𝐕𝐄𝐑𝐘 𝐁𝐀𝐃 𝐊𝐈𝐍𝐊𝐈𝐍𝐆

『古賀コン6』参加作品
　テーマ “架空☆１レビュー”
　双翼大蛙特別勲章賞受賞

★☆☆☆☆  Kogazonで購入
投稿者：オニヤンマさん
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はじめに、私はこの商品を購入していない。
購入していないのだから、この商品が食べ物であるのか、はたまたメガなinfluencerの書籍であるのか、はじまりの村でNPCに手渡された★1の武器みたいにすぐ壊れるなんらかの工具であるのか、ひょっとしてlookismに関与したなんらかであるのか、あるいは医療グレードを偽ったシリコン製のアレなグッズのなんらかであるのかさえも、何もわからない。
わからないのだが、自由にレビューするための愛と勇気の門戸は誰にだって等しく開かれているはずだ。ということをあらかじめお伝えしておきたい。
あなたにも、私にも。
レビューとは生きとし生けるものすべての楽園以上であり、脱法ハーブ未満であり、現代のアトラクション以下の位置付けであることが、新日本国憲法の帯文でも保障されている。
次期内閣総理大臣候補である大泉退次郎も、「レビューに左右されない悲観的な人口1億2千万人の国よりも、レビューに左右されがちで楽観的な人口6千万人の国を目指していきたい。」と“脱なんらかのシンポジウム2024”で宣言している。その通りである。
レビュワーが右と言えば右を向き、左と言えば左を向く。明日の朝、たとえ時限爆弾があなたの郵便受けに届いていたとしても、一切の責任はあなたにはないのだ。
ぜんぶレビュワーのせいにさえすればいい。
そんな人生の方が気楽で楽しいじゃないか。
人類という文明の奴隷はいつだって、フレキシブルに、手放しで多数派の命運に左右されていたいのだから。

前置きが長くなったが、よって私は、威風堂々と商品レビューをする。
買ってすらいない、なんだかわからないものを、1時間で。

まずこの商品の紹介ページには、銀河の画像が一枚だけ添付されている。
価格は10,000円。
出荷元はKogazon、販売元もKogazon。
カスタマーレビューの9割は★1であり、“飛ばない！”“大は小を兼ねない！”“退次郎は速やかに退陣しろ！”という評価がほとんどである。
唯一の★5レビューには“孫が生まれて丸くなったね”と一言だけ添えてあった。
これらのヒントから、私が導き出した商品レビューを以下に記したい。


『ピンポーン。』
指定時刻にインターホンが鳴る。トゥンク……と、畦道に深紅の彼岸花が首をもたげる。胸が切なく震えた。恋、なんてものが突然やってくるのは二十代前半までじゃなかったのか。勘弁してほしい。
熱くなったり冷たくなったり、落ちつかないシャワーをとめて全裸にバスタオルを腰に巻いたまま、マスクを装着する。
待ち構えていたなんて、思われたくないのだから。
「お届けものです。」
ドアを開けるといつもの爽やかな配達員が、タッチペンを渡してきた。
我爱你、と俺の指が勝手に電子サインを書いていると、何処からともなくでかいトンボが飛んできて、俺の左右の乳首にとまった。「もう、そんな季節ですか、涼しくなってきましたね、暗くなるのがはやくなっちゃって、」とか取り乱しながらも、平静を装うために当たり障りのない言葉が、口から発射される。
「オニヤンマですか、」と配達員の彼が少年のように笑った。
俺は自分の胸元を自然に見る。右乳首にオニヤンマが、左乳首にはギンヤンマが翅を休めている。何か気の利いた返答をしようと思って、「ヤンマ科ってあれですか、わりに顎が強いのかな。」と呟いてから唐突に乳首を噛みちぎられる地獄が雪崩れ込んできた2、3秒の沈黙の間に、でかいトンボは夕闇のなかへ飛び去っていった。
「あはは、いっちゃいましたね。」茶封筒に包まれたそれは、ずっしりと重かった。
微かな人肌の体温を帯びている。それが9月の残暑の置手紙なのか、この爽やかな配達員の手のひらからの残暑なのか。少しだけ、あの深層の彼岸花が首をもたげはじめたような気がして、思わず俺は唇を噛み締めた。

「今日はお届けできませんでしたね。」
「えっ、他にも荷物が？」
「そうじゃなくて、貴方のここへ……私の不在票をお届けできなくて残念だなって。」
「なっ……や、冗談はやめてください！」
「貴方が再配達を望むなら、僕はいつだって、24時間、駆けつけます。」
「に、荷物がなくても、来てくれるの……？」
「ええ。僕の重すぎる想いを、受け取ってもらえるなら。」

彼が立ち去った後、しばらく妄想を冷たい窓枠に這わせながらリビングへ戻り、デスクを警備するハエトリグモを用心深く避けながら、Kogazonから届いた荷物を置いた。
10分ほど梱包の雰囲気を確認したあと茶封筒を開けると、中からまた茶封筒が出てきた。

脳内で、ドーパミンが屈伸運動をはじめる。レビューのゴングが鳴り響く。

「星の減点が始……ま、る…………ぜ。」
四季から足跡すら消された抜け忍、帰るべき郷を失った、そうまるであの頃の懐かしい秋のように、星たちは指の間から零れ落ちていった。
あっという間に星は、暗闇にたったひとつだけ、現代社会からドロップアウトした俺のように、瞬いて、流れた。


12月27日。追記。
前回のレビューを投稿してから3ヶ月が経過した。
相変わらず架空のデスクの上に置かれた架空の茶封筒の中からは架空の茶封筒が覗いている。
それでも、ひとつだけ星をつけたい。


どうして我々は、液晶の中のちいさな星ばかりを、狂ったように追い求めてしまうのだろうか。

たまには顔をあげて、遥か天上の彼方へ光る無数の星々に、思いを馳せてみてほしい。

あの夜空の星々は、一体なにをレビューしているのだろう。

僕らが生まれた時からずっと、僕らの頭上に煌めいている、

あの数多の星々は。

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