなったが、まだ若かったころは、地方の商業施設などのイベントを担当していたそうだ。
商業施設の集客イベントを考えていたとき、「夏と言えばお化け屋敷!」ということで、とある商業施設のイベントスペースでお化け屋敷をやることになった。イベントスペースは商業施設の駐車場の一角にある。すぐ後ろは大きな国道に面している場所だ。
日本がまだバブリーな時期の話だそうで、お化け屋敷の入場料などのお金は取らないようになっていた。お化け屋敷はまぁ小さな子でも入れるようなもので、ものすごい怖いものでもないし、お化け役はいない。夏休み中の子供が友達同士で入ってキャーキャー言う程度。大人なら2~3分くらいでさっと出て来れるような広さ。
仕掛けがあるので、それを見張る担当のスタッフがお化け屋敷の中に一人、入口出口の担当のスタッフが一人(入口と出口の位置が隣り合っている。)というミニマムな運営だったそうだ。
イベント責任者とアルバイトスタッフは1か月ちょっとの間その商業施設の近くにあるホテルに宿泊し、働いていた。お化け屋敷は商業施設の営業時間中ずっとやってるのでシフトを組んで対応していた。
とある日、イベント責任者のその人が遅番としてお化け屋敷に出勤すると、早番で出ていたスタッフにが駆け寄ってきて相談があると言われた。
入口出口の担当スタッフが「男の子がいなくなっちゃったんです」と真っ青な顔で言う。
お化け屋敷の運営のルールとして、いくら無料だからといって、お化け屋敷の中にお客さんがたくさんいたら怖くない。そのため、入口出口の担当スタッフがお客さんがお化け屋敷に入るタイミングを調整していた。また、過去にはお化け屋敷の中に隠れる客がいて、他の客を脅かして、ケガをさせてしまったりということがあったので、入口出口のスタッフはお客様の数、どんな人たちか(年代、カップルなのか、家族連れか)とかを覚えておいて、全員が出口から出てきたのを確認するようにしている。中には本当に怖くて、動けなくなっちゃう人もいたりするためだ。
入口出口のスタッフが言うには、人がちょうどいない時間帯で、男の子が一人で駆け寄って来て、入りたそうにしている。周りに家族もいないから、「一人?」ときくとうなずく。幼稚園年長さんか、小学生になったばかりくらいの男の子だった。「一人で大丈夫ならどうぞ」というと、男の子はお化け屋敷に一人で入って行ったそうだ。
お化け屋敷が好きな子というのはいるもんで、家族に了解をとって一人で何度も入る子とかもいるくらいなので、この子もそういう子なんだろうって思ったそうだ。
大人だったら「なんだ子供だましだな」とかいってゆっくり歩いても2~3分ですぐ出てくる。子供たちはキャーキャー言いながら走っちゃう子もいるし、怖がって10分とかかかる子もいる。人それぞれなので、入口出口の担当スタッフもあまり気にしていなかったが、それにしても遅い。
中にいるスタッフに、無線機で連絡を取る。
「さっき入った男の子、通過しましたか?」
「男の子?誰もここ数十分来てないでしょ」
おかしい。自分は確実に男の子を入れた。
「○○色のTシャツに○○色の半ズボンの子だよ?」
「いや、だから誰も通ってないってば。やめてよ!怖がらせようとしてるでしょ?!」
無線を切って、入口出口担当のスタッフが入口からお化け屋敷に入った。灯りをつけて、暗がりは懐中電灯で照らして、探した。
どこにもいない。
「小さい子だからすっと出口から出てったんじゃない?」
とイベント責任者のその人が言うと
「そんなわけないです。男の子一人だしって思って気に留めてたので。」
事件性がある場合もある。これはイベント責任者として、商業施設側に報告しておかないといけないかもなと思い、一度お化け屋敷の運営を急遽停止して、スタッフを連れて、商業施設の事務所に行った。
「あの~、お化け屋敷を運営する上でのご相談なのですが、お化け屋敷に一人で入った男の子が出てこないんです。」
「どういうことですか?」と事務所の人は怪訝な顔をしている。
入口出口の担当スタッフがどのようなことがあったか話をした。
「うーん。たぶん目を話したすきに出て行ったんではないですか?」
「迷子とかで来てないですか?男の子は一人で来たんです。家族はいませんでした。」
「迷子ですか?今はいないと思うけど、、、どんな服装の子だったか覚えています?」
「○○色のTシャツに○○色の半ズボンの子です。幼稚園年長さんか、小学生になったばかりくらいの男の子で、、、」
そうスタッフが言った瞬間、事務所の人の顔が引きつった。
「え、、、何か私たちを驚かそうとしてるの?やめてよ」
「え?どういう意味ですか?」
「その子、、、生きてないわよ。」
事務所の人がいうには、数週間前にこの商業施設の目の前で、その男の子はトラックにはねられて即死したそうだ。男の子は小さい子だったので、ポーンと体がすっ飛び、商業施設の敷地内、今お化け屋敷があるイベントスペースの方まで飛んできた。駐車場にいたお客様がびっくりして、商業施設の事務所に連絡。商業施設が救急車を呼んだそうだ。バブリーな時代なので、携帯電話やスマホもない時代だった。
即死だろうとは思うが事務所の人たちは、救急車が来るまで応急手当をした方がいいのではないかと、走り寄った。どう見ても亡くなっていたそうだ。
話をした事務所の人はその場にいたので、その子の服装まで記憶していた。
このお化け屋敷は夏限定のもので、まだ運営が始まってから少ししか時間が経っていなかった。季節ごとのイベントなので、イベント責任者の人が前に来たのはGW頃で、その次が夏のイベント。少し間が空いていた。その間は打ち合わせで商業施設に来てはいたが、お化け屋敷は1日で設営できるようなものだったので、お化け屋敷をやると決めてからはほとんど来ていなかった。
イベント企画会社は東京にあり、私が話を聞いた人も東京に住んでいたので、イベントが始まる前はほとんど来ることはしなかったそうだ。だから、イベント責任者だったその人もその商業施設でその間、何があったかなんて知らなかった。アルバイトスタッフも東京から連れてきたので、何も知らなかった。
「みんなが楽しそうにしてるから、その子もお化け屋敷に入ってみたかったんでしょうね」
と事務所の人は悲しそうに呟いた。
事務所の人が言うには駐車場の一角についている監視カメラで、ちょうどお化け屋敷があるイベントスペースの様子が録画されているだろうとのことだった。
夜中にイベントスペースに入り込んでたむろする若者がいるので、その若者たちを追いはらう意味と、何かあったときに警察に出せるようにと取りつけたカメラだ。
入口出口を担当していたスタッフが、その男の子が入口に来た時間帯を告げる。その時間まで録画を巻き戻す。
すると、そこには誰もいない空間に向かって、入口出口のスタッフが指を1本立てて、口を動かしている。「一人?」と聞いたときのものだ。
その後スタッフが少し何か言い、入口からお化け屋敷の中をのぞくように頭を動かした。そして今度は出口を見ている。時計をちらっと見ている。その後無線機を取って、連絡をし、懐中電灯を持って中に入っていく。
男の子は写っていなかったのに、まるでそこに男の子がいるような動作をそのスタッフはしていた。
「来てたんだね」
お化け屋敷のスタッフも、事務所の人たちも怖いというよりも悲しい気持ちになったという。
その後、その入口出口を担当していたスタッフは怖がってアルバイトを辞めて東京に戻ってしまった。そのため、その分、イベント責任者だったその人は空いた穴を埋めるために入口出口スタッフを夏の間ずっとやったそうだ。
「冷房もないしさ、引いてきた電気で扇風機回してやってたんだけど、暑くてねぇ。」
彼は懐かしそうに、そう話した。