おかんとオケツとインターホン
本日朝8時、我が家の玄関の鍵を開けて誰かが部屋に入ってきた。
おかんや。
おかんがどんな人が知りたいと思ってくださるなら、ぜひこの記事を読んでいただきたい。
いつも、玄関の鍵をあけ、ガサガサと音をたてながら、何やら独り言をつぶやき、リビングにはいってくる。
「みな、おはよう、孫らおきてるか?」ガサガサガサガサ...。
寝てる。
「これ持ってきたで、魚たいたんやら...」。ガサガサガサガサ...。
そうなん。ありがとう。
「今日はアジの煮付けと、鰹節とジャコを醤油やらで味つけたんと、スイカ持ってきたで」と、ビニール袋からガサガサと取り出し、テーブルの上に並べた。
そして、おかんは必ず、孫達の顔を見るために、それぞれの部屋を、そっと覗くのだ。
娘の部屋はリビングと繋がっていて、簡易な引き戸で仕切られている。常に、引き戸は半分ほど開けているので、リビングから娘の様子が丸見えだ。
そのせいで、私が毎朝目を覚まして、1番に目にするのは、丸出しになった娘のオケツだ。
彼女は、お尻周りに、型がつくのが嫌なので、パンツを履かずに寝ている。
私は毎朝、「ああ、情けない」と、そっと、娘のオケツに布団を掛け、何も無かったことにしているのだ。
娘には、「ケツが見えへんように寝なさいよ」と注意するが、必ず朝になると丸出しになっている。
無意識って恐ろしい。
しかし、娘は、私が仕事に出かける際、爆睡している娘を起こさないように、忍足で玄関まで歩く私に、必ず、「いっでらっじゃい」としゃがれた声で見送ってくれる。
起きてんのかい。
私は「パンツ履きや」と娘に言い残し、仕事に出るのだ。
パンツをはこうが、はこまいが、好きにすりやあいい。でも、アンタのオケツをそっと、布団で隠すときの、母ちゃんの情けなさったら、ありやしない。
そんな孫娘の寝顔を見て、おかんはいつも、「あらら、かわいいな」と顔をほころばせる。孫は特別に可愛いようだ。
おかんは、かわいい孫娘に、はだけた布団をかけて、帰って行った。
その直後、静まり返った部屋に
「ピンポーン」と、大音量でインターホンが鳴り響いた。
どき。
「えっ!なんかあったん?」
「おかんが急に具合が悪くなって、助けを求めてるんかな?」とか、色々と考えならがら、急いで玄関へ向かい、扉をあけた。しかし、扉は半分しか開かなかった。
おかんは、玄関をでて、扉を閉め、鍵をかけた。ここまでは普通。
そのとき、おかんは左側の壁に取り付けてある、インターホンを左肩でタックルしてしまったのだ。
本人曰く、インターホンに身体が吸い込まれたらしい。ありえへん。
少し足がよろめいて、身体のバランスを崩したのだろう。おかんの足はタコ化して、ふにゃふにゃ。なんとか左肩でインターホンに寄りかかり、右手で壁を押して、真っ直ぐに立とうと、もがいていた。
新種のマーキング?
半開きの扉の隙間から、おかんの様子をみていると、「なんやの、なんやのこれ」と、肩がインターホンに接着剤でくっついて離れないかのように、インターホンを責めていた。
もがけばもがくほど、おかんの左肩が、インターホンを押し続ける。
「ピンポーン、ピンポーン、ピンポンーン!!」
うるさすぎる。
「おかんがなにやってるん。肩をインターホンから、離しゃええねやんか。簡単なことやで」
私は、口ではあれやこれやといえるが、扉が全開しないので、おかんを100%手助けできない。
もどかしい30秒ほどを過ごしたのち、おかんは無事、自力で真っ直ぐ立ち上がった。大騒ぎであった。
ちょっとおもろかったけど。怪我せんでよかったよ。
子供達は、おかんの独り言で、1度起こされ、部屋の扉を開けられて、2度起こされ、最後は大音量のインターホンで跳び起こされた。
それでも、娘と息子は、「おばあ、ありがとう。鍵かけとくわ。バイバイ」と、朝から騒がしいおばあちゃんを優しく見送った。
そんな子供達の姿をみて、おばあに優しくしてくれて、ありがとうと思う。ちょっとおもろいおばあやけど。
私は、母が去ってから、インターホンをすみからすみまで、チェックしたが、接着剤らしきものは、勿論ついていなかった。
おかんよ、頼むから、静かに出入りしておくれ。