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「蝿」という名前の女が主役のミュージカル

音楽座ミュージカルのとみながはなです。

音楽座ミュージカルの次回作「7dolls」はアメリカの作家ポール・ギャリコの『七つの人形の恋物語』を原作にしたミュージカルです。その主人公の女の子の名前が「ムーシュ」(フランス語で蝿のこと)という衝撃の事実。私もいままでいろいろあだなつけられたけど(はなじんとかジャンボとか)ここまで直接的に痛めつけてくる呼び名はなかなかやばいと思う。

そんなムーシュの本名はマレル。「海」という意味の素敵な名前なのです。でも、ムーシュは戦争で生まれた故郷・ブルターニュの村を焼かれ、家も家族も大好きだったおばあちゃんも失い、流れ着いたパリでは身を売ることもできず周りからは蔑まれ、居場所を失い、もう「死ぬしかない」というところまで追い詰められる。そんなシーンから「7dolls」は始まります。

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絶望しかないこんなシチュエーションから始まるミュージカルって私だったら頼まれても観たくないなあと思ってしまうけれど、ムーシュは只者じゃなかった。川に身を投げんとするその瞬間、後ろから声が聞こえてきます。

「おーい、そこの子、…かばん持ってるあんた、どこへ行く気だい?」

この一声がムーシュの全てを変える。世界を変える。私たちの人生を変えます。この声の主はキャプテン・コックという人形遣いの男。彼は7体の性別も種も性格も全然違う人形を操る人形芝居を生業としている男です。

8月の半ばから稽古が始まり、キャスティングは二転三転して、9月26日現在ムーシュを演じているのは森彩香(もりさやか)です。森さんのムーシュは、一言でいうならば「中身の詰まったマシュマロ」。っていうと本人は「悪口!」って怒り出すのだけど今のところそれ以外に言いようがないっていうか。。

森さんのムーシュは体内の力がうずまきすぎて持て余しているかんじ。冒頭、「死」へ向けられていたエネルギーが人形からの一声で一気に「生」へ方向転換すると、体内の力が一気に「生命力」へ大転換するので、さっきまで死のうとしていた人とは思えない力強さで人形とやりとりしはじめます。このあたりからムーシュの只者ではない感が出ていると思う。

ムーシュがいちいち激アツすぎて全然笑うシーンじゃなかったのに思わず笑っちゃうことも多々あり。

しかしまだ稽古は始まったばかり。シーンをみんなでひとつずつ創り上げている最中です。毎日の稽古でいろんな発見があり、目標ができ、大切なものが増えていきます。

「7dolls」は以前文化庁の文化芸術による子供育成総合事業の巡回公演で小中学校の体育館で公演していたこともありました。原作は小・中学生には難しいんじゃないかな?と思っていたけれど、ミュージカルになることでみんな一生懸命観てくださっていたと思います。

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学校によっては感想を後日送ってくださるところがあるのだけど、その中にこんな感想が。

今日の芸術鑑賞は、まるで小学生の時の自分を見ているようでした。私はムーシュと同じで、周りから必要とされていなかったからです。観ていていろんなことを考えさせられました。必要じゃないものは、この世にはないなんて初めて知りました。(中学3年女性)

この中学生は目の前の芝居を自分ごととして捉えて観て感じていたんだな、すごいなって率直に思いました。それと、文学や舞台芸術に触れるのにふさわしい年齢というのは存在しないんだって思った。いつだって人は自分の人生の最前線を命がけで生きているのだから。

もしかしたら、いやたぶん誰しも「蝿」と呼ばれたに等しい体験を今までの人生でしているんじゃないかな。ムーシュの物語は決して特別なことじゃないのかもしれない。


Ongakuza Musical「7dolls」

原作:ポール・ギャリコ『七つの人形の恋物語』
脚本・演出・振付:ワームホールプロジェクト
製作著作:ヒューマンデザイン
 
◆東京公演 草月ホール
2019年
11月7日(木)19:00
8日(金)19:00
9日(土)12:30/17:00
10日(日)12:30/17:00

◆大阪公演 高槻現代劇場 大ホール
2019年11月21日(木)13:30
※中学生・高校生団体あり/開演5分前からワークショップがございます
料金: S席 8,000円 A席 7,000円(税抜/全席指定) 
※5歳未満のお子様の入場はご遠慮ください

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