行進曲じゃないんだ、「湖畔の宿」は
『たかがハーモニカ、されどハーモニカ 』
第2回 行進曲じゃないんだ、「湖畔の宿」は
中学、高校とブラバンに在籍し、異なった音やリズムが一つに合わさってできる音楽の楽しさを知っていた。
一人ハーモニカを吹くのも楽しいが、気の合った仲間とアンサンブルするのはもっと楽しい。
そんな動機から、僕が大矢博文先生を講師に立ち上げた複音ハーモニカ講座や10ホールズ講座の仲間3人を誘って、カルテットをやることにした。
もうかれこれ四半世紀前のことだ。
僕がコードハーモニカ、バスはリズムのいい10ホールズ仲間の女性。
二人ともアンサンブルハーモニカは初めてだった。
メロディパートの第一と第二は複音講座を終えた二人に。
いざ、何か合奏でも!
だがアンサンブル譜は岩崎重昭先生の曲集2、3冊。他にソフトは見当たらない時代だった。
そんな折、大阪在住だった宇佐美進さんが編曲した「湖畔の宿」と「あざみの歌」がピースで発売された。
別売でカセットテープがあり、全体とパートの音源が収録されていた。
「これだ!」すぐさま僕たちは飛びついた。
まずは「湖畔の宿」。何回か練習を重ね、大矢先生に「聴いてください」と願い出る。
演奏を終えて先生の顔色を伺う。
僕たちは一曲仕上げられた気分で有頂天だった。先生は無言で口を閉ざしたままだ。
そのうち「うん、これは〈湖畔の宿〉行進曲だな」。ボソリとそう言った。
僕たちは行進曲など吹いたつもりはなかった。
先生の言葉には少しムッとした。けれどすぐに思い直した。
そうか行進曲に聴こえてしまうんだ。
その後、「湖畔の宿」はバスもコードも「ボンボン」「ザッザッ」とやらず、「ボン〜ボン〜、ザーザー」と丁寧にしっとりした音楽の表情に作り直した。
(2019.7 ハーモニカライフ85号に掲載)
岡本吉生
-Profile-
日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。
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