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TechRAMEN 2024 Conference の設計根源となった技術カンファレンスにおけるホスピタリティの考え方
TechRAMEN 2024 Conference 実行委員長の西原(@tomio2480)です.これは TechRAMEN 2024 Conference 超後日祭(?)の沼田町合宿で仕上げた記事です.
はじめに断っておきますが,ここでいう技術カンファレンスとは,特定企業の製品をアピールするいわゆる DevRel 等の商業的ねらいのあるイベントや OSS コミュニティ活動の一部分である技術カンファレンスのような,中心たるねらいを補助する形で催されるものとは異なります.イメージしているのは,自分たちが開催した TechRAMEN 2024 Conference であり,そのコンセプトと運営上の注意をイメージしてこの記事を書いています.あらかじめご了承ください.
ホスピタリティとは
すっきりまとまっている興味深い記事を読みましたので紹介します.
自分が読み下して理解したことを要約すると,わからない不安からの感動と,型にはまった安心からの感動では前者のほうが大きく感じやすいこと,主人と従者のようなもてなしや全員にできないことはやるべきでないということの 2 点が重要だ,ということを言いたいのかなと思いました.
これは教諭時代にも叩きこまれた,どんなにお利口さんでも暴れん坊でもどちらかにしかやるつもりのない指導はするな,という教えと重なります.状態として適した指導があるのはそうだけれども,状態さえ整えば両者とも同じ指導が受けられるように体制を整えておくべきということです.
もっと平易にいうと,特別扱いをしないということです.
この記事を読んで改めてホスピタリティとは,特別扱いによるまだらな強い満足ではなく,関係者全員が受けられる均一な満足の度合いで評価されるものだという理解ができました.
技術カンファレンスならではのホスピタリティ
そもそも技術カンファレンスに求めるものが何なのか,と考えたときに自分は以下の要素かなと思っています.
座学的に情報を得る
[トーク/ブース展示/交流] 技術に関する最新情報が得られる
[トーク/ブース展示/交流] 実践に関する体験情報が得られる
[トーク/ブース展示/交流] 新旧問わず未知の情報が得られる
実践的な体験をする
[ハンズオン/ワークショップ] 特定技術に関する手解きを受ける
[BoF/交流] ある技術や手法について議論する
[ブース展示] アイディアの実現を目の当たりにする
わざわざ箇条書きにすることでもなかった気がしますが,おおむねこんなところでしょう.
記事冒頭の話を受けると,基本的には全員にチャンスがあり,全員が技術カンファレンスに求めるものが満たされるようなもてなしを設計することが肝要になりそうです.
つまるところ "何か 対 人" で情報の流通を充実させて,知的好奇心を満足させることが肝要で,その流通する情報が開発や技術に関するものであることが望ましいということでしょう.
個人開発者や趣味で技術を触る人も楽しい空間
そして,筆者はエンジニア職の経験がありません.単純に技術が好きでこういった技術カンファレンスや技術系コミュニティの運営をやっています.そのため,純粋に技術そのものやつくってみた系の発表があると非常に嬉しい気持ちになります.
最近だと世間一般に IT エンジニア職の方が増えていることもあり,集団での開発手法や企業エンジニアとしての心構えなど,仕事以外で個人で楽しく好き勝手開発する人たちドンピシャリな発表は減ってきているようにも感じています.
特に TechRAMEN 2024 Conference のスタッフには非エンジニアどころか,会社自体が IT 系でなく,IT 以外の仕事をしている人たちも含まれています.そして,彼らはコミュニティ自体もそうですが,それ以上にプログラミングや電子工作,CG デザインなどが好きでここにいます.将来,エンジニアになる予定はないけれども,好きだから技術を触っています.
さらに,自分が知る限りでも,ロプロスさんやひよひよさんといった,上川や空知に縁のある力強い個人開発者が世界を変えているのを目の当たりにしており,組織に所属することだけがすべてではないと痛感していることも大きく影響しているように思います.
その彼らが楽しめるカンファレンスであってしかるべきだと思って,TechRAMEN 2024 Conference は様々な仕掛けを考えたり,いただいたプロポーザルを採択していったりしました.
懇親会が本番とは言わせない気概
先のとおり,すべての参加者を満足させたいという気持ちは,TechRAMEN 2024 Conference でも話題になった「懇親会が本番なんてそんなことでいいのか問題」にも関係するところで,様々な機会や企画を通じて技術カンファレンスの満足を高めるために重要な整頓でした.
何もこれは懇親会だけではなくて,技術カンファレンスとしてメインコンテンツであると胸を張って言えるもの以外が注目の的となってしまうこと全てを指していると認識して差し支えないでしょう.
懇親会を満足してくれているという事実は,それはそれで嬉しいですが,本編でも満足してもらいたいという気持ちはなくなりません.対話すればとか,セッションに全国レベルの人がいればとか,そういう手段の話で解決しようとせずに,参加者がどのように動けば何が起こるかとか,どの時間帯に何が起これば良いかとか,そのくらいの設計から抜け目なくやっていくことで,本編も本番と呼んでもらえるのかなと思っています.
運営する人たちと,発表や展示をしてくださる人たちと,参加してくださるみなさんの,技術カンファレンスに参加するすべての人に,知的好奇心を満足させることを軸に満喫してほしいことを伝え,空間を作っていく気概をみんなで高めていくことが,技術カンファレンスの真のホスピタリティ向上につながるものと考えています.
技術広報っぽい仕事をしている人として
特に技術広報等,こういったカンファレンスに関する仕事に名前がついてから顕著になったように感じていますが,イベントプランナーとしての熟練度が高い方々が関与されているカンファレンスでは,各ブース等での企画の充実に砕身されているように感じます.
かくいう自分たちもいろいろ考えるのですが,単純につまらないし意味がないからやめているのは,技術や手法,業務等に関する知的好奇心を満たさない企画です.自分のようにエンジニア経験がない人間が考えると,安直に技術も関係ない何かで,なんとなく楽しい気分になるものに魂を売ってしまいそうになる瞬間があるのですが,それは強い気持ちで叩き潰します.
なまじそれが SNS で注目を集めたり,現地で話題になったりすることで,経営層を納得させやすい材料が整ってしまい,抜け出せなくなることもあるのかなという印象です.
これが技術に興味がない人だとすると,技術カンファレンスで意義のあることかどうかは興味の外で,スポンサーとして当然の "権利" として行使する向きで活動が広まってしまうのも,極めて悲しいですが仕方ないことなのかなとも思います.
これは,先に説明した技術カンファレンスのホスピタリティ向上と真っ向から対立してしまうことも少なくなく,会社の仕事でブースに立つとか,カンファレンスに出るとかということに対して,気持ちが追いつかなくなっている自分もいるなぁと感じています.
これを避けるために TechRAMEN 2024 Conference では「広報的買い物の価値があまりないスポンサープランで突き進むことにしました」という記事を書いて公開しました.こうすれば自分も不満を抱える状態をカンファレンスに持ち込むことなく,集中して運営できるし,商業的価値があると考えてスポンサーしたのにやりたいことができない企業も現れることなく,みんなが幸せになれるなと考えました.
技術カンファレンスという文化が根付いていく過程で,資本主義社会に最適化されていくのは仕方ないことかなと思いつつも,どこか受け入れきれていない自分がいます.多分その原因は,この記事のタイトルにもした技術カンファレンスのホスピタリティ向上につながることをできているか,という自問自答にあるのかなという気持ちです.
お前がやれ精神を自分にぶつける
もし仮にぼくが欲しい場がなくなっていくのであれば,自分の手で作るまでです.趣味的に技術を愛する人たちにも開かれた技術カンファレンスの最後のひとつになってしまっても TechRAMEN 2024 Conference のような空間を作っていきたいなと思いました.
来年もがんばろう💪