第二十三回 書き出し祭り 第一会場感想
はじめに
戸松秋茄子です。今回は第三会場に作者として参加しています。好きな動物は猫。得意なことはまた今度話すとして、苦手なことは運動と褒めることです。
評価項目について
実験的に、評価項目を設けました。それぞれ5段階評価で★の数が多いほど高評価となります。
ヒキ:とにかく次の1話を読みたいと思わせる力。
読み易さ:そのままの意味です。
描写:作品世界の表現力。
構想:作品全体として期待できる要素、オリジナリティ。
充実度:1話単体で見たときの内容の充実度。
固有評価項目:作品それぞれに設けられた独自の評価項目。
1-01 最凶魔王の弟子になりまして
世界観が独特な作品でした。その分、説明に多くの文字数を割く結果になっているのは少し冒険的でしょうか。設定そのものは、勇者と魔王の契約とその裏切りを描いていて、飽きさせないものになっていたと思います。やっつけのように出てくる美人の嫁がこの手のジャンルのノルマ消化ギャグっぽくて好きです。とはいえ、この1話内で面白ポイントを消化しすぎてて、次話以降また新たなセットアップが必要になりそうなのは少し悩ましいところです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★★
汚い魔王様汚い★★★★★
1-02 淫魔の子を身ごもりました
愛されたい、と願う主人公。婚約者にも冷遇されている――というのはどうも主人公の思い込み(であり、婚約者の言葉足らずが原因)であることも示唆されており、愛を与えてくれる淫魔が婚約者と同一人物ではないかと思わせる作りになっているのが構造として面白いところです。主人公は脱出を試みるようですが、物語上の真の目的は両者の間にある誤解を解くことになるのではないでしょうか。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
不思議と暖か★★★★★
1-03 さよなら、北極星の花唄(うた)
祭りの描写がいいですね。そこから、本筋となるボーカルの復活へとつなげ、ばらばらだったメンバーが集結、祭でのパフォーマンスを企図するという流れを1話の中でやりきっています。演奏こそ伴わないものの、歌詞という形で音楽要素を表現しているのもうまいところです。また、自殺の動機が大きな謎となっていること、別れが約束されていることがドラマチックな展開を想像させ、書き出しとして密度が高い1作でした。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
オサレ★★★★★
1-04 君が望む嘘を1つだけ叶えよう
これはまただいぶ変化球ですね。特殊な設定に基づく、アイディア博覧会的な構成はプロローグとして全然ありな内容だったと思います。どの嘘が選ばれるかで今後の展開が大きく変わってくるでしょうね。おそらく、読者が望む嘘は一択でしょうが……
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★
構想★★★★
充実度★★★
虚言にも程がある★★★★★
1-05 俺と猫又彼女とリフォームライフ
これが猫の恩返し! ですかね。タイトルやあらすじから、本筋であろうことが期待されるリフォーム要素にたどり着かなかったのが気になる所です。ただ、あくまで「美少女化した元愛猫とのスローライフ」が本旨であるなら、こういう出だしでもいいのかなあと。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★
寒暖差★★★★★
1-06 たのしいカードゲーム
「たのしい」カードゲームとは……? どっちかというと、カードゲームをゼロから作るというところが重要で、SF的な設定はその要請から生まれたものなのかなあと。きちんとゲームのコンセプトの一端が示されて終わったのがよかったです。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★
構想★★★★
充実度★★★
負けられない戦い★★★★★
1-07 きっと月の子供たち
主人公である少年の主張が程よく独特で、程よく共感できるものだったのがよかったかなと。題材だけなら現代ドラマでも成立しそうですが、SF的な設定を導入することで程よい軽さと言いますか、エンタメ的な求心力を生んでいるように思います。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★★
達観★★★★★
1-08 十八禁乙女ゲーム転生 〜その性癖はいりません!〜
この種の設定を何重にもひねってるのが印象的でした。逆婚約破棄! フライング! ゲーム主人公もなんか聞いてる話と違う! なんかもう1話の時点で原作のげの字もなくなってきてるように思いますが、どうなるのでしょうか。全年齢版として連載するのであれば、十八禁要素をいかに回避していくのか、というところも読みどころになりそうです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★★
寸止め★★★★★
1-09 胎動
これも凝った構成。2話以降は助手の視点が主になるんでしょうかね。絶対、なんか人ならざるものを孕んじゃってる気がします。孕んだのも、恋人などではなく友人本人なのでしょうね。生まれ落ちたその人ならざるものがまた新たな被害を生み出していくのでしょう。助手さんもなんか危ういですね。と、この書き出しだけでいろいろと予想できてミステリとしてすでに楽しい内容でした。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★★
不気味さ★★★★★
1-10 光なる皇帝の愛した娘
落ち着いたテンポの書き出しでした。あらすじの展開には全然たどり着いてないんですが、先の展開を予感させる不穏さは十分に伝わってきたと思います。とはいえ、構成やシーン選択の工夫によってもうちょっと情報の密度を上げることはできたかなあと。個人的には2人の農村時代の描写がもっとほしかったです。
ヒキ★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
こんなに一緒だったのに★★★★★
1-11 AIとの踊り方
いいですね、価値観の衝突。現代社会での議論を想起させるやりとりが展開されますが、少なくとも、この作品世界においては主人公側の主張に分があるように見えます。そう感じるように、作者さんが慎重に読者の意識をコントロールしていように思いました。最初の、社長の主張が梯子を外されるシーンもそうですが、そもそも、この作品がAIである主人公の1人称である以上、AIが自我を持っていることは読者には自明なことなのですよね。ひとまずは社長の身に何が起こったのか、という謎とサスペンスを中心に展開していくのでしょうか。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
価値観の衝突★★★★★
1-12 桜が舞う日
あらすじ通りミステリでしたね。現在の事件と過去の事件の関係性、怪しさ全開の研究所とフリースクール、失われた春樹の記憶など、心惹かれる謎が散りばめられていました。ただ、それだけに駆け足気味といいますか、強弱がいまひとつはっきりとしない、さらさらとした書きぶりが少し気になりました。シーン数も登場人物数も文字数に見合わず多すぎるのですけど、ここまで見せたい、というのは何となくわかるので悩ましいところです。構成や文体のレベルで工夫が必要な内容だったかもしれません。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
このフリースクール何か変★★★★★
1-13 落花流水 ~その運命は必然~
なんとなく、文章の波長が自分と近い気がして、勝手にシンパシーを覚えたりしました。詩的でリズムのある文章で、地の文主体なのですが、関係なくごくごくと、それこそ水のように飲みこめました。それだけに「ライトノベル」という単語に異物感を覚えてしまったのですが……
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
おいしい文章★★★★★
1-14 マイラ・スタイラの音箱
奇妙なお店もの、とでも言うべきある種のフォーマットで書かれた1話でした。この手の作品は4000字にまとめるのがなかなかにむずかしい気がしていて、座組の紹介と1話完結のドラマを両立させるには相当シビアな文字数管理が求められる気がしています。言葉を選ばずに言うと、わざわざ1話の中で無理をして完結させるような内容ではなかったのではないかなあ、と。基本の設定は面白いのですが、その魅力を伝えるための最初のエピソードとして少し淡泊と言いますか、もっとじっくり描いても(描こうとしても)全然よかったと思います。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
1話完結度★★★★★
1-15 使い魔ネモは今日もあくび~千年魔女と現代ダンジョン~
なかなかにひねくれた設定でしたね。異世界から現代への転生ものはいくらでもあるのでしょうが、そこにいわゆる現代ダンジョンの要素が入ってくること、また、若返りの要素があること、使い魔の視点であることなどが加わり、独自の作品世界を形成したように思います。同時に、差し迫った危機設定とその解決方法がきちんと提示されているのは書き出しとして好ましいところです。うまくやれば、現世転生ものの良さとファンタジーの良さを両取りできるでしょう。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
苦労猫度★★★★★
1-16 おじいちゃんは龍神様
キャラ紹介に振った書き出しでした。孫とお爺ちゃん、神様と人間、ボケとツッコミ――そんな凸凹コンビをうまいことそれぞれのキャラを立てて描いていたように思います。コメディでしょうから、ここからどうとでも展開させられそうです。
ヒキ★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★★
凸凹爺孫★★★★★
1-17 今夜、親の仇に嫁ぎます
ドアマットですね。村人がアレすぎて、親の仇という要素がちょっとどうでもよくなってる気がするのが悩ましいところ。復讐→弟の身の無事を願うというミスリードが一文ではじまってその文章で終わってしまうのももったいない気がしました(ここだけ神の視点っぽくて文章としても浮いてますし)。もっと積極的に「復讐のため生贄の立場を利用する主人公」というようなミスリードがなされていた方が親の仇という要素もいかせたかなあ、と。なんなら、復讐心もあるけど、最終的には弟の無事を優先するという方が主人公に人間味が感じられて個人的には好みでしたかね。あくまで個人的な好みの話ですが。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
健気★★★★★
1-18 キャンディー・キャンディー
たぶん人生で使うことがないであろう英文のやり取りにクスリとさせられました(笑っていいとこですよね?)。書き出しの時点では、ループを終わらせることよりも、悔いの残る高校生活をやり直すという方が主目的になってますが、想い人と結ばれたところでまたループする可能性もあるのでは? と勝手に気を揉んでいます。とはいえ、そもそも想い人と結ばれるのもそう一筋縄ではいかなさそうなのですが。注文を付けるなら、もうちょっとこの作品ならではという要素を見たかったところです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
無限ループって怖くね?★★★★★
1-19 少女、のちに魔術体系を変える。
Web小説のフォーマットで書き慣れた人の作品だなとは思うのですが、それだけに、髪の長さと魔力量が比例するという独自性を持て余していた気も。タイトルにも髪の要素ないですし、そこまで重要じゃないのでしょうか。とはいえ、メイン2人の掛け合いや、陰謀を感じさせるストーリーは安定した面白さを感じさせるものでした。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
丸刈り妥当★★★★★
1-20 敵は本能寺に、あり?
いちおう理のある人選だったと。主人公が歴史を嫌う理由が嫌な感じでリアルというか、理のある反論をしてもあんまり話が通じなさそうな感じなので、ヒロインには同情する限りです。ただ、そうした部分に変化が訪れる話であろうことは想像に難くないので、一つの問題設定として見守りたいところです。少なくとも優秀なことには違いないでしょうし、歴史オタクにはない視点から解決策を導き出してくれるかもしれません。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
こまっしゃくれ度★★★★★
1-21 落日の大地に響く時の鐘 ~紫の姫と銀の盾~
主人公格2人の紹介に振った書き出しでした。もうちょっと読みたかったですね。あらすじが凝っていて好きなのですが、本編とあらすじのどちらかで序盤の展開を示唆する要素がほしかったかなあと。そうでないなら、とにかく世界観、あるいはキャラクターで殴る書き出しとして選択と集中を行う必要があった気がします。
ヒキ★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
ノブレスオブリージュ★★★★★
1-22 サクラバ・センチメンタル
ブツとは何なのか、主人公の過去に何があったのか、最後に出てきた男は誰なのかなど謎が多い作品でした。バリバリヤクザの言動でしたが、不本意でやってるんですね。そのメッキが剥がれる感じがよかったです。ただ、最後のシーンがちょっと窮屈でぶつ切れになっている感がしますし、文章構成としては洗練の余地があるように思いました。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
主人公の演技力★★★★★
1-23 幼馴染みしか勝たん!~いつしか疎遠になった僕と彼女は、異世界で絆を育む~
起こってることけっこうハードなんですよねえ……いきなりのスクールシューティング(シューティングじゃない)といい、異世界でヒロインが晒される危機といい。主人公もなんか力に溺れたりしませんか、これ。最後のおじさんはいかにもヤバそうなので青年が言う「冒険者」じゃないのかなあ、と。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
ちょっと背徳感★★★★★
1-24 今日もなんだかんだ生きている
予想の斜め上の設定でした。SFやメタフィクションの要素が絡んで、思いのほか複雑な構造の話になりそうです。田中実っていうのは、全国で最も多い名前らしいのでその辺も「標準的な日本人」として意識したネーミングなのでしょう。とりあえず、異文化交流の可笑しさは期待できそうですが、それ以外が全く未知ですね……
ヒキ★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
予測不可能度★★★★★
1-25 亡き王女のためなどではないクソッタレのレクイエム
これだけ殺しといて自分の人生がどうのと言えちゃう面の皮の厚さが印象的でした。主人以外は本当にどうでもいいんだなあと。この後の展開として、タイトル通りゴキゲンで不謹慎な話として一貫するのか、真っ当に自分の人生を取り戻したうえで落とし前を付けることになるのかが気になるところです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
倫理に中指★★★★★