I Can Do It With a Broken Heart 💔

城崎温泉までへの道中、私はこの文を記す。

海なんて一切見えない駅から、特急に乗り込んで、しばらく揺られていたら、広大な海が見えた。これが須磨の海だ。源平合戦でも有名な、須磨の海。笛を吹いていたのは平敦盛、その平敦盛の笛について去年の夏、歌っていたのは…とまで考えたところで、さっきまで忘れていた現実が蘇ってきた。

昨日、最愛の贔屓が退団を発表した。

決して長い期間推していたわけじゃない。彼女の新人公演時代なんて、そもそも宝塚オタクですらなかった。

それでも大学1年生の冬から今まで、ずっと彼女だけを愛してきた。大学生の恋愛期間としては、そこそこ長いお付き合いなのではないだろうか。もちろんこの愛は一方的で、贔屓にその見返りなんて求めたことはない。それでも周囲の人間が恋人を作り、普通の青春を送る中、私は青春を彼女に捧げてきた。

私の贔屓は世界一かっこよくて、可愛くて、綺麗で、知的で、女性として尊敬できる人だ。

彼女は176cmの舞台映えする長身に、深みのある歌声、そして計算し尽くされた役作りによって裏付けされた確かな演技力が魅力の男役だった。長身なのに、意外と顔が可愛くて、くるくると変わる表情がとてもお茶目だった。鼻がすっごく綺麗で、横顔はそのまま彫刻にして家に飾りたいくらい。

でも何より、私は彼女の中身を愛していた。面白くて、賢くて、彼女のトークは理路整然としているのにユーモアたっぷりで、たちまち虜になってしまった。

コロナ禍の企画で、他のタカラジェンンヌたちが「皆様の健康を祈っています」「皆様を愛しています」と励ましてくれる中、1人だけ作りすぎたカレーと、上級生の美味しいパンをスルーパスしたエピソードを投下してくるようなところが大好きだった。大好きすぎて英訳までして世界に広めようかと思ったくらいだ。(英訳はした)

資格習得というタカラジェンンヌらしからぬ趣味を持っていて、簿記の資格を習得した、と彼女が言った時には大きな衝撃を受けた。そして彼女に影響を受けた、大の数字嫌いの私が、簿記の勉強にのめり込み、優秀な成績を修めてしまった。自分でもびっくりだった。彼女がいなかったら簿記なんて、一生やらなかっただろうに。

彼女は謎解きが好きだから、私も名探偵コナンにハマってみた。いまだにさっぱり推理力はついていないけれど、謎解きの楽しさを知った。いつか彼女のトライしたコナンのリアル脱出ゲームにもトライしたいと思えるようになった。あのキャラクターが彼女っぽいな、なんて思いながら観るコナンは格別に面白い。彼女は沖矢昴か、羽田秀吉あたりが似合うと思う。ていうかコナン本当に面白いよね。毎年の映画を楽しみに生きていくよ。

彼女は文章も格段に上手い。トークと同じで、何を伝えるべきか、しっかりわかっていて、少ない文章でたくさんの情報を与えてくれる。彼女が担当していた月刊誌のコラムは、毎回ゲラゲラ笑いながら読んだものだ。いつか本を書いて欲しいね、なんて友人と言いながら。

彼女は男役だ。舞台では男を演じる。日常生活でも髪は短いし、お化粧も薄めだから、パッとみたら男にしか見えない時もある。事実、友人にふざけて「彼氏だよ」と紹介したら本気で信じられてしまったこともある。(ごめんね)

でもいつの日だったか、彼女は1人の女性として美しくいたい、なんて言っていた。まさにそうなのだ。私は彼女が女性だから好きなのであって、女性として理想的だから愛しているのである。彼女にmasculineみを見出しているわけでもない。ただただ、ロールモデルであり、最悪の存在だった。私も彼女みたいな、綺麗で知的な女性になりたかった。

彼女の誇れるファンでありたくて、簿記だけでなく他の勉強も頑張った。どの教科も最高の成績を修めるために、努力を惜しまなかった。

思いつきで髪も金髪にした。彼女が金髪でいたところをほとんど見たことないけれど、自分は金髪の方が可愛いなと思って、毎月高額かけてブリーチをした。髪は痛んだが、私は金髪の自分が大好きだった。贔屓にとって少しでも可愛いファンでありたかった。

バイトも頑張った。たくさん彼女の舞台を見るために、掛け持ちをたくさんして、毎日毎日働いた。朝四時に起きて、夜遅く帰ってくる日もたくさんあった。それでも彼女に会えるためなら、全然苦ではなかった。

私の人生は彼女中心で動いていた。

でも、自分の人生は彼女のものではない。
自分で選択しなきゃいけないこともたくさんある。

わたしは2024年の秋から1年間、ドイツに留学する決断をした。

彼女に1年間会えなくなるのは辛い。
でも、今の日本の大学を選んだのは、宝塚に近かったのもあるけれど、1番の理由はわたしの行きたかったドイツの大学と協定を結んでいることだ。なぜその大学に執着していたか、それもまあ宝塚が関係してくるのだけれど、とにかく高校生の頃からその大学に留学することを目指していた。

ここに来て宝塚が見たいからやっぱり留学やめますなんてことは許されない。

それに、留学でより知的になった女性になった方が、知的な贔屓もより喜ぶはずだ。しかも、ヨーロッパに行けば、彼女の演じた役にゆかりの深い場所がたくさんある。その場所を一つずつ訪れて、遠くの地から、彼女に思いを馳せようではないか。最高のオタ活ではないか。

その大学は交換留学でしか行けなかったから、そのために結構頑張った。

私が出願のために必要な語学試験を受けたのは、彼女が花組生として戻ってきて最初の公演の初日。彼女のスチールを胸に長時間のきついテストを頑張った記憶がある。試験が終わってそのまま、ふらふら劇場へと向かった。後日返ってきた成績は今までになく素晴らしくて、全て彼女のおかげだな、なんて思って嬉しくなった。

長い長い志望作文も、夜遅くまで泣きながら書き上げた。彼女の歌をBGMにして。

面接の前は、母親が彼女の写真をコラージュして「〇〇ちゃんがんばれ」と彼女に言わせている画像を送ってくれて、一気に気が和らいだ。直前まで彼女の写真ばかりのフォトアルバムを眺めて、面接にも挑んだ。

合格発表の日は、怖くて怖くて直前まで彼女の出ている公演の映像を見ていた。そのまま見ながら、自分の番号を掲示板に見つけたときはすごく嬉しくて、なぜかいの一番に彼女に伝えたくて、そのままのテンションで手紙も書いた。

そのまま、同じようなテンションで奨学金も獲得した。何か人生の勝負事があると神様みたいに彼女の写真を拝んで、それから挑んでいた。ああ、もう神様だったのかもしれない。こうして信仰って生まれていくのかな。

去年の夏に留学が決まってから、今まで、「留学で一年会えなくなる分全力で推そう」と決め、今までになく彼女を応援した。

毎日毎日、毎公演毎公演本当に楽しかったし幸せだった！

初めての経験もたくさんした！
コロナ禍で制限されていたさまざまなことが解禁されて、嬉しくて幸せだった！

大劇場も、東京公演も、全国ツアーも、御園座も。

全てがいい思い出だった！

私、あなたのおかげでたくさんスペイン語覚えちゃったの。あなたがスペイン人ばっかり演じるから。でもどの役もセクシーで素敵だった。毎秒恋に落ちていく感覚がした。

全国ツアーとか御園座とか、地元でやる公演の時は、実家をホテルよろしく利用して毎日毎日観劇に出かけていたから、母親に小言も言われた。まるでテイラースウィフトのlove story みたいだと思いながら、こっそり家を出て、こっそり帰ってきてみたり。

フランスとドイツのお話を描いた芝居では、あなたがフランス人役で、ドイツに行く人間としては、正直がっかりした。でも、フランス人なのにドイツサイドにつくとかいう役だったおかげで少し報われた！あなたが舞台で飲んでいたお酒の香りが好きで、わたしの部屋はそのお酒の香りがするんだ。この頃はよくテイラースウィフトのloverを聴いてたな。　

どの公演でもあなたが目の前で微笑んでくれて、私はそのたびにもう死んでもいいと思った。でもやっぱりまだ生きたい。あなたをたくさん観ていたいから。

辛い時も幸せな時もいつも思い出すのはあなたなんだ。世界で1番幸せを願うのはいつだってあなたなんだ。毎朝玄関に立てかけてあるあなたの写真に向かって行ってきますを言い、毎晩、あなたの写真を見ながら歯磨きして、あなたの健康と幸せを祈って眠りにつく。

そんな最愛のあなたが、退団を発表した。

予感がなかったわけじゃない。もしかしたらって思ってた。でも、信じたくないから、そんなはずはないって言い聞かせて、だんだん、その無駄な言い聞かせを信じちゃうようになって、あなたは退団するはずなんてない、って思ってた。

だから。

最初、退団者の中にあなたの名前を見つけたときは、嘘なんじゃないかって思った。

もういい歳した大人だから声上げて泣きじゃくるなんて、そうそうないんだけど、今回ばかりは、苦情が来るんじゃないかっていうくらい泣き喚いた。

というかもはや吠えてた。

なんで、とかwhy、とか嘘でしょ、it cant be 、とかもう色々ごちゃ混ぜな感情をひたすら泣きながら吠えた。
私が女型の巨人だったら、巨人たち集まってきちゃうよ。って思うくらい。ご近所さんごめんなさい。

感情の整理何一つできなくて、頭が痛くなってそのまま寝込んだ。

だって。

今彼女が退団したら、わたしは何一つ彼女の退団までの軌跡を見届けることはできない。
わたしはもうすぐドイツへ行く。

ドイツに行った後に彼女の退団公演が始まる。そこから4ヶ月かけて、彼女は退団していく。最後のお茶会も行けない。フェアウェルパーティにも行けない。白服を着ることになったら何を着ようかな、っていろんなブランドを物色していたけれど、もうどれも不要だ。千秋楽には、彼女は緑の袴姿で1人大階段から降りてくるんだろう。ファンとしては、贔屓のその宝塚人生集大成の姿を見届けることこそが、生き甲斐だろうに、もうそれも叶わない。
トークの上手な彼女の退団挨拶はきっとそれはそれは素晴らしいものなのだろう。どんな花を使った退団ブーケなのかな。ああ、でもそれも全て現地で見届けることは叶わないのか。

この春に、親友の贔屓も退団した。親友も私と一緒に留学に行く予定だったから、留学前になんとか贔屓の退団を見届けることができてよかった、と言っていた。私も思い入れのあるタカラジェンンヌだったから、彼女と一緒に退団公演に通い、最後のお茶会も付き添って、大楽の日は東京まで駆けつけて、一緒に彼女の贔屓の退団を見届けた。
大学生には負担が重すぎる金額を、彼女は最愛の贔屓に捧げていた。観劇とバイトとテストと…なんていう過密なスケジュールも贔屓のためにこなしていて、辛くて大変そうだったけれど、でも幸せそうだった。
大好きな人を全身全霊で見送ることの幸福を、私は間近で見てきた。
次は私の番かな、何年後かな、まあ来ない方がいいけどね、なんて話していた。

でも、もう何もできない。

贔屓を責めたいわけでは全くない。贔屓の選択は全てが正しいと思う。宝塚に入ってくれたことも、二度の組替えを経験しながらも、14年間も男役でい続けてくれたことも、何もかも彼女の下した決断に間違いはない。今まで幸せをたくさん与えてくれてありがとう。私はあなたのファンでいられて、世界一幸運だった。

問題は、素直に彼女を送り出せない私の心の醜さだ。

きっと、留学に行く予定なんてなかったら、素直に退団するその日まで彼女を応援し続ける、なんていえたはずだ。彼女が退団するその日まで日本で同じ時間を過ごせるのだから。男役としての彼女に別れを告げる覚悟を、ゆっくりと決めていけたのだから。

宝塚における退団の儀式は長い。初日から千秋楽までの間に4ヶ月もあるし、その間に様々な退団に向けたイベントがある。

この長い4ヶ月のあいだに、ファンもタカラジェンンヌも、マイペースに退団を受け止め、来たる千秋楽の日まで着々と準備を進めていけるのだ。そのための4ヶ月だと、私は思う。

でももう、私は男役姿の彼女に会うことはできない。一足早く、男役としての彼女の最後の姿を見届けた。
なんの準備も整わないまま、過去に見た彼女にさよならを告げなくてはいけなくなる。

私の中の贔屓は、御園座で見たあの姿から永遠にアップデートされることはない。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、私は一回たりとも瞬きせず、あなたの姿を目に焼き付けたのに。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、感謝の気持ちを込めて、手がちぎれるほどの拍手を送ったのに。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、ありったけの愛を手紙に込めたのに。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、幕が降りるその瞬間まで、あなたを見続けたのに。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、もっともっともっと観劇数を増やしたのに。

もしあの日が最後だとわかっていたなら、全ての過去の記憶を捨ててでも、あなたのその美しい姿を記憶を細かく脳に刻んだのに。

後悔ばかりが脳裏をよぎって、どうしようもない感情に支配される。無念、この単語が今の私に1番相応しいだろう。

でもこの時期での留学という選択に後悔はない。私は人生をあなたに捧げてきたけれど、人生の所有者は私自身。ここは線引きをしなくてはいけないところ。

きっときっと、贔屓の退団と引き換えてまで行く留学は素晴らしいものになる。楽しいことがたくさん待っているだろう。

いっぱい勉強をして。学びたかったことをたくさん学んで。素敵な女性と恋をして。それから、親友とヨーロッパ中を旅して、あの人の演じた役が生きた土地を一緒に回るんだ。イタリア、スペイン、イギリス、フランス、オーストリア、ジョージア…ああ他にもたくさんあるのに、怖くて彼女の名前を検索できないから、調べることもできない。

あなたの最後の姿をみられないのは本当に悲しくて辛いです。留学中もあなたを心の支えにするつもりだった。
でもあなたが、辛いという感情の原因そのものになってしまうなんて。

一晩経っても、感情の整理がつかなくて、この駄文を書き殴ってしまった。

最後になるけど、
あなたの男役としての最後の日まで、私はずっとずっとあなただけを応援するよ。7時間も時差があるような場所から、全力で応援するよ。

私はあなたのファンで本当に幸せだよ。
あなたと出会えたことが、人生最大の喜びだよ。
こんなにも素敵な人を推している私が時々ラッキーすぎて、シンプルにびっくりしちゃうんだ。

今はね、ひたすら大好きなテイラースウィフトの失恋ソングばかり聴いて、このどうしようもない汚い感情をどうにかしようと頑張っているんだ。

留学も全力で頑張るね。
行く先々で、ポストカードを買って、それであなたに手紙を書くね。
私と一緒にヨーロッパを巡った気分になってくれたら嬉しいです。
それから退団したら！ぜひ！！！！！！！！！ヨーロッパへお越しくださいませ。

大好きだよ。
Long live, あかりさんに永久の栄光あれ！