第二十三回 書き出し祭り 第三会場感想
はじめに
戸松秋茄子です。今回は第三会場に作者として参加しています。好きな動物は鳥。得意なことはまた今度話すとして、苦手なことは作文と褒めることです。
評価項目について
実験的に、評価項目を設けました。それぞれ5段階評価で★の数が多いほど高評価となります。
ヒキ:とにかく次の1話を読みたいと思わせる力。
読み易さ:そのままの意味です。
描写:作品世界の表現力。
構想:作品全体として期待できる要素、オリジナリティ。
充実度:1話単体で見たときの内容の充実度。
固有評価項目:作品それぞれに設けられた独自の評価項目。
3-01 片ロール令嬢のドリルは伊達じゃない
出たー、パワー系。タイあらの時点で、「あ、これは強い」と思ってました。会場1番目を引き当てたのも持ってますね。こんなのを会場一発目に持ってこられたら同じ会場の参加者としてはたまったものじゃないです。何が偉いって、終始登場人物はド真面目なのが偉いです。真面目に不真面目。悲劇は遠景で見れば喜劇とはこのこと。お馬鹿な設定はド真面目に徹してこそ輝くのです。誰がやったのか、というミステリ要素があるのも個人的に期待大です。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★★
真面目に不真面目★★★★★
3-02 宵闇に焦がれて
ハードでしたね。前振りとして主人公が不幸な作品というのは多いんですが、この作品の場合、前振りどころか抜け出すのがだいぶ厳しそうな感じです。閉塞的な舞台設定も含めて、その辺りの絶望感がよく伝わってくる内容でした。ヒロインの存在も主人公の状況を抜本的に改善してくれる存在ではありませんからね。それがこれからどうなるのか、やはりハードな展開が予想されますが気になる所です。欲を言えば、あらすじだけではなく、本編で先の展開を示唆するような要素がほしかったですかね。世界観説明のタイミングに迷われた形跡が見えます。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
闇の中の光★★★★★
3-03 ルチーナは真実を知りたい~育ての母は無実の罪で追放された悪役令嬢でした~
この作品もタイあらの時点で注目していました。悪役令嬢ものを、当事者以外の視点から描くという発想に興味を引かれたのです。この構造ってとってもミステリ的なんですよね。ミステリっていうのは、言ってしまえば、メタ的なストーリーテリングなんです。当事者ではなく、探偵という部外者の視点で事件の内情を再構築して物語るジャンルなので。内容としては、喪失に沈む主人公が立ち上がるまでの過程をヒーローとの出会いやアクションを絡めて描いているのがうまいところ。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
真実を知りたい★★★★★
3-04 猫になる。君の心まであと少し
独特な設定のミステリですね。青春パートの複雑な恋愛模様に、猫シミュレーターというSF要素、それにポップアップしてくるミステリ要素。おそらく、猫視点から自らの死の謎を探るという流れになるのでしょう。その過程で複雑な恋愛模様にもまたスポットが当たっていくはずです。独自の要素が単なるアイディアの羅列ではなく、そうした構造がこの書き出し時点で読み取れるのが見事でした。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
人間関係拗れてそう★★★★★
3-05 魔法少女コノハラズリ☆スプリングのいない街
年齢設定的に襲名制なんですかね? あるいは不老不死? 魔法少女の正体を知ってから読み返すと、親友の立場を察して何とも言えない心情になります。主人公の言動がそのまま魔法少女の活動休止に説得力を付与しているのが見事です。親友を守るため戦いの場へと戻ってきた魔法少女ですが、一方で、守れなかったものもあり……と、妹の存在が効いた書き出しでしたね。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★★
お労しさ★★★★★
3-06 ガラスの靴のディアマンティーノ
異世界ものですが、同時に、魔法少女ものの文法に則った書き出しだったように思います。どこぞのQ■よろしく無害な面をしたマスコットではなく、最初から悪魔を自称する相棒と利害の一致からパートナーシップを結ぶという展開がいいですね。ただ、妹の存在感が終始希薄と言いますか、主人公との顔合わせのシーンもけっきょく描かれてないので主人公のモチベーションが少し説得力を欠いていたかなと。会ったばかりでよく知らない妹への庇護欲をこじらせたやべー主人公像とかならわかるのですが、内向的で落ち着いた子なのでストレートに妹の描写を増やすしかないかなと。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★★
メルヘン★★★★★
3-07 黒幕ムーブは降りれない~災厄の元凶と呼ばれた俺は今日も今日とて暗躍する~
ゲーム世界への転移、約束された破滅とお約束に沿った内容ではあるのですが、主人公が原作エアプ未満だったりやる気がなかったりと独自のひねりもありましたね。目的設定は明瞭であり、それができなかった場合のペナルティも明瞭。主人公がやる気になる流れを描いて1話単位の充実度もあり、いい書き出しでした。1人称なのですが、主人公の独白とナレーション的な文章を関西弁と標準語で区別しているのが面白かったです。これはこの設定ならではの工夫でしょうね。今後はアーテルとして振る舞うため外的には標準語で話しつつ、内心では関西弁で本物のアーテルと話すことになるのでしょう。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★★
くたびれ感★★★★★
3-08 昨日空が青かったから、ルカは世界を滅ぼすことにした。
これはうまい人の作品でしたね。LUCAとRUCAの対比、ロボット三原則を用いた演出が非常に印象的でした。いやー、かっこいい。少し駆け足気味にも感じますが、限られた文字数を適切に配分できていたと思います。選択と集中の勝利でしょう。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★
演出力★★★★★
3-09 鳥籠令嬢は幽鬼と踊る
古風な文字遣いや、田舎の屋敷、小鬼などといった要素がゴシックホラー的な雰囲気を醸成していたと思います。徐々に積み重なっていく違和感が後半に思わぬ形で回収される構成でした。ミステリ読みとして惚れ惚れするようなテクニカルさです。本筋としては、母の死の謎を探るミステリ的な展開となってくるのでしょうが、主人公や弟の言うこと頭から信用できたものではなさそうです。そうした部分も含めて不気味な書き出しでした。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
信頼できない語り手★★★★★
3-10 国内浄化ダーツの旅 ~放蕩第三王子一行の浄化ピクニック地は、必ず繁栄するらしい~
率直に言って、ダーツ要素を少し持て余している気がしました。この作品のログラインをまとめると、「放蕩王子がピクニックという体で国内各地を旅しながら秘かに瘴気を浄化する」となると思うんですよ。それで十分魅力的ですし、実際楽しいムードは作れてるんです。つまり、ダーツがなくても成立すると言いますか……「ダーツの旅」というフックを作るためだけに、主人公がダーツを投げさせられている感がしたのですね。たとえば、(主人公の能力だけで全てを説明するのではなく)ダーツが何らかの神意を示すものであるといった設定があればまた印象が違った気がします。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★★
充実度★★★
汚名の不本意度★★★★★
3-11 おとうとに会いに行く
現ドラですね。不在ながら弟の存在感がすごい。限られた空間の、2人だけのやり取りで進行するのですが、2人の間に存在する弟というミッシングリンクが明瞭に浮かび上がってきます。こういう描き方大変にすこです。長編とするなら、どんだけ弟見つかんないんだよ! と突っ込みたくなるような展開になるのでしょうか。行く先々で人助けして寄り道しまくってるとか。苦労人な主人公の珍道中が期待できそうです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
無鉄砲度★★★★★
3-12 9年12組Z番 上田莉奈さんの生態調査部。
粒揃いの与太がマシンガンのように打ち出される書き出しでした。そして、その最後に満を持して登場する真打、生態調査部。このタイトル回収演出が非常に印象的でした。これだけでこの作者さんの手腕に信頼を寄せるには十分ではあるんですが、欲を言えば、冒頭の示唆的なシークエンスに本旨となるであろう上田莉奈に関する仄めかしもほしかったですかね。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★★
与太話★★★★★
3-13 紫紺の瞳は闇を視る 化け込み記者・長月千代子の大正あやかし事件録
座組紹介系の書き出しでした。ただ、良くも悪くも化け込み記者という設定の求心力が強すぎるので、作劇上の都合とはいえそこにファンタジー要素を持ち込まれると面白さのピントがずれると言いますか、その組み合わせを魅力に転化するにはあまりに要素が多くゆとりがない書き出しだったかなあと。こういうことをやります! っていうのはそれはもうビンビンに伝わってきたんですが、それが面白くなるという確証までは得られなかったと言いますか。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
大正浪漫★★★★★
3-14 限界領主と化け物召使い
これまた座組紹介系。自分も第三会場なのでわかるんですが、第三に振り分けられる作品って締め切り前日から当日の早い時間くらいに提出されてるんですよね。つまりあんまり余裕がないんです。何が言いたいかというと、余裕がなかったのかもしれませんが、せめて、あらすじがほしかったなあと。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
意外と残酷★★★★★
3-15 恐怖! 祠人間
設定とその見せ方は面白かったのですが、長編の書き出しとして見るなら、息切れしないだろうかと心配にもなります。とはいえ、いい意味でB級ホラーの雰囲気作りはできているのでどうとでも展開させられるのでしょう。祠人間並みのトンチキを連射するのもアリですし、しっかりしたホラーミステリーを展開して意表を突くのもアリですね。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★
B級ホラー感★★★★★
3-16 アトロポスの鋏
現実のミス研はどうか知りませんが、フィクショナルなミス研描写として「これこれ」というものを提供してくれた書き出しでした。「ミス研」ならではの凝った設定、それを元に起こる事件と、ミステリの書き出しとして期待が持てる内容でした。
以下、少し突っ込んだ考察ですが、この書き出し、前半が3人称で後半が1人称なんですよね。ただ、これ実は前半部も僕の1人称なんじゃないかと睨んでます。というのも、この作品、登場人物それぞれにわかりやすい口調が設定されてるじゃないですか。おかげで誰が喋ってるのか一目瞭然なんですが、一方で、くどいほど丁寧に台詞の発言者が誰かってのを明記してるんですよ。これが怪しくてよく観察すると、一部、発言者が明記されれていない箇所があるんですよね。口調的に、消去法で『建築家』の発言っぽいんですけど、もしもここに隠れた5人目――つまり「僕」が同席しているなら話が変わってきます。発言者は5人目の同席者「僕」だとも考えられるんです。で、このトリックの意図は何かというと、「僕」=『建築家』というミスリードを誘うためだと思うんですよね。それ以上のことはわかりませんが、犯人が『建築家』であるなら視点人物=『建築家』というミスリードは強力な煙幕になるでしょうね。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★★
充実度★★★
ミス研の人たちっていつもそうですね★★★★★
3-17 雨の中、路地裏書店、恋の頁
現代もので、言ってしまえば地味な設定なんですが、ロマンチックでしたね。一目惚れズキューンって感じでもないですし、リアリティライン高めの、落ち着いた雰囲気の恋愛小説になりそうです。「スロー」であることが弱点になる作品ではないでしょう。主人公の語りも硬すぎず砕けすぎず、程よい抜け感があってよかったです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
初々しさ★★★★★
3-18 「推ッ忍ッッ!!!」萌えよッ!キュン死郎伝説ッッ!!
このテンションで長編を? と、長期的な展望がいまひとつ見えないのが不安になる書き出しでした。1話時点で「海賊王になる」とかそういうわかりやすい目的設定があれば良かったかなあと。その辺、どんなハッタリでも許される世界観ですし。
ヒキ★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
勢い★★★★★
3-19 【速報】十年後の世界から来た俺が、何故か「美少女」で「勇者」だった件!
馬鹿もん、そいつが魔王だ! 魔王がなんだって主人公自身と名乗ったのかが気になるところです。主人公が単純だったからよかったものの、メリットが見えない……その辺、もうちょっと明確な危機設定があった方が展開に説得力があったかもしれません。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
聖女様かわいそう★★★★★
3-20 雄弁な子どもたちは沈黙する
うーむ、謎です。謎が多い。愛が鍵を握っているのは間違いないですが、彼女の真意がまるで見えない。榊瞳との関係性も謎ですね。しかもその因果の糸が、どうやら世代を跨いで紡がれていくようです。いまのところ何が何だかですが、複雑に絡んだ因果の糸を解きほぐしていく重厚なヒューマンミステリーになりそうです。
ヒキ★★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
因縁★★★★★
3-21 となりのサキュバス~JKでもオトナの小説で世界を取りたいです!~
メジェド様って初めて知りました。どう見てもコラにしか見えない壁画って何? それはともかく、もはや一つのジャンルなのであろう、高校生がオトナの小説で一花咲かせようとする話ですね。主人公の情熱と、メジェド様(ではない)の知識?が組み合わされば無敵!なのでしょうか。終始、現在視点でメイン2人のやり取りが展開されるという構成なので、ここから2人のバックボーンが見えてくると一層、物語に入り込めるかもしれません。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
初期衝動★★★★★
3-22 声の波間をおよいでく
地の文中心ですが読み易く、展開としても程よいテンポに感じました。歌うことが重要な位置を占めるのであろうことがなんとなくわかる書き出しで、冒頭で主人公と対比されるシンガーのように音楽界でスターダムに上り詰めていく、という話ではないのでしょうが、歌うことが彼女の人生にとって意味のある営みとなっていく、そういう話になる予感がします。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★
等身大★★★★★
3-23 ユーフォリアに感傷を
主人公の内向性を反映するかのような、地の文多めの内容でした。文章がやや単調で、削ってもいい主語がごろごろ転がってるのは気になりますが、表現しようとしているものは伝わっていると思います。死者の痛み、悲しみ、それに寄り添える主人公の優しさ。主人公が見た世界は死者の魂そのものとのことで、今後、いろんな形の世界、魂を見ることができるであろう点は期待できます。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★★
構想★★★
充実度★★★★
優しさの表現★★★★★
3-24 伝説の戦士、再就職する
タイトルが無個性すぎますかね……。主人公が活躍できるビジョンが見えないのですが大丈夫でしょうか。正直、もうちょっと絞れたのでは? という内容だったのでその辺、期待が持てる描写がほしかった気も。このままでは生徒に「あの人あんま強くないよね、昔は強かったってやつ?」とか言われそうです。
ヒキ★★★
読み易さ★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★
ロートル描写★★★★★
3-25 鬼崎君と見えちゃう私
まさかの祠壊し被り。ほのぼのしてるようで、鬼崎君の乱暴なまでの強さや「鬼狩り」といったワードから、ダークな要素も見え隠れしています。メイン2人の関係性は魅力的ですが、この先の展開にある程度示唆があった方が期待感が明瞭になったかもしれません。果たして、ほのぼのなのか、ダークなのか。ヤバい事件がどの程度ヤバいのか、どういう方向性にヤバいのか気になる所です。
ヒキ★★★
読み易さ★★★★
描写★★★
構想★★★
充実度★★★★
鬼崎君よかったね★★★★★