レビュー:『深代惇郎の天声人語』朝日新聞社

▼わたくしの友人なら皆さんご存じの、いつも引用しまくっている深代惇郎のコラム集。この他に『続 深代惇郎の天声人語』も出ているし、さらに『深代惇郎 エッセイ集』『深代惇郎の青春日記』というのもある。文庫版も全て持っている。▼中学生のときに初めて読んで以来、繰り返し読んでいる本の一つ。情報の豊富さ、新鮮さ。文章のリズム、ユーモア。ジャーナリストとしての確かな目と、名コラムニストとしての筆力。▼だが、なんといっても引き付けられるのはドナルド・キーンも認めた※「ヒューマニスト」深代惇郎の温かさ、強さだろう。この本で一番好きな頁は『コントラスト』と題された、このコラムだ。▼「日航機がリビアに着いて、日本赤軍の事件は幕を下ろした。」とはじまって、「悪寒のはしる話より、心の洗われる話の方が良い。」と韓国の詩人、金芝河の「良心宣言」を紹介する。▼それは、「拘束される前に自分の良心にかけて非転向を誓い、体の自由が奪われたあとの調書などはすべて無効である、とあらかじめ宣言しておく」ものである。と続く▼そして、コラムの最後の一文「金芝河と赤軍。人間の偉大さと卑小さには、なんと遠い隔たりのあることであろう。」(1975.8.9)▼この「なんと遠い隔り」の「なんと」の中に込められた、人間に対する信頼と希望が「ヒューマニズム」の源泉なのだ。今でもKindleで読むことができる。

※ドナルド・キーンがこう書いている。
ローマ時代の詩人の言葉に「私は人間であり、人間に関係のあるものなら、私に関係しないものはない」というのがある。深代淳郎についても同じことがいえる。彼は人間の現象に限りない関心を示し、計りがたい愛情を抱いて書き続けた。『天声人語』は立派な文学であり、彼の記念碑である。

(昔、RJという書評サイトに書いた拙文を修正加筆した)

【訃報】

金芝河さん 81歳=詩人
「韓国民主化象徴」
1970年代前後の韓国民主化運動を象徴する詩人、金芝河(キム・ジハ、本名・金英一=キム・ヨンイル)さんが8日、江原道原州市の自宅で死去した。81歳。

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