この街の愛

朝目覚めて
カーテンを開ける
私を育んだ街並みが
眼前に広がっている

まだ朝靄のなか
街はゆっくりと動き始め
工場の煙突からもくもくと噴き上がる水蒸気が
今と昔を繋いでいた

私はこの街の果てから
遠くにこの海を眺めていた
海は見えないけれどそこに海があることを知っていた
そこには今日と変わらず煙を吐き出す
海沿いの風景があったからだ

幼い頃　私の世界は
のどかな野山に囲まれた安らぎの地と
工場と海に仕切られたその区域までだった
それ以上遠い世界は自分には現実味のない
まるで今はいけないRPGゲームのフィールドの外みたいだった

そして今
大人になった私が
この街並みを眺めている
私はあれから　良い人生を歩めただろうか
良い人生とは何なのだろうか
楽しいこともあった
辛いことも経験した
ひとつだけ言えることは
私は幼い頃には知らなかった
世界の外まで旅して
この街に帰ってきた
そして
例えそれが人にはどう映ったとしても
私は自分の体験してみたかった人生に手を伸ばし
それを体験させてもらったということだ
だから
その愛に感謝している
私を生かし
育み
また受け入れた
この街の大きな愛に