私のダンナが辞めるまで(29)
其々の結婚式
式当日、雨の予報だったにもかかわらず、青空が覗いていた。
支度を終え、私たち夫婦がチャペルで撮影をしていた頃、親族控室ではちょっとした事件が起きていた。
表情からは全く分からないが、かなり緊張していた私の父。あろうことか、夫の弟を夫本人だと思い込み、気さくに話しかけてしまっていたのだ。
「元気か?ちょっと痩せたか?仕事は楽しいか?今日は頑張れよ。あれ?もう行かなくていいのか?」
気の優しい義弟は、両家顔合わせで3ヶ月前に一度会ったきりの強面のオッサンに"人違いです"とは言えず、控え室にいる間はずっと夫のフリをしてくれたそうだ。
撮影を終え新郎新婦の控室に戻ると、夫が緊張のあまり座れなくなっていた。
-大丈夫?チャペルに入ったら一礼して、白いバラ持った人から交互に受け取って歩くんだよ。
「お、おぉ。あれ?何本?」
"新郎様、ご入場準備お願いします!"
夫が呼ばれた。
「あ、はい。バラ何本?なあ!何本?」
"新郎様、お静かにお願いします!"
夫はバラの数を忘れたまま、チャペルへ入っていった。
風林火山
程なくして私も呼ばれ、チャペルへ向かった。
扉の前で父が待っていた。
「なぁ、新郎、服着替えた?黒じゃなかった?」
-は?
「それよりお前、右足からだぞ。合わせろよ。」
-うん。お父さん、よろしくね。
"新婦ご入場です!"
扉が開き一礼した後、父は思いきり左足から歩き出した。
(ん?お父さん?)
ドレスで私の足は見えないので、左右の足がズレたまま気にせず進む。
もう間もなく、夫と交代する場所に着くタイミングで、父の足が止まる。
今までの人生を思い出してるのかな、と父を見た瞬間、私は気付いた。
父は極度の緊張で、頭が真っ白になり、動けなくなっていたのだ。みるみる赤くなっていく頬には"パニック"と書いてあるような気がした。
(ヤバイ。何とかしないと。)
私は壇上の夫に目配せした。
だが、夫も緊張していて気付かない!!!
男ども、しっかりしてくれ!
つづく…