パスパルトゥーの青い夢:クリスチャン・ラッセンの思い出
商業作家としての成功を収めたパスパルトゥーでの体験は、 私に一人の画家にまつわる記憶を思い起こさせた。
クリスチャン・ラッセン 。
幻想的に輝く水飛沫、美しい流線形で生き生きと描かれるイルカの姿。
誰にでもわかりやすい題材、誰の目にも美しい色彩。
そして画家本人もハワイのサーファーという、日本の若者の憧れが詰まった響きが彼をさらに神格化させたのか、
ラッセン の作品は、世界的に見ても日本での熱狂が顕著だったと聞く。
そんなラッセンが「美術に関心を持たない人々が好む画家」と評されていることを私が知ったのは、それなりの年齢になってからだった。
私の中でラッセンという人物は、
物心つく前から自宅のリビングに飾られていて、
食卓につくたび視界に入れた、
「あの絵」の作者としてのイメージしかなかったからだ。
そしてその絵が、高校卒業後スーツの代わりに作業着を着て働きはじめ、休日はサーフィンに明け暮れる父が飾ったものであることが、 まさしくラッセンとそれを好む人々に向けられた厳しい視線の先にあるものだったことも知った。
単なる偶然か、 売れる絵の真実か。
パスパルトゥーで私が売れる作家であり続けるために描いたのも、ラッセンと同じ、群青から水色を中心に使った、海を連想させる絵ばかりだった。
あなたのパスパルトゥーは何を描いただろう。
最初から最後まで、特に苦しむこともなく好きな絵を描き続けたなら、 あなたは美しいものを愛し、人々から求められ、豊かな人生を楽しんだことだろう。
所持金が底をつき画家人生を閉じたあなたは、単に画家としての才能がなかったのかもしれない。
...あるいは、ゲームオーバー後の世界で遺した絵に対する評価が爆上がり。
後世に巨匠として名を馳せる、ゴッホの人生をなぞったのかもしれない。
青い絵を描き続け、富を築いたパスパルトゥー。
彼は薄暗いガレージで筆を手にしていたあの頃、どんな夢を思い描いていたのだろう。
美術館帰りの私に「そんなとこ行って何が楽しいんだ」と問いかけてくるくらい、美術品に興味のない父。
その父がわざわざ自宅の壁に飾ったラッセンを、 私はどうしても嫌いになることができずにいる。