【春秋一話 07月】 「求め過ぎない」という選択
2022年7月18日第7153号
加齢とともに気力も衰えるということはよく聞く。筆者自身も60代半ばになり、定年前の現役時代とは異なり衰えを自覚するようになっている。
気力の衰えとともに、最近、ミスなどに対して以前よりもストレスを感じるようになった。ミスといってもいろいろとあり、仕事上のミスもそうではあるが、手持ちの機器類の操作が思ったようにいかないことに対してもストレスを感じ、加えてストレスに対する耐性が衰えているように感じる。
こんなことを感じ始めてふと以前に読んだ「失敗の本質」という書籍のことを思い出した。ほんの小さなミスとはいえ自分にとって「失敗」であり、改めて「失敗の本質」を読んでみることとした。
「失敗の本質」を知ったのは民営分社化前の郵便局時代になる。当時勤務していた郵便局の局長が読んでいる書籍が気になり尋ねたところ「失敗の本質」であった。その局長はもうすでに3回は読んでおり、管理者にとって必読の書だとも言われた。ちょっと難しそうだなとは思ったが、購入して読むことにした次第である。
「失敗の本質」は、当時一橋大学教授であった野中郁次郎氏を中心とした6人の大学教授らの執筆陣で構成され、1984(昭和59)年4月に出版されている。第二次世界大戦(書籍の中では「大東亜戦争」と呼称されている)における日本軍の6つの作戦事例をケースとし、それらの作戦がなぜ失敗したのかについて分析している。
それまで日本の敗戦について書かれた書籍は多数あったが、本書のように、史実の中から日本軍のさまざまな組織特性や欠陥を導き出し理論的に整理した書籍はなかったと言われている。
6人の著者が導き出した敗戦の原因は、過去の成功体験(日露戦争の勝利)から抜け出せなかったことを背景として、目的のあいまいさ、つまり何のために戦争をして、どのように戦争を終わらせるのかが明確ではなく、短期的な指向しかなかったと分析している。
さらに、この敗戦の原因となった組織特性や欠陥が、今日(出版当時)でもなお日本のさまざまな組織に継承されているのではないかとの認識のもと、課題の提示と解明がなされている。
最近、日本の経済力が衰退していると言われている。かつて昭和の高度成長期に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として米国の教科書と言われた日本であるが、1990年台のバブル崩壊と共に低迷が始まり、以降「失われた30年」と言われ今日に至っている。
平成時代に目指し追いかけたのはかつての世界に冠たる「ものづくり日本」という成功体験だ。そこから抜け出せず、令和の時代こそと願っていたところに新型コロナという世界的なパンデミック、そしてロシアによるウクライナ侵攻という世界秩序の崩壊が続き、そして円安が拍車をかける。
日本経済にとって出口が見えない状態が続き、国民にとっても諦観が広がっているように思われる。そこには過去の成功体験に捉われ、取り戻そうとする短期的な指向があるのではないだろうか。
最近読んだ書籍に「求めない」ということが今後のヒントになるとあった。
目的を明確にすることは重要だが、高過ぎる目標を追いかけると続かない。ストレスに対する耐性の衰えも自分への過信が伴っているのかもしれない。
敢えて求め過ぎず、失敗することも想定内と思うことで新たなストレスを生むことがなくなるのではないか。今後の生きるヒントになるかもしれない。
(多摩の翡翠)