【春秋一話】 11月 デジタル後進国を脱せられるか
通信文化新報(2020年11月2日 第7064号)
本紙8月3日号の本欄で、特定定額給付金の支給にあたり日本のマイナンバーカードが諸外国における同様のカードとの違いが明確になったこと、日本のデジタル化が遅れていることを話題にした。
「オンライン申請のために行政窓口に行列」「FAXでコロナ感染者数を把握」など、今回のコロナ禍で日本における様々なシステムがデジタルでなくアナログで行われていることが明らかになった。
それから1か月ほどの間に、国内では大きな動きがあった。コロナウイルスの感染者数は第2波の只中にあり、減少する目処が立たないままであったが、8月28日、電撃的に安倍晋三首相が自身の健康問題を理由に辞任を表明。その後、自民党総裁選に立候補した菅義偉氏が9月14日に総裁に選出され、16日に開催された臨時国会で首相に指名され、第99代内閣総理大臣となった。
同日夜、初の記者会見において菅首相は「規制改革を政権のど真ん中に置いている」と述べ、「複数の省庁に分かれている関連政策を取りまとめて強力に進める体制としてデジタル庁を新設する」と話し、平井卓也衆議院議員をデジタル改革担当大臣に任命した。
平井卓也議員は、2018年10月に発足した第4次安倍改造内閣で情報通信技術(IT)政策担当大臣として初入閣しているが、それ以前にも自民党内でIT戦略特命委員長をつとめ、2015年に制定された「サイバーセキュリティ基本法」制定の中心となったと言われている。
日本国内において行政サービスのデジタル化、いわゆるデジタル・ガバメント(電子政府)の構想が初めて登場したのは2001年に森喜朗首相(当時)が提示した「e-Japan戦略」である。このとき「国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」方針が示されたが、それから20年経ち、掛け声だけで何も進んでいない政策だったわけである。
9月末にスイスの国際経営開発研究所は、2020年版の「世界のデジタル競争力ランキング」を発表した。
このランキングは、政府や企業が変革に向けどれだけ積極的にデジタル技術を活用しているかを示したもので、知識、技術、将来への備えの3項目で評価している。
米国が3年連続で1位になっているが、日本は昨年の23位からさらに順位を落とし27位、インドネシア(2位)、香港(5位)、韓国(8位)、中国(18位)と比べアジアの中でも後進国であることがわかる。
90年代までの日本はIT分野でも工業製品でも世界標準レベルのものを供給していた。それがわずか20年でデジタル化においても世界の後進国のレッテルを貼られ、一人あたりのGDPでも世界2位から26位まで落ちているのが現状である。
日本郵政グループ内においても、9月30日に行われた会見で、増田寛也日本郵政社長が「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進室を新たに設置し、抜本的なデジタル化によって業務の効率化やサービスの向上を図る」と発表した。体制を整えるのは当然のことだが、日本郵便社内ではいまだに民営分社した際に所属していた会社によって20系(旧郵便事業会社系)、30系(旧郵便局会社系)と区分けがあり、社員の勤務管理などが統合されていないと聞く。
デジタル化推進においては、国民にとってどうか、現場で働く社員にとってどうかということが最も重要なことだろう。今後の日本、また日本郵政グループ内におけるデジタル化の推進に注目したい。
(多摩の翡翠<カワセミ>)