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“つくり手の町”小松が育むうつわ文化|HO GA・緒方康浩さんインタビュー
12月14日(土)の展示会では、石川県小松市を拠点に活動する陶芸家・𠮷田太郎さんとご一緒します。今回の展示会では、小松で器とお米のカフェレストラン「HO GA」を営む緒方康浩さんにも企画に協力いただきました。
4年前、小松に滞在した際にも、現地を案内してくれた緒方さん。小松で暮らしながら、ホテル、体験施設、飲食店など多様な業態を通じてうつわ文化に関わってきました。
「ものづくりが好きな方々を、全員緒方さんのもとに送り込みたい」そう心から思いますし、それくらい小松の町を面白いと教えてくれた方です。
そんな緒方さんに、これまでの活動や小松の魅力について伺いました。緒方さんとの対話を通して、少しでも小松の文化の面白さを伝えられたら嬉しいです。
“小松の町で暮らしたい”と決意した移住
——緒方さんは柏のご出身ですが、就職を機に金沢で働くことになり、そこから小松に移住されていますよね。移住の大きなきっかけを教えてください。
緒方さん:石川県で暮らすようになったのは、リビタが運営するホテル「HATCHi 金沢」で働いていたことがきっかけです。当時は、ホテルの運営の傍ら、POPUPやワークショップの企画などを担当していました。
北陸三県のプレイヤーの方々とご一緒する機会が多い中で、休日にさまざまな地域に顔を出していて、その中で通うようになった場所のひとつが小松だったんです。
そうやって金沢と小松を行き来して活動する中で、小松にあるコミュニティ「TAKIGAHARA FARM」の方から九谷焼の文化施設「CERABO KUTANI」のオープニングメンバーを探していると声がかかりました。そこから、小松市に地域おこし協力隊として移り住んだ形です。
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——転職の大きな決め手としては、新施設の立ち上げに携わってみたいという思いからでしょうか?
緒方さん:それもありますが、一番の決め手は小松で暮らしたいという思いからですね。小松は関東からも関西からもアクセスがいいですし、山も海もあり自然も豊か。そして北陸三県もコンパクトで行き来がしやすく、バランスのいい場所だと思っていたんです。
ただ、当時は全国転勤枠として働いていたので転勤する可能性もあった。今後の自分のキャリアを考えた時に、小松で開業してみたいと考えたんです。
——そこから「CERABO KUTANI」に携わるようになったんですね。
緒方さん:そうですね。「CERABO KUTANI」では、展示や陶芸体験を企画したり、イベント企画を中心に担当していたんです。
「九谷焼」と言うと、やっぱり伝統的な九谷五彩や絵付けのイメージが強いんですが、以前とみこさんをご案内した「HANASAKA(ハナサカ)」さんのように、上絵が入らないものもあります。さまざまな作品を取り扱っていましたね。
——「HANASAKA」さんでは、九谷焼のルーツでもある「花坂陶石」にフォーカスしてうつわを発信されていますよね。粘土屋さんならではのアプローチで面白いなと思いました。地域おこし協力隊として飲食系のイベントも定期的に企画されていましたが、きっかけはなんだったんでしょうか?
緒方さん:コロナ禍の2020年頃に考え始めました。「錦山窯」の4代目・𠮷田幸央さん(太郎さんのお父さん)との会話がきっかけです。
みなさんはご自宅で自分たちの作品を日常的に使っている一方で、お客様には「なかなか使ってもらえない」「大事にしまわれてしまう」とお伺いして。
それを聞いて飲食店として、うつわを使えるお店を開きたいと考えました。お店のうつわならお客様も気兼ねなく使えると思いましたし、作家さんにとってもいい発信の場にもなると思ったんです。
——だから、まずは「錦山窯」のみなさんと一緒に実施されたんですね。実際にやってみてどうでしたか?
緒方さん:錦山窯が運営するギャラリー「嘸旦 MUTAN」も、そういう企画を開催したいと開かれた場所だったので、相談をした時に「是非やりましょう」と言っていただいて。お客様の反応もよく、すごく喜んでくださいました。
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あとは、料理人の方々にうつわの良さを知ってもらえたこともよかったです。それまで九谷焼作家のものをお店で使うことはハードルが高いと思われていたんですが、イベントで使っていただいて良い反応が得られました。
例えば、上絵があることで料理を盛る場所が決まりやすかったり、実際に使ってみないとその良さがわからなかったという声が多く聞けました。料理人の方々がその良さを知らないと、うつわの文化も広がらないと考えていたので、とてもいい反応だったと感じています。
小松の文化を発信する「HO GA」
——実際にイベントを企画して手応えもあったので、当初の予定通り「HO GA」を立ち上げられたんですね。「HO GA」のコンセプトは「器とお米」ですが、なぜこのようなテーマにしたのでしょうか?
緒方さん:小松は稲作も盛んな地域なんです。お米を軸に展開することで、地域の特色を活かしたアプローチになると感じました。
また、松本旅行で訪れた食堂もきっかけのひとつでした。そのお店は女性客が多く、みなさんしっかりとお食事を楽しんでいたのが印象的だったんです。
小松で生活する中で、女性がご飯をしっかり楽しめる飲食店は意外と少なく、そんな背景から「器とお米」というコンセプトに辿り着きましたね。
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——そうだったんですね。「HO GA」では太郎さんのうつわも取り扱っていますが、緒方さんから見た太郎さんの作品の魅力をお伺いしたいです。
緒方さん:太郎さんは京都精華大学の陶芸コースに進学されて、 そこで得た経験から今の作風に辿り着いているので、小松の中にはあまりいないタイプの作家さんだと思っています。
太郎さんのうつわの特徴は、やっぱり釉薬の表現ですね。釉薬をここまで研究し、自ら調合する作家さんは非常に稀です。つくり手として釉薬の研究を楽しまれ、理想の釉薬を追求する姿勢は、とても魅力的だと思いますね。
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——どうですか。実際にお店で取り扱ってみて。
緒方さん:「HO GA」では8種類のうつわのセット(茶碗+メインのプレート)を選べまして、太郎さんだけの組み合わせも、太郎さんと他の作家さんの組み合わせもあるんですが、やっぱり釉薬の表情や質感を楽しみながら手に取られるお客さんが多いですね。
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——これも全部太郎さんのうつわですよね。(「HO GA」のInstagramを見ながら)
緒方さん:はい、太郎さんのうつわです。あとは、料理を提供する立場の視点だと、太郎さんのうつわはさまざまな料理を盛り付けやすいと思います。うちで扱っているのはグレーのうつわのみなんですが、白いお料理は映えますし。フレンチのようにソースを添える料理にも、よく合うと思います。
伝統と革新が生み出す、つくり手の町
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——前に緒方さんとお話した時に「金沢は消費の町で、小松はつくり手の町」という言葉が印象的でした。幅広い場づくりを手掛けられてきた緒方さんにとって、小松の町の魅力をお伺いしたいです。
緒方さん:小松では、脈々と受け継がれてきた文化が、新しい風を取り入れながら進化している。そんなところが魅力です。
単に新しいものだけでなく、古くからの文化もしっかりと根付いています。小松は世界的に知られる重機メーカー「KOMATSU」の本拠地で、企業城下町でもあるんです。海外では「金沢」よりも「小松」の名前の方が通じるほど、グローバルな町としても認知されています。
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また、小松では料亭文化もあるんです。企業城下町であることも要因ですが、前田利経が小松城を築き、隠居の地として選んだ地なので、茶文化もあります。そんな背景の中で、料亭文化も育まれてきたんです。
——うつわは献上品として発展したとお伺いしましたが、料亭文化もうつわの発展に貢献したのでしょうか?
緒方さん:そうですね。太郎さんの祖父である𠮷田美統(みのり)先生をはじめ、人間国宝の方々のうつわが数多く使われてきました。
芸術家の北大路魯山人が加賀市を訪れた際に「器は料理の着物」と語った逸話は有名です。前田利経の時代から続く伝統文化の中で、うつわは大切に育まれ、受け継がれてきたんです。
——ありがとうございます。今日お話しして改めて、伝統と革新が共存する小松は面白い町だなと感じました。最後に、緒方さんが今後挑戦してみたいことはありますか?
緒方さん:「HO GA」ではお食事の提供を通じて、地域のお客様から海外からお越しの旅行客まで、開業しておよそ3年で7500人以上のお客様に小松の文化としてうつわの魅力を発信してきました。
今後はつくり手の町「小松」に惹かれて、海外からプライベートツアー等で観光でお越しになられた一組一組のお客様に対して、オーダーメイドな食体験を提供することで小松の魅力を伝えていきたいと思っています。
観光地として金沢が発展する一方で、オーバーツーリズムの課題にも直面しているんです。そんな中で、金沢には何度も行ったことがある方や、ものづくりに対して感度の高い方々には、ぜひ小松に来てもらいたいですね。
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緒方康浩|Instagram X
千葉県柏市出身。地元・柏市でのコワーキングスペースの運営や、金沢市でのリノベーションホテルの運営に会社員として携わったのち、2019年に独立。小松市地域おこし協力隊として、「九谷セラミック・ラボラトリー」の運営や九谷焼の新ブランド開発等に携わる。
2022年5月、構想からおよそ2年の準備を経て、体験型カフェレストラン 「HO GA(ホウガ)」を小松市・那谷寺近くにて開業。工芸作家たちの器を選び、選んだ器で食事を楽しむ食体験を提供し、地元はもちろん、海外からのインバウンド旅行客も多く訪れている。
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