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サックスじいさん

SNSで友達承認をすると、お礼メッセージを受け取ることがある。

つい先日、「下手ですが、趣味でアルトサックス吹いてます。どうぞよろしくお願い致します」とサックスを吹いている動画と共にメッセージがきた。

正直迷惑だ。あなたの動画を見て私にどうしろというのだろうか。

無視をすることもできるが、友達になったよしみで邪魔くさいとは思いながらも、一応動画を見た。そこに写っていたのは少し緑がかった土色のポロシャツを着て、メガネをかけたじいさんだった。痩せ型のバッタのような出立ちの上、演奏の方はお世辞にも上手とはいえなかった。

マイルドに表現したが、かなり下手くそだ。

私は、動画を送ってきた勇気に「いいね」のスタンプを返事代わりに送った。それから2度とメッセージは送られてきていない。

知らないじいさんは、動画付きメッセージを送ってきがちだ。

私がタイムラインに投稿すると「アキラちゃん今月もよろしく」と、投稿内容とは全く関係のないコメントを入れてきがちなのも、じいさんだ。これから毎月この調子なのか。ああため息がでる。

ため息がでたついでに、15年ほど前、大阪城公園で見た「人形操りじいさん」を思い出した。

そのじいさんは、背丈40㎝くらいのピノキオ風の人形を相棒に踊っていた。ピノキオの両手首には紐が巻き付けられ、両足は地面につくかつかないか、力なくだらんとしていた。じいさんは自分自身も軽くステップを踏みながら、両手で紐を持って人形をぶらぶらとゆらしていた。

音楽は和風なのか洋風なのかよくわからない、軽快だが2、3日耳に残ったほど奇妙なものだった。ピノキオは人形であるのに、生きている人間が生きる気力を無くしたような死んだ目をしていて、完全にじいさんに操られていた。

そらそうだろう、操り人形だから。

音楽にのせられ、紐で操られながら踊るピノキオの姿はまるで、ジュディオングが両手を左右に広げながら、あの名曲「魅せられて」のサビの部分「好きな男の腕の中でも、違う男の夢をみるぅ〜う〜」と歌いながら踊っているようであった。

幼い頃は歌詞の意味がわからなかつたが、ピノキオが舞う「魅せられて」を見せられてなんだか切なくもなった。

じいさんと相棒のピノキオが踊っている側に、「お金入れてください」の箱が置いてあった。私は、「こんな奇妙な踊りに誰がお金を払うもんか。そんな世の中甘くないよ、どれどれ」とバカにしたように箱の中をのぞいたら、なんと5000円もはいっていたのだ。

その瞬間私は、じいさんにメラメラと嫉妬の炎を燃やした。

私はその当時、時給800円のパートに出ていた。しかし子供が小さかったこともあり働く時間が確保できず、1日に5000円も稼ぐことができなかったのだ。稼げない自分の不甲斐なさが、奇妙な踊りで5000円も稼いでいるじいさんへの怒りに変わってしまったのだ。

「じいさんよ、よき相棒を持ったもんだな」と捨てゼリフを吐いてその場を立ち去った。

それから天守閣の方に移動したら、違うじいさんがやはり人形を相棒に、腹話術をしていた。だが、腹話術を自慢げに披露しているじいさんは、完璧に口でしゃべってしまっていた。

腹話術とは口を動かさず、腹で話す術のことではないのか。

どこからともなく声が聞こえてきて、人形が話しているかのような錯覚に陥らせる芸が面白いのだろう。

じいさんの周りにはたくさんの外国人観光客がいたが、みな見てみぬふりをしているようだった。私もつられて恥ずかしくなるような見事な口話術であった。じいさんを哀れむかのように、何羽もの鳩が取り囲んでいたことを覚えている。

自宅へ帰って、旦那に大阪城公園で出会った「人形操りじいさん」と「腹話術じいさん」のことを話した。自分も「人形操りやってみようかな」と軽い気持ちで提案すると旦那は、「かっこ悪いことするな!」と劣化のごとく怒った。

「私が人形操りをしたいほど、経済的に追い詰められているのは、あんたがろくに働かないからだよ」と言ってやりたがったが口をつぐんだ。

その代わりに「あんたが人形操りすればいいよ」と余計なことを腹の中で言った。これも立派な腹話術だろう。


アラブあたりの石油王からSNSを介してメッセージがこないものだろうか?第4夫人くらいでいいから見染めてほしい。私の妄想は果てしない。


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