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私が息子に出逢うまで(9)

回復

何も食べない日が続いていたが、時々貧血の症状が出るくらいで、赤ちゃんは順調に育っていた。
自宅安静は継続だが、次の定期検診まで通院しなくていいことになった。

「よく頑張ってるね。食べられる時には、少しでも食べてね。あ、性別聞きたい?」

私は頷き、母も中に入ってもらった。
画面に映る赤ちゃん。

「ここが頭、おてて、あんよ。うーん、まだ見えにくいけど、女の子の可能性が高いね。」
先生からそう言われて、私は心の中でガッツポーズした。既に名前を決めていたからだ。

"ひかり"
妊娠が分かった時、心に一筋の光が差し込んだ。以来、辛く悲しいことがあっても、お腹の赤ちゃんは私の希望の光だった。
そんな風に誰かの心をやさしく照らして欲しいと思っていた。

夫も母も、その名前が気に入っていた。

逃亡

検査から戻ると、予定を切り上げて自宅へ帰ることにする、と母に告げた。母は複雑な表情だったが、「分かった。お父さんには私から伝えるわ。」と言った。
父は何やら母に文句を言っていたようだが、最終的には今週末帰ることに同意した。

つわりは治まっていないし、自宅では日中ひとりになる。産婦人科医院も実家の近くだ。普通に考えれば自宅に戻る意味がない。
しかし私にとって、今自宅へ戻れるという事実でけでどれだけ心が軽くなるか。

夫は土曜日に迎えに来て、1泊して帰る段取りだった。夫から出発連絡があったことを母に告げると、父はふらっと出掛けて行った。

夫が到着しても、夕飯の時間にも、父は戻らない。母が電話しても、出ない。

怒り狂う母。なだめる夫。倒れこむ私。

とうとう夜寝る時間になっても、父は戻らなかった。

つづく…

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まきんこ
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