自分で選べない出会いもある
10代の頃、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(以下「オネアミス」)という映画を劇場で観た。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/90004/
いまやお騒がせ集団となってしまったガイナックスが初めて作った劇場アニメ映画と記憶している(エヴァンゲリオンを作っているのはカラーでしたっけ)。
当時(1987年)としては破格のスケールで作られた作品で、それなりにヒットはしたと思うし、いまでも名作のくくりに入っているんじゃないかと思う。
ビートルズを初めて聴いた人が、あまりの衝撃で音楽を志したり、プロミュージシャンになったり、みたいな話は何度か見聞きしたことがある。
僕の音楽センスが大したことないからだとは思うけれども、人生を変えてしまいかねない衝撃をビートルズの曲から受けたことはない。
ビートルズと同時代を生きた感覚がないことも、理由のひとつかもしれない。
僕が生まれた頃には、すでにビートルズは結成されていたし、Hey Judeも歌われていた。
ジョン・レノンが亡くなったニュースを聞いたとき、自分が何を感じたかは覚えていない。
いまでも現役で歌い続けているポール・マッカートニーはすごいと思うけれど、熱く語れるほどの情熱を彼に燃やしているわけではない。
「ビートルズってすごいんだってね」という伝聞調でしか語れない。
しかし、オネアミスは違う。
多感で不安で過剰な10代の頃に、この映画に出会ったことで、僕は本当に多くのことを考え、多くのことを学んだ。
シロツグのだらしなさ、ふがいなさは我がことのように感じ、クライマックスで一気にまともな人間になった彼に「あのシロツグが…」と驚き、同時に嬉しさを感じた。
映画館でリイクニのブロマイドを買った。女性有名人の写真をわざわざ買ったのは、これが初めてのことだった。
坂本龍一が音楽監督を務めたサントラも何度となく聴いた。版権の問題なのか、いまはまともに入手することができないらしい。本当に残念でしょうがない。
ロケット発射台でのシロツグの演説は一言一句覚えている…とは言わないけれど、観るたび聴くたびに胸の奥底が熱くなる。
あの時、この作品を作っていたガイナックスの若手スタッフたちは、王立宇宙軍と同じく、成功するかどうかわからないプロジェクトをがむしゃらに突き進んでいたんだろうな。
いろんな要素が当時の自分とシンクロしていた。こんな出会い、偶然としか呼びようがない。
もしも成人になってからオネアミスを初めて観ていたとしたら、ここまで熱い思いを感じることができていたんだろうか。
この映画は、いまの自分にはまだ早いから10年寝かそうとか、いま観ないと手遅れだからすぐに劇場に行こうとか、そんな神の視点を持つことなんて不可能だ。
オネアミスに出会えた自分の幸運には感謝している。
タイミングがずれてしまった名作、いまだ出会えていない傑作もたくさんあるんだろう。
出不精で怠け者で、そこそこ頑固な自分だけれども、ステキな映画にこれからも出会えるよう、運命の神様に嫌われないよう、これからも劇場に足を運ぼうと思う。
コロナ禍で、これまでどおりにはいかないだろうけれど、それはそれとして受け止めつつね。