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#8 Alvaro S. S. & His Jamming Sessions 『Vol. 1』(2021) | スカ好きに贈るメキシコのデタミネーションズ


「この曲いいよ!」くらいな軽い気持ちでアルバムを紹介しつつ、どさくさに紛れてエッセイのようなものを書いていこうと思います。


 新年いっぱつ目の今回は2021年にリリースされたこの一枚、Alvaro S. S. & His Jamming Sessionsの『Vol. 1』を紹介します。メキシコのスカバンドです。


一年の始まりにスカミュージックはいかが?

 まずは聴いてみてよ、ということで一曲目はアルバムから『My Baby Just Cares For Me』

 ジャズのスタンダードナンバーのカバーです。個人的にはニーナ・シモンのカバーが大好きなのですが、ピタゴラスイッチ世代の方で聴いたことないって方は是非そちらも聴いてみてください。フフッとなること請け合いです。

 さて、突然ですが、皆さんにどうしてもお伝えしたいことがあります。それは、正月といえばスカということです。大切なことなのでもう一度言います。スカと言えば正月ってわけではないんですが、正月と言えばオーセンティックなスカで決まりです(独断)。

 noteに投稿する際に、いつも何かしら「知らなくても人生損はしないが、知ってたら人生得する」かもしれない情報をお届けできるように心がけているんですが、今回の耳より情報は「正月にはオーセンティックなスカ」というライフハックです。

 ただ単に、個人的に正月にスカを聴くのに大ハマりしてるってだけなんですけどね。きっかけは、YouTubeの「BabaShrimpのカリブ音楽」さんというチャンネルで2021年の新年にアップされた「(DJ Mix) Vinyl Selection - Japanese Ska Rocksteady Special - #017(レコードの時間)」という動画を見たことで目覚めてしまいました。

 この動画「明けましておめでとうございます」で始まるんですけど、まさに青天の霹靂。目から鱗。「正月にスカってめっちゃ合うじゃん!」という大発見でした。それからというもの、ここ数年はお正月用のスカプレイリストをせっせと作成しては、正月を迎えるのが個人的な楽しみになっています。BabaShrimpさん素敵な動画ありがとうございました。

 ちなみにBabaShrimpさんはTropicosというバンドをやっているそうで、先ほど紹介させていただいたYouTubeリンク(下線引いてあるところから飛べます)の中でも流されている『Fisherman's Wharf』という曲もめちゃくちゃいいので、是非チェックしてみてくださいね。

スカ、ロックステディ、レゲエの違いってわかる?

 さて、ここで2曲目です。アルバムから『Teach Me Tonight』

 こちらも、もともとジャズのスタンダードナンバーです。それをロックステディにカバーしたものですね。

 「ロックステディ(Rocksteady)」という言葉を初めて知ったという人のために簡単に説明すると、音楽のジャンルのひとつです。スカのテンポをゆっくりにして、間延びした分ベースが細かく動くのが特徴です。ロックステディのテンポを更にゆっくりにして進化していったのがレゲエになります。

 スカを鮪の赤身、レゲエを大トロとすると、中トロにあたるのがロックステディです。そして中トロの中にも赤身とトロの比率のグラデーションがあるように、ロックステディの音楽的な構成要素にも、スカっぽさとレゲエっぽさの比率のグラデーションがあり、かなり理解しにくいジャンルでもあります。

 そんな曖昧なものをジャンルにする必要があるのか?と思う人もいるかもしれませんが、赤身でも大トロでもなく中トロがいい、という人が世の中にはいるんですよ。例え話は本質の理解にはなりませんが、説明するのがすごく面倒くさいので興味ある方は調べてみてください。(一応このブロックの最後にお勧めリンクも貼っておきます。)

 調べるのが面倒くさいからもう少しだけ簡単に教えろ、という人のために補足しますと、ロックステディはレゲエの一種だと思ってもらって結構だと思います。成り立ちとしてはスカの延長で、聴こえ方も大衆的な娯楽性という点でスカの方が距離が近いんですが、音楽的な構成要素、特にベースとリズムはレゲエに近くなっています。

 例え話ばかりで恐縮ですが、スカをイチゴ、ロックステディをメロン、レゲエをカボチャとすると、分類学的にはメロンとカボチャが同じウリ科だけど、スーパーの売り場的にはイチゴとメロンが隣り合わせ、みたいなイメージです。余計わかりづらくなった等の苦情は受け付けません。

 例え話ばかりでフラストレーションを抱えてしまった方用に、よくまとめられているサイトのリンクを貼っておきます。


 これ以上ない入門編はこちら

 音楽的な構成要素の話はこちら

 時代背景の補足などはこちら

 いやぁ、本当にいい時代になりましたね。どのサイトも良心的にまとめられていて、敬意と感謝の気持ちでいっぱいになります。私はフィッシュマンズからCarlton & The Shoesに辿り着き、そこでロックステディなるものを始めて知ったのですが、当時はネットこそあったものの、まだまだ情報も音源も手に入りづらかった時代だったので理解したいのにできなくて悶絶していた記憶があります。

 音楽的な構成要素について補足しておくと、
  ① スカがゆっくりになったこと
  ② ベースが細かく刻まれること
  ③ ソウルフルで甘いメロディーであること
  ④ 管楽器が減ったこと
  ⑤ 美しいコーラス・ハーモニーがあること
 などがよく挙げられますが、④⑤に関しては経済的な問題で管楽器を揃えられなかったり、当時の世界的なコーラスグループの流行の影響であったりと、仮に現代でロックステディの曲を作るとしたら必要条件とは言えないのかなと思います。

 また、ラヴァーズロック(単にラヴァーズともいう)というひっかけ問題もあるので注意してくだい。イギリスで生まれたレゲエのサブジャンルで、甘くメロウで空間的なサウンドが特徴です。ラスタファリアニズムと強く結びついてストイックに成長していった本国ジャマイカのレゲエとは距離を置き、ロックステディの大衆的な娯楽性を正当に受け継いで育まれたイギリスのレゲエです。

 中トロって赤身と大トロの中間のことだけかと思ったら、実は背中の方にもあるらしいんですよ。なので再び鮪先生のお力を借りて例えるなら、ラヴァーズロックは背中の方の中トロみたいなもんです。言ってしまえばどっちも中トロなんで美味しく食べるためだけならそこまで神経質に区別してわかるようにならなくていいってことです。ええ。

 スカを聴いてくれって趣旨の投稿のはずなのに、過去にその存在に苦しめられたという私情でロックステディについて力説してしまいました。てへぺろ。


メキシコはスカの楽園だった?

 さて、ここで3曲目です。アルバムから『Ska cha cha Para Ti』

 今度は、チャチャチャの『cha cha cha Para Ti』をスカアレンジしたカバーになります。原曲はニューヨーク・ラテンを代表するティト・ロドリゲスが人気絶頂期の50年代に発表した曲のようです。

 さて、いよいよこの投稿で紹介している「Alvaro S. S. & His Jamming Sessions」とはどこの何者かというお話です。といっても、私の検索能力ではメキシコ人ベーシストのアルバロS.S.さん率いるラテン・スカ・プロジェクトで、アルバロさんのルーツであるラテン音楽とスカの融合を目指したものであるということくらいしかわかりませんでした(小声)。

 ゲストミュージシャンとのスタジオセッションを中心としたもので、明確なラインナップはないとのことです。Liquidator Musicというスペインのレーベルから発売されています。Liquidator Musicは、1997 年に設立された、ロックステディ、レゲエ、スカ、ソウルミュージックなど、ジャマイカのクラシックリズムに特化したレーベルとのことです。

 ジャマイカンオールディーズ好きには周知のレーベルなのかもしれませんが、個人的にスペインにこんな激アツレーベルがあったのかと興奮しました。noteの投稿のために毎回いろいろと下調べをするんですが、その度に新たな発見があるのでたまりません。なお、このアルバムはスペインのレーベルから発売されてますが、アルバロさんはメキシコ在住のようです。

 また、今回アルバロさん周辺を調べていて気付いたのですが、メキシコってスカが盛んなんですね。スカパラが海外のフェスで会場を沸かせまくっているのは知っていましたが、アレもメキシコだったのかと、今さらながら点と点が繋がりました。不勉強にも「スカパラすげーな、アニメとかの影響なのかな?」とか思ってましたが、元々メキシコはスカの国だったんですね。

 むしろ、よくよく考えたらカリブ海に接しているメキシコでスカが受容されているのはごく自然なことで、遠く離れた日本でスカが根強い人気がある方が異質なんですけどね。それにしてもメキシコの音楽といえば『La Bamba』とか『Tequila』くらいしかイメージがなかったんですが、メキシコと言えばスカという新方程式を学んだ2025の新年となりました。

あえて言おう、メキシコのデタミネーションズと

 さて、最後の曲紹介です。アルバムから『Sabor a Mi』

 歌いだしでピーンときた方もいるのではないでしょうか。そうなんです、この曲のいろんな人のカバーをディグっていたのが、今回このバンドと出会ったきっかけでした。

 日本スカシーンが誇るあの大名曲のインスパイア元は、この『Sabor a Mi』(の原曲の別のバンドによるカバー)だと思われます。広義のオマージュともいえるかもしれません。サンプリングやインターポレーションではなさそうですね。

 あの大名曲の方は、人生の最後に聴きたい音楽TOP10に入るくらい大好きなので、「なんだパクリか」なんて安直で愚かで心ないことを言われてしまった日にはメキシコ産のプロレスマスクを被って前言撤回するまで絞め技をキメたろかい!となってしまうので、検索には引っかからないように曲名は伏せさせていただきます。

 原曲『Sabor a Mí』は、メキシコのミュージシャンで作曲家のアルバロ・カリージョが1959年に作曲したボレロです。アルバロS.S.さんとは別のアルバロさんですね。この曲はメキシコで大ヒットしたのみならず世界中で愛されていて、多くのアーティストにカバーされているまさにスタンダードナンバーだそうです。

 それにしても、こんな甘く切なく美しいバラードがメキシコにあったなんて…(和訳はこちら)。私は「頑張って探さなくても自分の人生に必要な音楽は向こうからやってくる」をモットーに生きてる多ジャンル好きのカジュアルな音楽愛好者なので、とんでもないタイミングで今更な名曲と出会ったりするんですが、この曲も私にとって出会いたてホヤホヤの名曲です。

 さて、音楽との出会い方はいろいろあるでしょうが、もしこの投稿のサブタイトル「メキシコのデタミネーションズ」が気になって覗きに来てくれた方に、言い訳だけさせてください。自分で使っておいてなんですけど、この「どこどこの国のポスト誰々」ってキャッチコピーはかなりの確率で語弊を招くのであまりいいものではないですよね。

 エラ・フィッツジェラルドが「アメリカの美空ひばり」と紹介されてたら「いや、どちらかと言えば、日本のエラ・フィッツジェラルドが美空ひばりじゃない?」とモヤりますし、どちらが主でどちらが従だみたいなことが頭をよぎってしまいます。一歩間違えればどちらのアーティストに対してもリスペクトを欠く事態に陥りかねません。

 この投稿も最初は「年の初めにスカミュージックはいかが?」というサブタイにしようと思ってたんですけど、ふと、この投稿はデタミネーションズのファンなら一人くらいは喜んでくれる人がいるんじゃないか、なんだか無性に届いてほしい、と思い直して語弊上等で変更したんですよ。なので「見つけてくれ~!」という思いのみのサブタイで他意はないので、どうか許してください。ぺこり。


あとがき

 さてさて、長すぎてどれだけの方に読んでもらえているか不安ですがあと少しだけ。投稿中に出てきているDETERMINATIONS(デタミネーションズ)というバンドについて、知らないって方用に今更ですが軽く説明します。

 その昔、日本が世界に誇る伝説のオーセンティック・スカバンドが大阪にいたんですよ。2004年に解散してしまったのでかれこれ20年以上前になりますか。どれくらい伝説かっていうと、キング・オブ・ブルー・ビートと呼ばれた本国ジャマイカの伝説プリンス・バスターと共演を果たし認められちゃったりするくらいの伝説なんですけどね。

 デタミネーションズの詳細はまたデタミネーションズの紹介時にするので割愛します。本当は、去年の年末に行ったハナレグミのライブのサポートが元デタミネーションズのYOSSYさんだったこともあって、いいきっかけだし新年いっぱつ目はデタミにしようかな~と迷ったんですけど、思い直してアルバロさんバンドの紹介にしました。

 というのも、同じく元デタミネーションズのアルトサックス・巽朗(タツミ アキラ)さんの訃報を去年の今頃知って、追悼のために書き始めたものの書きかけになっているTatsumi Akira & THE Cassette CON-LOSの投稿の下書きが眠ってるんですよ。訃報は「巽朗最近なんか活動してるかな、してたらライブ行きたいな」と思って検索したご本人のインスタグラムで知りました。

 Tatsumi Akira & THE Cassette CON-LOSは個人的にデタミネーションズより聴いてるんじゃないかってくらい思い入れのあるバンドなので、巽朗さんの追悼はどうしてもそちらでしたいと思い直した次第です。とはいえ、2023-2024は挙げればキリがないほどの訃報を立て続けに受け、何か書こうとするたび誰かの追悼記事になってしまい、気が沈んでnoteが全然書けなくなってしまったんですよね。

 しかし、いつまでも落ち込んでる場合じゃないですからね。Tatsumi Akira & THE Cassette CON-LOSの投稿もいつか必ず書きます。できれば新緑が気持ちいい季節に。なにはともあれ、まずは日々を元気に生きて、ライブもたくさん行って、友達とたくさん笑って、たまに心震えた音楽の話なんかをnoteに書いて、書けそうなときは愛するミュージシャンたちの弔い記事も投稿したりしていきたいなと、新年いっぱつ目に決意表明をさせていただきましてこの投稿を締めたいと思います。

 最後しんみりしてしまいましたが、この投稿で言いたいことはただ一つ…

正月はオーセンティックなスカで決まり!(独断)


 正月に書き始めてなんとか1月中に投稿できました。

 今年もよろしくお願いします。

 それではまた次回!

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