【春秋一話】 1月 企業にとって経営理念とは
通信文化新報(2021年1月11日 第7074号)
本紙に「変化を読む経営」を連載している小宮コンサルタンツCEO小宮一慶氏の講演を、10年ほど前に当時の郵便事業会社東京支社での支店長会議の中で聞いたことがある。その講演の中で、就職活動をしている学生に「良い会社の見分ける方法」を伝えているという話がとても印象深かった。
その方法とは、就職活動の面接の際に、相手からの質問に答えるだけでなく、こちらから次の3つの質問をしてみると、そこが良い会社かそうでないかがわかるというものである。その3つの最初の質問が「御社の経営理念は何ですか」である。面接担当者が「弊社の経営理念は…です」と即答できれば、その会社は間違いなく良い会社と言っていいだろうということである。
経営理念をどのように扱っているか、経営理念を定めていない会社、経営理念はあるが掲げられているだけの会社、経営理念を社員がきちんと受け止めている会社など、世の中に多くの会社があるが、社員が自分ごととして実践しているとまでになるとそのような会社はなかなかないのではないだろうか。
経営理念についてよく紹介される企業として、米国の「ジョンソン・エンド・ジョンソン」がある。日本では、綿棒、バンドエイド、リステリンなどで有名だが、この会社でよく知られているのが「我が信条(アワー・クレド)」と呼ばれる企業価値基準を示した企業理念である。
そこには、顧客、社員、地域社会、株主に対する「全社員が担う4つの責任」を明記しており、全社員が常に携帯し意識して実践していると言われ、1982年に米国で発生したタイレノール毒物混入事件の対応などはその企業理念が企業のトップから全社員に浸透していることを示した事例としていまだに様々な機会に紹介されている。
国内でよく紹介される事例として、稲盛和夫氏が創業した京セラの経営理念がある。京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」であるが、それを実践していく行動指針として「京セラフィロソフィ」という信条があり、それをまとめた手帳を全社員が携行しているという。
一昨年夏の営業自粛から一年を経て、昨年10月から業務運営を再開した日本郵便であるが、新たな年にどのような展開が見られるだろうか。
本紙新年号のインタビューで日本郵政株式会社の増田寛也社長は「経営理念に立ち返ろう」として次のように述べている。
組織自らが招いたことで不振に陥った際に、必要なことは原点に返ることです。改めて経営理念を見つめ、「何のために会社は存在するのか」「何のために仕事をするのか」に立ち返り、自らの行動が反していないかを都度確認することです。
インタビューの際、増田社長は自身の内ポケットから「経営理念ハンドブック」を取り出し、日本郵政グループの全社員がこの冊子を携行し、常に自分たちの会社の存在意義、会社の目的を意識してほしいと話をされていた。
40万人を超える日本郵政グループの全社員が、この経営理念を意識して実践していけば、信頼回復はそれほど困難な道のりではないだろうし、さらに大きく発展していくことも決して難しいことではないだろう。新しい年の確実な実践を期待したい。
さて、冒頭の小宮一慶氏の3つの質問の残りの2つだが、2つ目は「御社の主な取引企業はどちらですか」であるが、これに対して企業名に敬称の「様」をつけて答えるかどうか、そして3つ目は「あなたは毎日出社する際にワクワクしていますか」というもの。
入社希望の学生からこの3つの質問をされて、企業の面接担当の方はどのように答えるだろうか。
(多摩の翡翠)
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