ハタオリマチにつどう 〜卒業旅行1日目・富士吉田編〜
前回のあらすじ…「卒業慰安旅行に行きたい」という発言から構想を練ること約半年。卒論を乗り越え、コロナ自粛で危ぶまれつつも、なんとか、他人にのっかりまくりの「1日目は山梨県の富士吉田に行く」という大枠だけ決まった2泊3日の卒業旅行が決定した!!!
卒業式2日後、3月の3連休初日の朝7時過ぎ、横浜駅に集合した。私含め数人は本当に朝が弱いので、Sさんの車が来る30分前に集まったが、結局1人遅刻してきた。なんならそいつはSさんとは初対面。でもSさんは「皆のキャラがつかめてきた!」と最初から私たちのことを面白がってくれた。
Sさんは数年前に仕事で富士吉田に住んでいたらしく、知り合いの方がたくさんいるということだった。
横浜から富士吉田市までは車で3時間ぐらい。詳しく知らないまま向かってしまったのだが、富士山と富士急ハイランドと吉田のうどんがあるのは知っていた。でも、織物や衣類が有名な場所とは知らなかった。私は、制服やジーンズが有名な繊維の街で生まれ育ったけど、地元以外の繊維の街のことを全然知らなかったので、凄く興味深かった。
途中休憩で立ち寄った足柄SAで、お土産コーナーの中に1,000円ガチャを見つけた。後輩Oが「俺こういうのやっちゃうんすよ」とそれを引いた。そしたら、すっっっっっごいちゃっちい、黒光りの布地のブレスレットが当たった。多分原価100円もしない。彼はそれを「いや…まあ…絶対良いこと起きますよ………」と言いながら手首につけた。
10時ごろ、駅でSさんの車とレンタカーの2台に分かれて、まず向かったのは、「FUJIHIMURO」というアートギャラリー。昔は氷を製造する建物だったらしく、頑丈そうなステンレスの扉がたくさんあった。
着いたら、めちゃくちゃデカい馬がいた。
1階のガラス張りの空間では、「GOOD OLD MARKET」というお店の3日間限定のポップアップをしていた。そこにある商品の可愛いこと…!
街の写真がプリントされたTシャツ、銭湯のグッズ、お洒落な布地の巾着、織り機用の糸巻の形のお菓子、ZINE、袖とリボンが珍しいTシャツ、お菓子、ガラスのコースター、古着など。
やばい、ずっといられるし全部欲しい…!
私はそこで古着とZINEを買った。あとで、後輩たちが「似合うと思って」と言って、Aと書かれたキャップをプレゼントしてくれた。
特に、Oの買った古着の麻のコートが、とにかくはちゃめちゃに可愛くて、5,000円したけど、「マジで良い買い物だよ!」「やばいっすよね!」と褒めあった。多分これに出会えたのは、足柄SAで手に入れた黒いブレスレットの効果だ。
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幸先よくスタートした卒業旅行だが、今回のメインは、そこで行われている企画展「織り機につどう」だった。
「織り機の周りには"人"がいる」
富士吉田は「イトとヒトがいきかうマチ・ハタオリマチ」として機織り業を守り発展させているらしく、最近は大学生や若者がこうした仕事に興味を持ち、生業にしようと奮闘しているらしい。機織りと言っても、機織り機を使う人だけでは成り立たず、機械のメンテナンスをする人もいる。「機屋番匠」というらしいが、高齢化でその職人は激減している。今回の企画は、機織り機に着目し、それに集う人たちの言葉などを集めたり、機材が展示されていた。
細かい小さな歯車や機材、これらが全部組み合わさって、大きな機械になる。
この大きな機械に、たくさんの機材と、人が集っている。
映像と光で織り機を包むような、幻想的な空間もあった。キラキラ。
空間自体も素敵で、製氷工場だったのもあってか、コンクリでひんやりしていて、少し洞窟みたいで、独特の匂いがした。
他にも、「流しの洋裁人」という素敵な洋服のポップアップもあった。全く手が出せない値段だけど、全部ハイセンスで可愛かった。お店の人が自分と同郷で親近感が湧いた。
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そこを出て、お昼に向かう。後輩Kの"合宿明け・免許取り立て初運転"がヒヤヒヤで、駐車場を右折したら、反対車線の道路ど真ん中で止まってしまった。まじで死ぬかと思った。でも街のドライバーたちが優しくて何とかなった。
Oの買ったコートがやっぱり可愛くて、デザイン性高いし麻生地だから水も弾くし、元値なんぼや…と言いながら調べて、2人で驚愕した。
「13万!?!?!?!?!?!?」
ブレスレット1,000円とコート5,000円(ほぼ言い値)の総額6,000円にしては、13万は大当たりすぎる。そこから彼はそれを抱きしめるように着ていた。ブレスレットも撫でてた。
お昼は、吉田名物のうどんを食べた。
讃岐うどんは小さい頃から食べてるけど、硬くて太くて具沢山のうどんも、食べ応え十分で美味しかった。黒胡麻七味の山椒がピリッとした。
お店のおじさんが写真を撮ってくれたが、スマホ慣れしてなくて、見切れてブレていた。かわいい。
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そこから、道を間違えたりしながら、今度は少し山側にある「丸幸産業」さんにお邪魔した。
後染め加工をしている工房みたいな場所で、機械や布をたくさん見せていただいた。汚れのついた古着や色あせた衣類などを染め直して加工することで、また服としての価値を蘇らせるそう。タイダイ染めの体験もできるらしい。
事務所には箱のような古いコンピュータ(ワープロ?)があって、これに数列をプロットして色を決めるらしい。(拡大した写真もあるけど、企業秘密だとアレなので遠目で…)
隣の工場で、たくさんの大型機械などを見せていただいた。こちらは染色用の液体。
洗濯機は大人が数人は入れそうな大きさ。
これは確か染色機械。湯葉みたい………
奥の木造の建物の2階には干場があった。真夏は灼熱地獄らしい。
工場のご夫婦は「日々挑戦と発見ですよ」とおっしゃっていた。新たな染め方や色落ちなどを試しては、失敗と成功の繰り返しらしい。探求し続ける姿、かっこいいなと思った。今度来るときはぜひ体験染めもしたい。
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次に向かったのは「羽田忠織物」さんのお店。主にネクタイを作っているそうだが…
もう、ここのネクタイ・蝶ネクタイなどの可愛さといったら…!!!
自分はドットやチェックが大好きなので、めちゃくちゃ興奮した。誰かにプレゼントしたくなるデザインのものばかり。ネクタイも蝶ネクタイも自分はしないけど、どこかに着けていく理由を作りたくなる。
インテリアも素敵で、バイクやレトロなミニカーもあった。
あ~可愛かったア… いつもお世話になっている方に皆でポーチを買った。
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次に向かったのは「舟久保織物」さん。傘生地専門の機屋さんだ。
ここの特徴は「ほぐし織り」という織り方。17世紀のフランスのリヨンで人気だった絹織物らしく、インドや中国から伝わった「シネ織り」が基らしい。横糸と縦糸で織り上げていくが、まず最初に縦糸が巻き幅で移動しないように、「仮織」というさきどめ作業をして、数センチ間隔で横糸を織り込む。その布に色を丁寧に塗ってから、乾かして、縦糸をよりつけて、さきどめした糸を抜く。
さっきの企画展で展示されていた機械が、実際に大きな音を立ててガシャンガシャンと動いていた。ハウルの動く城みたいな動きだなと思った。
布に色を付ける作業も見せていただいた。捺染…簡単に言うと、シルクスクリーン。複数の型で色を重ねて、模様を浮かび上がらせていく感じ。一応型に目盛りがあるが、ちょっとでもずれたらおじゃんになるので、技術をモノにするには相当大変らしい。
色付けした後に、さきどめした糸を抜くらしい。
この布は、なんと2Dにも3Dにもなるらしい。裏と表で配色が違う布が作れたり、透かすと2種類に見えたりする。横糸を変えるだけで相当色んなことができるらしい。凄い技術。今までの技術は守りつつ、ちゃんと変化もする。今は傘専門だが、この布を使って、市場から離れないようにしつつ、伝統工芸の先も目指しているらしい。
ここには、同年代の若い職人さんがいた。24.5歳で、脱サラして弟子入りしたそう。その人は「何回も試し織りして、やっとできたんですよ!」と自分の初めてデザインしたネクタイを見せてくれた。「普段こんなに自分の頑張ったことを、しかも同世代の人に聞いてもらえる機会あんまりないので、嬉しいです!」と言ってくださった。本当に嬉しそうで、私たちは一気にその人のファンになった。
高齢化が進むハタオリマチで、このまち、この産業の発展を担う若者に、実際に会うことができた。「めっちゃ楽しい」らしい。すごく良い。なんだか泣きそうになった。人の想いに触れると泣きそうになる。
ここのお父さんもたくさん熱い想いを聞かせてくださった。
「技術で世の中を変えたい。伝統の技術はもちろん守り、基本を大切にするのは大事だけど、手法というのは進化させていくもの。ここでしかできないものを作りつつ、日々ステップアップ。Finishはない」
担い手不足に嘆くのではなく、伝統を守りながらも変化を受け入れ、産業を進化させる、若者が関われる余白を残している。こういう考えのオトナがいれば、きっとこの産業は死なない、と思った。
「息子じゃないけど、自分の親より一緒にいる(笑)」と言ったとき、お父さんもお母さんも微笑んでいた。息子ぐらいの年の弟子と師匠の関係性が良いなあと思った。
外に出たら、富士山にちょうど傘がかかっていて、粋な演出だな~!と思った。また皆さんに会いに来たい。傘も買いたい。
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最後に向かったのは、地元のファッション会社「オールドマンズテーラー」のショップとカフェが入ったお店「THE DEARGROUND」。ここの服も、本当に可愛くて…セットアップやワンピース、全部欲しかったなあ。…高かったなあ(涙)
ここのお店の人にもお話聞きたかったな。絶対面白かったはず。また来る。
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富士吉田のまちや商店街もちょっとだけ散策した。商店街には、雑貨屋さんや洋品店や居酒屋などが並ぶ。
「乾杯通り」というところは、昔は労働者の疲れを癒すための、所謂…風俗街みたいなところだった場所。
怪しげなスナックや廃墟?なホテルなど、昭和っぽい面影を残しつつも、今はオシャレな飲食店が並ぶエリアだった。
ディープな路地裏。
コロナの影響でお店はあまり開いていなかったが、絶対また来て入ってみたいお店ばかりだった。飲みたかったな~~~
1日でこんなに社会科工場見学のような体験をできるとは思わなかった。数週間前まであまり知らなかった土地で、伝統とファッションと、そこに生きる人々の息づかいを感じられて、本当に良い1日だった。
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Sさんは別の場所に泊まるので、初日はそこでお別れして、私たちはオシャレすぎるホステル「kage low」に泊まった。夜はこれからだ。
なんせSさんに乗っかりっぱなしだったので、夕飯とか何も考えてなくて…
「夕飯どうする?」「ホステルにもレストランあるけど、どうせなら地元のもの食べたくね?」となって調べて、ここ良さそう!と言って予約した店は、バイキングが1200円とか。「安すぎない?大丈夫?最悪スシローとかでも良いけどな(笑)」とか言いながら歩いて10分ちょっと。ついた場所は、ホテルの1階にある、ちょっと小洒落た食堂みたいなところだった。
「大丈夫?これ」「めちゃくちゃ陽キャ大学生みたいな集団おるやん」「やめとく?」「いやでもまあまあ…」と言いながら入店。
ひとまずバイキングを食べた。…とっても庶民的なお味。美味しいけど、地元の食べ物でもないし、旅の夕飯にしては、ちょっと…。しかも、イケイケ学生たちにジロジロ見られた。居心地の悪さもプラス。そして、1人は楽しみにしていた肉団子を、他2人に勝手に食べられてプンプンしていた。
そんな感じで、疲れもあって全員モヤモヤしていたけど、私たちには最強のコミュニケーションツール・けん玉があった。私たちは、普段商店街でよく小学生や、まちの人とけん玉をしている。なので、全員Myけん玉を持ち歩いている。
食べ終わったKがけん玉を持って、その学生集団の輪に突っ込んでいった。遠目に様子をうかがう私たち…Kが技を決めると、どよめきが生まれた。
K「ちょ、お姉さん、僕の言う通りにやったら絶対成功するんで」
女子大生「ええ〜…」
Kは教え方が上手いので、3回ぐらいすると結構誰でも技が決まる。
「おおお!!!!!!」「やりましたね!すごいっす!!!」
こういう流れで、彼はいつも突然知らない人たちとけん玉で一体感を生み出して、けん玉を通じて人と仲良くなる。イケイケ学生たちとも和解(?)した。
そして、店主のおじさんとも、けん玉で和解(一方的に…笑)した。 どうやらおじさんは1人でキッチンを回しているらしい。あの量のバイキングを1人で…!!!庶民的とか言ってすみませんでした。めちゃくちゃ美味しかったです。最後、一緒にけん玉をして、記念写真を撮ってお店を出た。
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そこから、コンビニで適当にお酒とおつまみを買って、夜道を飲みながら河口湖まで歩いてはしゃぐという、ザ・大学生みたいなことをした。
対岸のホテルや店の明かりが水面に反射してキラキラして綺麗だった。そして、騒いで歌って、…酔いも相まって、どうしようもなく楽しかった。
なんとか全員卒業出来て、4月からは各々の場所で頑張る私たち。きっとコロナで色んなことが自粛にもなるから、当分直接は会えないんだろう。大勢で集まって遊ぶなんて、相当先になるんだろう。
歌いながら湖周りを闊歩した。大学生活最後の良い思い出になった。あの時撮った月9風動画、多分今見たら引くぐらいスベっている。
その日は日付が変わった頃にホステルに戻った。
長い長い1日目 〜完〜
次回予告…「待って?ほんとに乗るの?」「仕事に専念し、酒と色にはおぼれるな」「スカイツリーで職質」など… 次回も、気長に、お楽しみに!
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