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【春秋一話】 2月 好評の「地球の歩き方・東京」

通信文化新報(2021年2月15日 第7079号)

 「地球の歩き方」というガイドブックをご存知の方も多いだろう。海外の観光名所や宿泊施設、現地で役に立つ細かい事情などを紹介する1979年刊行の定番ガイドブックである。約40年前、第1弾として「アメリカ」編と「ヨーロッパ」編の2冊が発行されたが、その後、世界各地を紹介するシリーズとして100タイトル以上が刊行されている。このシリーズに昨年9月、初の国内版として「地球の歩き方・東京」が刊行され、発売以来、既に7刷8万部とベストセラーとなっている。
 出版社によると「東京五輪を記念し、採算度外視で始まった計画、これで売れなかったら国内版は売れないと考えていた」と、当初は五輪をきっかけに日本各地から上京してくる観光客やビジネスマンの需要を狙ったそうだ。五輪の延期で当初の目論見は外れたが販売は好調である。
 これだけ販売好調な理由は海外版に親しんできた愛読者の需要を喚起したこともあるが、潜在的に国内の旅行需要が根強いことを物語っているのではなかろうか。しかし、昨年来のコロナウイルス感染拡大の影響を受けた観光需要の落ち込みは大きい。「鎖国状態」とまで表現される海外からの訪日客の激減、そして日本人の海外旅行の激減は深刻だが、意外にも旅行消費額に占める海外需要は低い。
 2019年の日本国内の旅行消費額は27.9兆円であるが、このうち訪日外国人の需要は4.8兆円(17.2%)、日本人の海外旅行需要は1.2兆円(4.3%)であり、全体の8割近くは日帰り旅行を含めた国内旅行である。昨年来コロナウイルスの影響で海外からの旅行者がほぼ0に近くなっているが、旅行業界にとって最も大きな打撃は国内旅行を控えた日本人の需要である。
 このような時期に国内の旅行ガイドブックがベストセラーになるのはどのような理由だろう。そのヒントが「地球の歩き方」事業をめぐる出版社の動向にも関係があるようだ。
 1979年刊行の「地球の歩き方」は出版社ダイヤモンド社の子会社であるダイヤモンド・ビッグ社が発行していた。同社は「地球の歩き方」をはじめとする海外旅行ガイドブックの出版を中心に事業を展開していたが、新型コロナウイルスによる海外旅行関連の事業が大きく変動したことを受け、学研ホールディングスの子会社である学研プラスという会社に今年1月に事業譲渡された。
 買収した学研プラスは「今後の二大成長戦略である“DX”と“グローバル”での拡大に寄与するものとして事業を譲り受けることとした」と述べている。学研プラスはここ数年の間に電子出版、デジタルサービス事業企業、教育のICT化ノウハウを持つ企業を吸収合併している。これらを総合すると、今後、デジタル技術をさらに発展させ、紙の出版物とデジタルとを組み合わせた旅行需要だけでなく様々なサービス展開を目論んでいるのだろう。
 「地球の歩き方・東京」の好調さはこのような企業戦略の方向が決して誤っていないことを証明しているのではないだろうか。コロナウイルスが早期に終息し、このような将来予想が現実のものとなり、国内旅行だけでなく海外旅行にも心置きなく出かけられることができるようになることを願いたい。
(多摩の翡翠)

カワセミ


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