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夜はいつでも回転している

91夜 クロージングタイム


昼食にパスタでも茹でようかと思い鍋でお湯を沸かしているとインターフォンが鳴った。インターフォンの通話ボタンを押すと友人のKだったので、「まぁ上がれば」と言って家の中へ通した。

「喉乾いたなぁ」と言いながら勝手に人の家の冷蔵庫を開けるところは変わっていない。冷蔵庫からビールを取り出してソファーに座って飲み始めた。つられてこちらもビールを飲む。

「お前も食うか?」と聞くと「頼む」と言ってKはビールを持ち上げた。ミートソースのパスタを作って二人で食べている時に思い出した。

Kは3年前に死んだはずだ。

「お前死んだよな?」
「まあね」
「随分元気そうじゃないか」
「それほどでもないさ」
「アホか。嫌味だよ」

「パスタなかなか美味いよ」
「パスタ食いにきたのかよ」
「違うよ」
「じゃあどうした?」
「盗まれたんだよ」
「何が?」
「墓」

Kが言うには自分の墓が丸ごと消えたらしい。
「なんで盗まれたって思うんだよ?」
「書いてあったんだよ」
「書いてあった?」
「盗んだ後に〇〇を頂戴しましたとかルパンとかが置いておくような置き手紙みたいな」
「なんて書いてあったんだよ?」
「あなたの墓を頂きましたって」
「なんだよそれ?誰が盗んだかわかってるの?」
「それも書いてあった」
「マジで怪盗ルパン?それともキャッツアイ?」
「いや、お前」
「え?」
「お前の名前が書いてあった」


それからしばらくお互い黙ったままパスタを食べ続けた。ビールを飲み終わったKは冷蔵庫からビールを取りに行くついでにレコードプレイヤーにレコードをのせて回転させた。トム・ウェイツのクロージングタイムだった。昼食時には向かない選曲だ。こいつは時間というものに頓着しない傾向があった。死んでからそれが更に酷くなったのかもしれない。幽霊になると時間のことなんてきっとどうでもよくなるに違いない。


食べ終わって2本目のビールを開けながら言った。「お前の墓は盗んでないぞ。盗む意味もないし」「まぁそうだな」どうでも良さそうにKは言いながら外を見た。「天気いいな。ちょっと散歩するか?」
 
たしかに気持ちがいい。ちょっと海岸まで行こうと言うことになった。砂浜を歩いていると夕陽が落下し始めている。もうこんな時間か。ドラム缶に火を起こして網を引いてスルメや片口イワシやらを焼いている爺さんが三人いた。何となく見ていると「食うか?」と手招きされたので輪に加わった。

「そんならビールでも買ってくるわ」と言うとKは待ってると言う。コンビニで人数分のビールを買って戻るとKの姿はなかった。
「あれ?俺の連れはどこ行きました?」と爺さんたちに聞く。「帰る場所がわかったって言って行っちまったぞ」と海の方を顎で示した。爺さんたちにビールを渡して片口イワシとビールを口に入れながら海を眺めた。燃えた流木からパチパチと音が鳴った。

「まぁそういうこともあるわな」と爺さんの一人が言った。空は暗幕が降りたように真っ暗だった。



End 

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