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広辞苑第二版から第七版まで「ビール」の項目を調べてみた

ふと気になりました。広辞苑の各版で、「ビール」がどう説明されているのか、と。説明はアップデートされているのだろうか、と。

で、特に時間がかかることではないので、早速調べてみました。

とある図書館に行ったものの、広辞苑の初版は置いていなかったので、第二版から最新版である第七版まで。どこかで初版があったら調べてみたいと思いますが、ひとまず現状の結果をご覧ください。

広辞苑第二版(昭和四十九年九月二十日第二版八刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】酒精飲料の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加えて発酵させて造る。ビヤ。

はい。こちらが基本になりますね。

ビールの語源はオランダ語のbierだと。英語だとbeerで発音をカタカナ表記するとビアですが、オランダ語のbierはビールという発音に近いらしいですね。

で、「酒精飲料」という言葉が出てきました。酒精とはエチルアルコールのことで、つまりはアルコール飲料ってこと。

そして、ビールの造り方について簡単に説明しています。第二版はこれで以上。

なお、第二版が発行された昭和49年(1974年)は、キリンビールの滋賀工場が操業開始、上富良野のサッポロビール北海道原料センターでソラチエースの開発計画がスタート(品種登録は1984年)した年です。

広辞苑第三版(昭和五八年一二月六日第三版一刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】酒精飲料の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加えて発酵させて造る。ビヤ。蘭説弁惑「びいるとて麦にて造りたる酒あり」

基本は第二版と同じです。異なる部分は最後の1文です。

何が違うかというと、『蘭説弁惑』という書物からの引用を加えています。『蘭説弁惑』は蘭学者の大槻玄沢が1788年に著した本。川本幸民が日本で初めてビールを醸造したのが1853年頃と言われているので、それよりも70年近く前になりますね。

ちなみに、『蘭説弁惑』は国会図書館デジタルアーカイブで読むことができます。読めないけど。

第三版が発行された昭和58年(1983年)は、アサヒビールが「レーベンブロイ」のライセンス販売を開始した年(現在は販売終了)。サントリーのあのペンギンのCMが流れていたのもこの頃でした。

広辞苑第四版(一九九一年一一月一五日第四版一刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】酒精飲料の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加えて発酵させて造る。ビヤ。蘭説弁惑「びいるとて麦にて造りたる酒あり」

第三版から8年後に発行された第四版ですが、内容的には特に変化はありません。ビールの項目とは関係ないですが、広辞苑の奥付の表記が元号から西暦に変わりました。

第四版が発行された1991年は、キリンビールから「キリン秋味」が発売、アサヒビールの茨城工場が操業開始、日本ビールがシメイの日本代理店になった年でした。

広辞苑第五版(一九九八年一一月一一日第五版一刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】醸造酒の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して穀類・水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加え発酵させて造る。発酵過程で生ずる炭酸ガスを含む。ビヤ。蘭説弁惑「びいるとて麦にて造りたる酒あり」

第五版になると、3カ所変化がありました。

ひとつは、「酒精飲料」から「醸造酒」へ。酒精飲料はアルコール飲料全般を指すので、ビールもワインもウイスキーも含まれることになります。醸造酒という造り方まで踏み込んだことで、ウイスキーなどの蒸留酒や混成酒とは異なる酒だということを示しています。

そして、原料として穀類が加わっています。穀類とは米やトウモロコシなどの穀物のことですね。

もうひとつは、「発酵過程で生ずる炭酸ガスを含む」の部分。なぜ加えたのかは不明。炭酸ガスもビールのうち、なんですね。

第五版が発行された1998年は、アサヒビールがキリンビールを抜いてシェア1位になり、キリンビールが発泡酒の「麒麟 淡麗〈生〉」を販売開始した年です。また、地ビールブームがピークといってもいい時期でもありました。

広辞苑第六版(二〇〇八年一月一一日第六版一刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】醸造酒の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して穀類・水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加え発酵させて造る。発酵過程で生ずる炭酸ガスを含む。ビヤ。<季夏>。蘭説弁惑「びいるとて麦にて造りたる酒あり」。独歩、夫婦「若大は自身で―の壜を提げ女中にコツプなどを持たして来たので」―・ばら【―ばら】太って丸く突き出た腹。ビールを飲みすぎるとなるという俗説がある。

変化は3カ所。

<季夏>という言葉が入っています。これは「夏の季語」ですね。まあ確かに夏に冷えたビールを飲むのは至福のときですが、そろそろビールは秋の季語になってほしいなと、勝手に思っています。

というのも、ホップは初秋の季語なんですよね。フレッシュホップを使ったビールを飲める時季がビールの旬だと思っている自分としては、ホップよりもビールのほうが後にならないと、と思っているのです。

さらに、「独歩、夫婦〜」の部分も追加。国木田独歩の引用かと思うのですが、これについては調べきれず。もっとメジャーな作品から引用すればいいのに、なんて。

そして面白いのは、「ビール腹」の項目が増えたことですね。ビールを飲みすぎるとなるという俗説が広辞苑に載ってしまうほど、この俗説が人口に膾炙しているということなんでしょう。

でも、悪いのはビールではなく、それと一緒に食べるおつまみのカロリーのせいだと思うんですけどね……。

第六版が発行された2008年は、サントリーがサッポロを抜いて初めてシェア3位になり、第3のビールが発泡酒の売上も抜いた年でした。

広辞苑第七版(二〇一八年一月一二日第七版一刷発行)

ビール【bier オランダ・麦酒】醸造酒の一。麦芽(主として大麦)を粉砕して穀類・水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加えて苦味と芳香とをつけ、これに酵母を加え発酵させて造る。発酵過程で生ずる炭酸ガスを含む。ビヤ。<季夏>。蘭説弁惑「びいるとて麦にて造りたる酒あり」。独歩、夫婦「若大は自身で―の壜を提げ女中にコツプなどを持たして来たので」―・ばら【―ばら】太って丸く突き出た腹。ビールを飲みすぎるとなるという俗説がある。

現在最新の第七版ですが、特に修正・加筆はありません。引用文を新しく変えてみてもいいんじゃないかと思いますけどね。それなりに有名な文学作品にも「ビール」なんて言葉はいくらでも使われているでしょう。

第七版の発行は2018年。ビール関連で何があった年でしたかね。いろいろありますが、自分が著書『教養としてのビール』の執筆を開始した年としておきましょう。

第八版はどうなるんでしょうね。発行されたときにビールがどう変化しているのか、いまから楽しみにしています。

初版もどこかで調べないと。

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富江弘幸|ビールライター
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