脈打つ魂

悲しみを知っている

喜びを知っている

ある夜　私は百万粒の涙を落とした

それほどに悲しくて

たださめざめと泣いた

どんな言葉も　

どんな歌も

救いには程遠く

どんな映画の中にも私はいなかった

そのとき初めて、自分の人生というものを考えた

寝そべり大の字になって天井を見上げた

もう何も持ってなく

何も持つこともできず

ただ裸の心で傷ついた我が身をそこに投げ出して置いた

暗闇は部屋の隅々に染み渡り

まるで私の存在そのものまでもが

闇に染まってしまいそうなほど

しかしそのとき、

決して消えてしまわない

か細い光が

私の胸のあたりにぽぉっと灯っていることに気がついた

今までは外の明かりが眩しすぎて見えなかった私の魂が

そこに消え入りそうな、

でも誰の力を持ってしても消すことのできぬ光を放っていた

そしてある朝　私は百万粒の言葉を紡いだ

それを並べてみると　

ある一定のリズムを刻んでいた

それが私の鼓動だった

私の言葉には

私のリズムがあり

私のテンポがあり

私のメロディがあり

それが私の魂の鼓動だった

それが私の歌だった

暗闇の彼方の夜明けの淵でついに見つけたのだ

だから私は言葉を紡ぐことをやめられぬ

魂の呼びかけをようやく聴き　

受け止めることができたのだ

悲しみが私をそこまで連れ出してくれた

もういいかと

もうこのへんで休もうかと思っても

そうさせてはくれぬ

それが私の魂の心臓であり

脈打つ言葉を止めては

生きてゆけぬからだ

悲しみを知っている

そして喜びを知っている

私の魂が、それを知っている

絵 /『大いなる循環』Yusuke Tominaga

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