見出し画像

みどりのおじさん

「今度バイト’sで飲みに行くけん〜」
前から行こうと言っていたバイト飲みが、いよいよ実行されるらしい。
「さくらと、しおんと、たいしょーと、あと行けたら星野さんも」
え、ひかるは??と一瞬思った。そしたら一気にすごく悲しい気持ちになって、泣きながら駄々をこねるようにひかるも誘おうよと言おうか迷った。でもやめた。そしたら本当に泣いてしまいそうになって、すごくすごく悲しい気持ちになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

星野ヒカルって、光りすぎじゃない??
トゥウィンクルトゥウィンクルしすぎじゃない??

「いや、その胡散臭い感じがいいんよ〜」

いや、ダサいよ。が口からこぼれそうになったけどギリギリで飲み込む。
本人がいいならいい名前なのだろう。

初対面の印象はチャラいイケメンなお兄さんという感じだった。でも、演者として出るたび、お客さんとして来るたびにだんだんわかってきた。お酒は強くなくて。シャイすぎてお酒がないと初対面の人とあまりうまく話せなくて。天然で、ちょっとおバカ。いじられキャラで、みんなから可愛がられていて。彼はいつも自信のなさそうな人だった。常に申し訳なさそうでこんな俺が生きてていいのだろうか、みたいなのが垣間見える。そんなに見た目がいいのに、なんでこんなに自信ないんやろ〜、といつも思っていた。

一番長く一緒にいたのは、お店の12周年イベントのときだった。私はバーカウンター、彼は受付が落ち着き次第バーカウンターに入るようになっていた。周年イベントでゲストが大物ということもあり、100人をふたりで捌いた。忙しすぎてキレていたから失礼な態度いっぱいしたと思う。ごめんね。忙しい中で彼を見ていると「あ〜、みどりだなこの人」と浮かんできた。イベント後半になって客足が落ち着いた隙にスマホで色を調べて「ん。この色。」と指を刺した。「お、俺???」「そそ。」「この色はどんな意味があるの?」「分からんけど、見えたから。」疲れているけど、ちょっと嬉しそうな顔だった。打ち上げで他の人の色は答えるのに「まだ、ちょっと黙って!」とか言って散々後回しにしていた(というか見てと言われて見えるのもではない)ので、やっと見てもらえたと思ったんだと思う。あの時は黙ってとか言ってごめんね。

「「まきちゃんの」」ハイボールで!!まきボールで!!
と言いながら笑顔でペイペイのQRコードを読み込んで
6:4で角の方が濃いい飲み物
ハイボールというよりもはや角のソーダ割りというのに相応しいものを
まあまあなペースで飲む。飲まないと人とガツガツ話せないのを自分でわかっていたんだろな〜。

X JAPANのhideさんと音楽していたチロリンさんが前回ライブしてくれた時にバイトが同じだった。チロリンさんがどういう人かというのを説明してくれたはずみでROCKET DIVEが好きなことを伝えた。そしたら他にロックだったら何が好き?と聞かれて、青空は好きよーと言った途端、目がキラキラしだしてブルーハーツとマーシーについて結構語ってくれた。なるほど、どうやら相当なロックンロール野郎らしい。
実際最後に会うこととなった日曜日のライブもマーシーや数々のロックンロールのリスペクトを感じるステージパフォーマンスだった。

結果的に会えるのが最後になってしまったけど、星野ひかるが光りすぎていること、日曜日のライブがカッコよかったことを伝えることができてそんなに悔いはない。
でも、バイトのメンバーで飲みにいけなかったことはちょっと悲しい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ひかるへ
一年前くらいに友達と「愛を受け取ることが出来ない。愛されていると感じることができない人は幼少期の頃に愛を注がれずに育ったからなのだろうか。もしそうだとするなら、その人が後天的に愛を感じることができる日は来るのだろうか」という話をしたのね。その時からずっと愛について考えているの。なぜならそんなことを議論している私自身が愛する人から愛を感じるのが下手ということが最近わかってきたから。あなたも知っていると思うのだけれど、私の恋人はすごく優しい人で、彼はすごく尽くしてくるの。でも、私はそんなにたくさんのものをもらってるのにも関わらず、本当に愛されているのか疑ってしまうの、注いでもらったものを素直に受け取ることができないの。例え今の彼と別れて他の人に愛を求めても、誰からも愛されていないように感じ、自分が誰も愛せない人間であるのだと思う。すごく贅沢もので、欲張りで、救いようのない人間なの。

でも、ひかるのおかげで、別の視点から愛を考えるようになりました。利用しかしてこない人に愛を注いでいる暇があるなら、もっとだいすきな、私を大切にしてくれる人に対して時間を使い、愛を伝えたいと思いました。そしてあなたが亡くなってすぐにあったライブであいきくんが言った「愛しているよ」にはすごく重みがありました。それもまた、確実にあなたの死が影響していて、私たちを突き動かしている一つの形でもあります。ただ、もし、あなたに愛を伝えることがこの結果を産まないのであれば、最後に会った日に戻りたい。日頃のちょっとキツめに接していた態度を改めたい。繊細で優しいあなたに甘えていたの。ごめんなさい。いつキツめに接していたかというと、バイト中にお客さんが多くてイライラした時と、打ち上げでいろんな人に何色か聞かれるたびに、あなたをずっと後回しにしていたとき。だからあなたのおかげで、私の忙しくなったら周りが見えなくなって人を傷つけてしまうことについても考えて、最近は忙しくてもできるだけ人にイガイガならないように気をつけるようになったよ。もともと高校生の時ニュージーランドに行ってから「言語が通じなくても一緒に働きたい人になりたいな」というのがあるから、イライラする人とは誰も働きたくはないよね。大切なことを改めて教えてくれてありがとう。

緑のおじさんっていう曲を作ったのは、周年イベントの時に私が緑色って言ったから?みんなから不評であの優しいまほがあれはおおごとと言うくらいなのだから、相当ひどいんだね。いつ作った曲なの?なんで緑なの?教えて欲しかったな〜。

みんな、ひかると撮った写真を持っているけど、私は一枚も持っていなかったの、意外とね。でもまあバイト仲間兼演者さん兼お客さんだからそんなもんか。一枚も写真を持っていない分、私はひかるとのバイト仲間兼演者さん兼お客さんとしての思い出は残っているの。この思い出たちは、忘れたくないんだよね絶対。あなたが生きた証だから。あなたが生きていたこと、出会ったこと、一緒にいた時間を忘れたくはないから。ここでこうして書くことで、今までひかると会ったことがない人の中でもひかるが生き続けることができる。だから、ここに残そうと思ったの。
できるだけ多くの人の中にあなたが生き続けることができますように。
そして、できるだけ長く、あなたが長生きできますように。


ひかるが亡くなったすぐにあったライブについて