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異具むすびのある食卓

イグBFC5参加作品


『異具むすびのある食卓』  𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀


すんません。ちょっと前を失礼しますわ……ちょっと通してくださいね。

コンビニのおむすび、キャッと包まれててね、パキッと三角に、ズラーっと並んでいて、ちょうどいい。私たち忙しい現代人の味方ですわ。子どもの頃から今まで、彼らにどれだけ助けられたことか。異論はございません。

ただね。コンビニのおむすび。あれはロボットが握ってるんです。ロボットが握ったおむすびをロボットではない私たちが食べている、それはどういうことなのだろうか。そんなんおむすびだけの話じゃないやろ!ごもっとも。でも人間が“握る”ことで生まれたソウルフード、おむすびについて今は語りますよ。ロボットが握ったおむすびをロボットが運び、ロボットが陳列して、ロボットがお会計をして、ロボットがドローンで食卓まで運んでくれて、我が家のお手伝いロボットが、私の口にロボットが握ったおむすびをロボットの手で運んでくれる……すぐ目の前に迫るそんな未来は便利かもしれない。しかし、それはどういうことなのだろうか……いつか人生の荒波に溺れて倒れた私を、ドローンで火葬場へ運ぶのもロボットかも知れない。どういうことなんだそれは。この世で最期に見るのはロボットの顔かも知れない、どういうことなんですかそれは、という疑問だけはどうか忘れないでほしいのです。味覚は忘れてもね。

ツナマヨ、梅干し、たらこ、おかか、煮卵…一目瞭然。こういうもんが入ってますわ、私はどこどこの誰某なんですって、ラベルを見れば一目でわかりますでしょ。名札みたいなもんやな。
たとえ違うもんが入っていたとしても、ラベルを確認した瞬間に、あなたの舌はその舌になっている。なかなか人体は神秘的なもんです。

さて。今日みなさんに私、土丼善曇どどんぜどんが提案したいことはひとつだけです。
ロボットが握ったおむすびも良いけど、たまには自分でおむすびを握ってみましょ、自分の体温で自分のためだけに握ったりましょ、ささやかな日常の1コマから、この世の中へ反旗を翻したりましょ、ということなんですね。
とても簡単なことです。
お米と、お塩と、お水と、さらし布巾。
たったこれだけで革命が起こせる。
具材はなんだっていい。
その時に冷蔵庫にあるサムシング、異具いぐで、握ったりましょ。


🍙異具いぐむすびの作り方🍙
〈材料〉
熱々の炊き立てごはん
お塩
ボールに張ったお水
清潔なさらしの布巾
異具いぐ(その時に冷蔵庫にあるもの)


もうご飯は炊けたところからスタートですよ。
つまり、プロットが完成したところからですよ。始めましょうか。

まずは手をよく洗ってください。過去に葬ったかつての創作仲間たちの残骸で紅く染まりし罪深きその両の手を、塩で丁寧に洗い清めてくださいね。
こうすることでプロットが手にこびりつかなくなるので、すんなり成形することができます。

濡らして固く絞った清潔なさらしの布巾を、手の上にふんわりと広げて、釜から炊き立てのプロットを掬って、布巾で包み込むようにして、1回目はかるく、子どもが初めて握ったおにぎりのユルさを目指してください。
ぎゅってやらないことが肝心です。
プロットはこねくり回したら御法度ですよ。
三角なんて、絶対にやめてください。

仮握りが一通り終わったら、異具いぐを入れていきましょう。
広げた布巾の上におむすびを置き、中央を指で軽く窪ませます。
そこに異具いぐをのせたら、優しく布巾で包み込むように、握り直します。
ここでは少し強めに握り直してくださいね。
異具とは、つまりあなたの創作魂のようなもんですわな。
プロットの中核にこれを据えることで、おむすびに生命が宿るんです。
そんな心のこもった、温かい異具むすびをみんなで食べたら、あなたも、あなたの周りも、みんなが笑顔になりますよ。
それだけでいいんです。
毎日の食卓に必要なのは、そんな小さな、
手のひらから生まれる革命なんです。


ただ、食べるときは十分に気を付けてくださいね。

異具いぐには大きなタネが、

ありますんで。ね。

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