#1 YOUR SONG IS GOOD 『YOUR SONG IS GOOD』(2004) | チョー気持ちいい年に発売されたチョー気持ちいいアルバム


──この投稿を恒岡章に捧ぐ──


 「この曲いいよ!」くらいな軽い気持ちでアルバムを紹介しつつ、どさくさに紛れてエッセイのようなものを書いていこうと思います。

 記念すべき第1回目の投稿では、そんな自分にぴったりな2004年にリリースされたこの一枚、YOUR SONG IS GOOD の『YOUR SONG IS GOOD』を紹介します。


YOUR SONG IS GOODのジャンルって何?(出会い編)

 まずは聴いてみてよ、ということで一曲目はアルバムから『UP!UP!』

 そうです、インストバンドですね。どうですか、このトロピカルでファンキーなグッドミュージック。「昼の旅番組で流れていそうな音楽ランキング」があればTOP10入りは間違いないでしょう。

 これ、ジャンルは何なのかっていうと大雑把にいうとカリブ音楽の亜種です。カリブ音楽はスカ、カリプソ、ルンバ、マンボ、チャチャチャなどですね。ここで少し怖い話をしたいんですが、このアルバム、当時はパンクの特設コーナーに置いてあったんですよ。

 たしか、POPに「伝説のパンクバンド《FRUiTY》のメンバーが新たなバンドで戻ってきた!うんぬん…」的なことが書いてあったと思います。当時の私は、FRUiTYも知らないのに何を思ったかジャケ買いをしたんですよね。そしてウキウキで家に帰って曲を聴いて愕然とするわけです。「なんか……思ってたんとちゃう!……しかもインストやん!」と。

 今ならわかるんですよ。パンク好きがパンクのアプローチでカリプソやったのね、The Specialsの2トーン的なノリでね、はいはいと。ただ、当時メロコアパンク村の村民であった私は、村民と言いつつパンクもよくわかってなかったですしカリブ音楽なんて知る由もありませんでした。

 とはいえ、実はそのころにはメロコアパンクに飽きかけていたというか、ジャンルが細分化されてなくてよくわからなくなっていました。Hi-STANDARD(通称ハイスタ)が好きでハイスタみたいなバンド探してるのに何か違う!いろいろ聴いてみたけど結局ハイスタの方が好き!みたいな。だからこそ、このちょっと自分の感覚にはないバンド名とジャケットに、新しい何かを期待したのかもしれません。

 それにしても、よくあんな田舎の小さな個人経営のCD屋に置いてあったものだなと思います。ユアソンも1stの翌年にはフジロック初出演(しかもいきなりホワイトステージ)ですから、本当に勢いがあったんでしょうね。また、あの頃のハイスタが巻き起こしたDIYなインディーズブームの影響も大きかったのでしょう。

YOUR SONG IS GOODのジャンルって何?(開き直り編)

  さて、ここで2曲目です。アルバムから『WALKIN' WALKIN'』

 アルバム唯一の歌モノ。気持ちのいいカリプソナンバーです。うろ覚えですが、歌がある親近感で一番最初に好きになった曲かもしれません。

 もう少しユアソンの話を。(今更ですがYOUR SONG IS GOODは通称ユアソン、もしくはYSIGって略したりします。)その後、なんだかんだ律儀にCDを聴きまくってファンになった私は、新譜を追いかけるようになるんですが、ユアソンを追いかけ始めたが最後、毎回「なんか……思ってたんとちゃう!」と狼狽するハメになります。

 と言うのも、1stアルバムの後すぐにメジャーデビューしたかと思えば、急にパンクに回帰してみたり、メジャー契約が切れたかと思えば、今度はスクエアなダンスミュージックに目覚めてみたり。挙句の果てにはバレアリックなDUBやらロックステディやらをやってみたりと、ジャンル過多とでも言うべき盛り沢山な変化を遂げていくんですよ。

 まあ、ジャンルなんて大した問題ではないんですよ。音楽は聴いてなんぼ、その曲にしかない心象風景があってなんぼです。強いて言えば、パンクな心意気とトロピカルなルーツ感を軸にして好き勝手に気持ちのいい音楽をやり続けている(今は)おじさんの集団です。どのアルバムも他に代えられない気持ちよさがあるので早く紹介したくてたまりません。

YOUR SONG IS GOODのジャンルって何?(こじつけ編)

 余談ですが、このアルバムが発表された2004年は、アテネ五輪での北島康介の「チョー気持ちいい」が新語・流行語大賞の年間大賞を受賞した年でした。そんな年に、カクバリズムという名もなきインディペンデントレーベルからチョー気持ちいい音楽がリリースされたんだけど、知らなかったらちょっと聴いてみてよという話でした。

 余談の補足。名もなきとは言っても、当時は、と言う話です。カクバリズムは、当初はユアソンの音源をリリースするために2002年に社長の角張渉氏によって立ち上げられたレーベルです。しかしユアソンのメジャーデビュー後も、星野源擁するSAKEROCKや二階堂和美、ceroなど音楽好きを唸らせるバンドを次々と世に送り出しす。まさに音楽の震源地と言っていい存在感っぷりです。

    個人的にはユアソンがメジャーデビュー後、パンク回帰してたころは少し離れてしまっていました。その後別のきっかけでSAKEROCKにどハマりしていき、カクバリズムというレーベルを認知したのはその時だったりします。そしてある時、ユアソンもカクバリズムであることに気づいて「え、うちお兄ちゃんいたの?え、私この人知ってる…」みたいなことになります(私の心の中が)。そのうちそんな話も書けたらなと思います。

 それでは最後に、アルバムから初期の大名曲『GOOD BYE』をフルでどうぞ。

 と、本来ならここで終わりにするところなんですが、どうしても書き残しておきたいことがあります。今年の初めに急逝したHi-STANDARDの恒岡章さんのことです。これを書くためにnoteを始め、ユアソンを取り上げたと言っても過言ではありません。よかったらもう少しお付き合いいただければと思います。

YOUR SONG IS GOODと恒岡章の話

 とはいえ、私はただのいちファンであり関係者でも何でもありません。ツネさんは亡くなる直前までユアソンのサポートドラムをしていました。ユアソンファンでありハイスタファンの私が見たツネさんのドラマーとしての凄さを、書き残しておきたいなと思いました。

 2022年はカクバリズムは20周年の年でした。20周年は大きな節目ですし所属バンドも増えたカクバリズムは、1年を通して複数回に分けて全国で20周年スペシャルライブを行っていました。


 カクバリズム20周年記念スペシャル
 22.04.09 Vol.01@東京 日比谷野外大音楽堂
 22.08.27 Vol.02@東京 よみうりランド遊園地
 22.08.28 Vol.03@東京 よみうりランド遊園地
 22.09.17 Vol.04@京都 磔磔
 22.09.18 Vol.05@京都 磔磔
 22.09.19 Vol.06@京都 磔磔
 22.10.30 Vol.07@仙台 Rensa
 22.11.05 Vol.08@大阪 なんばhatch
 22.11.06 Vol.09@名古屋 ダイヤモンドホール
 22.11.23 Vol.10(FINAL)@東京 立川ステージガーデン

 ユアソンはこの内Vol.01、Vol.07、Vol.08、Vol.09、Vol.10(FINAL)に出演していました。私はVol.01、Vol.03、Vol.10(FINAL)に参戦し、Vol.01とVol.10(FINAL)でユアソンを観ることができました。


 ユアソンはと言うと、コロナ禍はオリジナルメンバーであるドラムのタナカ "ズィーレイ" レイジさんが、諸事情により(公式発表)活動を休止していたため、バンドがストップしている状態でした。そんな折、様子を見かねてツネさんが「自分で良ければ」と声をかけてくれたそうです。

 そうしてツネさんのおかげで再び動き出せることになったユアソンは、Vol.01(通称キックオフ)の一番バッターとして登場します。その時の、まさに1曲目のライブ映像がカクバリズムのYouTubeにアップされてますので紹介します。

 春の昼間の一発目でこれ、最高でしょう。4thアルバムの『THE LOVE SONG』という曲をリアレンジしたバージョンになります。この日は6バンドが出演する長丁場のイベントだったので、トップバッターのユアソンは全体的にゆったりとした演奏でした。終始、気持ちよかった…

 中学生の時に好きな女の子にHi-STANDARDの『MAKING THE ROAD』を借りてからというものバンド音楽に目覚めた私ですが、この時初めて生でツネさんのドラムを聴くことになります。(ハイスタを知った時には活動休止していましたし、AIR JAM 2011で復活したときはストリーミング配信を噛り付くように見てDVDまで買っちゃうくらいにはずっと大好きなんですが、ハイスタのライブには行けてなかったんですよね…本当に悔やまれる…)

 そしていざ初の生演奏の感想はと言うと、懐が深いというか、スケールの大きいドラムを叩くんだな、と。さすが、インディーズながらスタジアムを超満員にしてしまう伝説のバンド、Hi-STANDARDなんていう、どデカい看板背負ってるだけあるな、などと思いました。(生意気でごめんなさい💦あの時の俺!こら!)

 何より、bonobosを脱退したパーカッションの松井さんがユアソンに合流してきた時もそうでしたが、好きなバンドマンが好きなバンドに合流してきた時のサプライズと嬉しさったらなかったです。今回は若かりしときにバンド音楽の目覚めと田起こしをしてくれた、ツネさんとユアソンですから、ここで繋がるんだと、自分事のようにしみじみしてしまったのを覚えています。


Vol.01(通称キックオフ)のセトリ
  01. The Love Song(Inst Steady ver.)
  02. We're not to blame(Babadu cover)
  03. Double Sider
  04. Mood Mood Pt.2
  05. On


 キックオフの後、ユアソンはツネさんをサポートに迎えたスペシャル編成で、「森、道、市場 '22」や「THE CAMP BOOK '22」「FUJI ROCK FESTIVAL '22」「sea of green '22」など、全国のフェスにも参加していきます。

 この内のいくつかはライブ映像がYouTubeにアップされていますね。フジロックは、レーベルメイトの思い出野郎Aチームが、メンバーのコロナ感染により急遽出演できなくなり、そのピンチヒッターとして出演していました。ピンチヒッターなのにツネさんも当然のようにスケージュールを合わせているというね。

 曲は今のユアソンがライブのここぞという場面で必ず演奏するキラーチューン『On』。特に6:10~は必見でしょう。無念の出演キャンセルとなった思い出野郎Aチームの『楽しく暮らそう』をマッシュアップしてこの日だけの特別アレンジ。急遽なのにVJまでしっかり作って来ちゃって、ツネさん含めみんなニヤニヤしながら「仕掛けてやったぜ!」感が最高です。

 そんなこんなで、臨時編成とはいえ8ヶ月でバンドとしてヴァイブスをバッチリ調整して来たユアソンと、私はVol.10(FINAL)で再び相見えることとなるわけですが…… Xで一部分だけですけど見てくださいよ、この仕上がりっぷりを。

 月並みな表現ですけど、本当に最高でした。このカクバリズム20周年記念スペシャルのファイナルは、所属しているアーティストほぼ全てが出演していました。12時~22時の10時間ぶっ通しで14組(+DJ)が出演するという、超DIYなノリの狂気のタイムテーブルだったんですが、ユアソンはもちろん大トリでした。

当日のタイムテーブル。軽音サークルならいざ知らず、それぞれ機材を持ってるプロが、ほぼワンステージでこれだけ出るって、カクバリズム本当に最高ですよね。

 さて、少し話は逸れますが、実はこの日はカクバリズム20周年という以外にも、ユアソンにとってとても特別なライブでした。というのも、オリジナルメンバーのギターであるシライシコウジさんのラストライブだったのです。

 2019年にバンド結成20周年を迎えたユアソンは、日比谷野外大音楽堂で20周年記念ワンマン「SOFT LANDING」を行いました。(ユアソンの音楽の気持ち良さのあまり、野音の場内売店の酒が売り切れるという伝説のライブ!)その翌年、シライシさんは夏に急性リンパ性白血病の診断を受け、療養に専念するために脱退が発表されたのが2020年の年末の事でした。

 SOFT LANDING以降、コロナ禍に突入し1度無観客の配信ライブがあったのみで、人前でのライブは病気が発覚する前のSOFT LANDINGが最後となってしまっていました。そして療養期間を置いた2022年のカクバリズム20周年記念のライブで、一夜限りの復活ステージとなったのです。

 そんな訳で、この日のライブは特別でした。


Vol.10(FINAL)のセトリ
  01.Good Bye
  02.Double Sider
  03.Motion
  04.On
  05.Nettai Boy
  06.The Outro

 この投稿でも紹介した1stアルバムの『GOOD BYE』で始まり、ラストは1stアルバムの最後の曲『THE OUTRO』で。ユアソンらしいパンクマナーな別れ方でしたね。


 すみません、話をツネさんに戻します。そんなこんなでスペシャルにスペシャルを重ねて臨界点を突破したライブだったわけですが、この時のツネさんもまた凄かった。キックオフは緩めのユアソンでしたが、この日はキメにキメる日です。リハからツネさんのドラムの鋭いこと鋭いこと。

 もうね、フィルは破裂するように鋭いし、キックオフの時には気づかなかったけど確実にドラムの生音もデカい。ロックのエイトビートではないけど、バンドを鼓舞するような前に突っ込むドライブ感。たまにちょっとだけもたついて聴こえるパンクマナーもありつつ、ルーツミュージックやクラブミュージックの美味しいところを良くわかってるキープ力。信頼と安心の恒岡ドラム。圧巻でした。

 こんなこと言うと、本当に素人ファンの戯言で申し訳ないんですが、SOFT LANDING以降、シライシさんの脱退やタナカさんの活動休止が続き、少し満身創痍気味かな?と思っていたんですよ。でもね、実際はツネさんがサポートで入ってくれて、サポートの枠をはみ出る献身で、確実にあのバンドのMAGICとでも言える何かがステージの上で起きていていました。

 そんなギアが上がったユアソンを目撃して、うわ、これは来年はユアソンヤバくなってくぞ!絶対にライブに行こう!と思い直した矢先のことでした。カクバリズム20周年も無事大円団を迎え、年を越した2023年1月7日のCYKとのライブも、他の方のライブレポで読ませていただきましたが、すごい良かったそうです。そして、2月16日には大阪でペトロールズとの対バンも控えていました。

 2022年2月15日の正午、PIZZA OF DEATH RECORDSの公式Twitterからツネさんの訃報が伝えられました。本当に呆然としましたし、その後、それが事実であると実感する度に心に穴が空いたような喪失感を感じました。

 こんなことを言うと不謹慎ですが、まさか自分がこんなにもショックを受けるとは、自分でも思っていませんでした。ツネさんがまだ51歳と若かったからでしょうか、それとも私のバンド音楽に目覚めるきっかけがハイスタだったからでしょうか、それともこれからのユアソンやハイスタにワクワクしていたからでしょうか。それからというもの、私は初めてハイスタの音楽と出会って夢中で聴いていた中学生の時以上に、必死にハイスタを聴きまくっていました。

 あれから色々な音楽体験をして多少は解像度が上がり、ユアソンのライブで生のドラムを聴いて、改めてツネさんの音源を聴くと、本当に凄いです。技巧派というとマルチプレイヤーみたいでなんだか違うんですが、なんというかドラムの表現力がちょっと次元が違いますよね。手数も多いし、こだわりの1音1音って感じです。これは決してハイスタの箔をつけたいがために、印象論で言っているわけではないはずです。

  当時は難波さんやケンさんにばかり目がいってましたが、改めて、スリーピースというシンプルな編成で、あれだけ他を圧倒して世間を突き抜けるバンドであるためには、ツネさんのあの真摯で誠実で豊かなドラムが必要不可欠だったのだなとつくづく思いました。まさに不出世のドラマー。そりゃ、何か違うと思うわけです。

 大学生になる頃には、少しハイスタから離れ、ガレージロックやポストロック、そしてスカやらレゲエやらファンクやらへと、私の音楽の世界はどんどん広がって行きました。今思えば、私はツネさんのドラムに音楽の田起こしをされていたのだなぁと、ハイスタを聴きながら今更ながら気づかされるわけです。もしかしたら、だから、あの時ユアソンにも感度が合ったのかもしれません。今では、「初期パンクを通って来た人、信頼できる」なんて生意気にも思っちゃいますからね。

 あまり感傷的にならないように敢えてユアソンの紹介の一部としてサラッと済ませようと思ったのですが、書き出したらとまらないですね。この先は、機会があればHi-STANDARDやCUBISMO GRAFICO FIVEの紹介の時にでも書こうと思います。追悼はね、したくないというか、今でもツネさん生き返らないかなぁと思ってます。

 なにはともあれ、時間はどんどんと過ぎて行き、ユアソンはceroのサポートなんかもやっている光永さんがツネさんの後を引き継いでくれて、前に進むべく精力的にライブをしています。ハイスタも新たなドラマーのオーディションを始めました。生き返らないかなぁとは思ってますが決して後ろ向きに、新たなユアソンや新たなハイスタを否定したいわけではありません。

 むしろ、ユアソンは今日本で1番ヤバいライブをやっているバンドの1つでしょう。そしてこれからのハイスタも過去最高にヤバいライブをしてくれるに違いありません。ツネさんのソウルをぶち込まれたユアソンと、ツネさんのソウルそのものであるハイスタ。次に私が行けるライブが本当に楽しみです。

 さてさて、長くなりすぎました。最後はVol.10(FINAL)のラストの曲『THE OUTRO』です。当日バンドのバックに流れたVJと一緒にどうぞ。

Thank you ツネさん!

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