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植物の新品種を作ってアイドルにプレゼントしようとしたけど行き詰まった話

推しアイドルのミコちゃん

自分には推してるアイドル、御守ミコちゃんがいる。今年の夏に出会って3ヶ月くらい経つ。読書と物作りが好きな可愛い女の子。ミコちゃんには綺麗なものをたくさん見せてあげたいなと、日々思っている。

一方で自分は3年前から植物の新品種の育成を計画していた。そしてやっと交配が成功して、今年の春にその種を蒔いた。
これから育種を進めて、もし鑑賞価値のある植物を生み出せたら、その新品種にミコちゃんの名前をつけてプレゼントしようかなと思っていた。だけど今の段階で手詰まりになったのでボツネタ供養として話をまとめておく。

ポリア・コンデンサータ(Pollia condensata)

まだ知る人ぞ知るという感じのアフリカの植物。種名はPollia condensata(ポリア・コンデンサータ)で、通称"マーブルベリー"と呼ばれている。この植物の何が凄いかといえば、花が咲いてできる実が構造色を持っていてかなり綺麗。(実物はすごい小さい実だよ)

Pollia condensataの実
Pollia condensataの実

自分も数年前に入手して育てているが、残念ながら日本の環境では花は咲けども実が付かないようだ。(気温や湿度の影響??)
そして日本の冬の寒さには耐えられないので、冬は家の中に入れて越冬させないといけない。面倒臭い。

ヤブミョウガ(Pollia japonica)

日本にはマーブルベリーと同じPollia属のヤブミョウガ(Pollia japonica)が自生している。山とかに行けばいくらでも生えてる。このヤブミョウガの実も青〜紫の色をしているが、煌めくような構造色はしていない。普通の植物の実という感じ。

ヤブミョウガの実

マーブルベリーとヤブミョウガの属間交配

このマーブルベリーとヤブミョウガ、同じPollia属だから交配できそうだ。そして交配して育種していけばそれぞれの品種の欠点を補う新品種を生み出せるかも。日本の環境で簡単に育ち、メチャクチャ綺麗な実のできる植物、めっちゃ欲しい。
多分まだ誰も作ってない新品種。自分が欲しいものは自分で作らないとこの世に生まれない。自分の手で新品種の植物を作り出すことにした。

2019年春

マーブルベリーはすでに持っていたので、そこに掛け合わせる用のヤブミョウガをネット通販で手に入れた。この年は花をつけるくらいまでヤブミョウガの株を大きく育てる事を目標にした。秋にはしっかり花が咲いた。

ヤブミョウガの開花株

2020年秋

花はたくさん咲くようになった。でもヤブミョウガとマーブルベリーの開花のタイミングが合わない。同時に開花しないと交配出来ない。色々試行錯誤して開花の条件を探りつつ、株の増殖をして咲く花の量を増やしていった。あまり成果のない年。

2021年秋

たまたま2種が同時に開花した。開花条件はよく分からない。運が良かった。
このチャンスを見逃さず交配をした。開花したばかりのヤブミョウガの花の雄蕊を切除して、雌蕊にマーブルベリーの花粉をつけていく。
植物の中でも人気の園芸品種は交配手順が確立されている。だけどこの植物を交配しようという人は少なすぎて交配方法の情報が全くない。何時に開花するのか、どのタイミングで雄蕊を取り除いて、どうやって受粉させるのか。手探りで色々と試してみるしかない。
こんな交配を試みている人間は地球上で自分一人かもしれない。そんな優越感と心地の良い孤独感を味わいながら作業を進める。
受粉作業をしてしばらくすると実が膨らんできた。

ヤブミョウガの膨らみつつある実

実が熟すのを待って割ってみた。なんとたった2粒の種が採れた。(通常だと1つの実に10粒以上の種ができる。)
貴重な2粒。

2022年春

種を蒔いた。芽が出るまでソワソワしながら水をやっていた。
芽が出た。良かった。次の心配は、これが本当にマーブルベリーとヤブミョウガの交配種かという点。マーブルベリーの花粉で受粉させたつもりでも、自家受粉したただのヤブミョウガの種かもしれない。しばらく育てて、二つの植物の特徴を併せ持っているかを確認できるまでは安心できない。

Pollia japonica × Pollia condensataの芽

2022年夏

大株になってきた。葉っぱを見るとヤブミョウガよりは大きく、丸みを帯びているように見える。マーブルベリーの特徴が入ってる?と期待が膨らむ。

Pollia japonica × Pollia condensataの葉

そして夏の終わりから花芽が出てきた。この花は明らかにヤブミョウガのものとは異なる。交配は大成功だった。

Pollia japonica × Pollia condensataの花

命名:Pollia japondensata

おそらく世界で初めて、ヤブミョウガ(Pollia japonica)×ポリア・コンデンサータ(Pollia condensata)の属間交配種を作り出した。名前は"Pollia japondensata"(ポリア・ジャポンデンサータ)と命名した。

これからの育種の流れ

とりあえず新品種の植物を作り出した。でも求めている形質を持った植物を作るにはこの株から種を取って、それを無数に育てて選抜していく。育種が遺伝子ガチャだとしたら、種というガチャ玉を生み出すガチャマシーンを作ったのが今の段階。これからひたすら種を採って、蒔いて、ガチャをしていく。
目的の植物を選抜できるまでは早くても1〜2年かかるだろう。もしかしたらもっともっと時間がかかるかも。それまでミコちゃんは元気にアイドルしているだろうか。自分は変わらずミコちゃんを推しているだろうか。気の長い計画だ。
もし青い綺麗な実の採れる植物を選抜できたら「Mico Blue」という名前をつけてプレゼントしたい。そう考えていた。

咲かない花

これから頑張って種をまいて選抜していこうと思った矢先、想定外の事が起こる。花が蕾のまま一向に咲かない。蕾のまま萎んでいく。実が出来る気配もない。実ができないと当然種も採れない。詰んだ。

Pollia japonica × Pollia condensataの萎んでいく蕾

そもそもマーブルベリーとヤブミョウガの花の形状は大きく異なっている。この2つを掛け合わせても上手く機能する花が出来上がる保証はない。遺伝子のみぞ知る世界。
種間交配よりも属間交配の方が遺伝的な隔たりが大きいから、こういう問題は起きやすいらしい。

マーブルベリー(Pollia condensata)の花
ヤブミョウガ(Pollia japonica)の花

とある映画で松田龍平が言ってたセリフが思い浮かんだ。

先生、咲かない花もあるんじゃないですか・・・?

映画「青い春」

咲かない花がここにあったよ。
世界にひとつだけの花は作り出せた。でもその花は咲かなかった。「咲かない花」をアイドルの子にプレゼントするのは縁起でもない。

ここで3年かけた育種計画はストップ。これからも種が採れるように色々と試してみるけど、多分難しいだろう。とりあえずはこんな計画があって、こんな進捗だったよという報告まで。
ミコちゃんに新品種の植物をプレゼント出来ないのは残念だけど、誰もやっていない新しい事に挑戦したらいくらでも壁にぶつかるものだ。日の目を見ずにボツになった創作物や計画は世界にたくさんあるし、物を作るタイプのミコちゃんはきっとそんな時の気持ちも分かってくれるだろう。
ミコちゃんを推していればこんな結末も救われるなと思った2022年秋。
ファイヤー!🔥


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