私が息子に出逢うまで(18)
冷戦
課長の退職日が迫っていた。
しかし相変わらず課長は私に業務の引き継ぎをし、課長代理を遠ざけていた。課長代理は罵倒され疲れたのか、もはや抗議もしない。
お互い別々の場所で、お互いの悪口を言い合う最悪の関係になっていた。
だが、毎月営業報告が行われる課長会議に出席出来るのは課長代理までと決まっているため、このままでは課長代理が何も分からないまま会議に出る羽目になってしまう。
毎月の取り組みや成果をきちんと報告してもらえないことは、数字が全ての営業職にとって致命的だった。
(このままじゃいけない。)
私は課長には黙って、営業途中に課長代理と会う約束をした。
打開策
連絡もなく、待ち合わせ時間に30分遅れて課長代理は現れた。こういうところが課長やその上の信頼を得られない理由のひとつなのだが、今はそれどころではないので言わなかった。
-課長代理、ひとつ最初にどうしても伝えておきたいのですが、私は課長として振る舞うつもりはありません。課長の代わりをするのは貴方です。
私は主任で課員との距離が近いので、課長代理と課員の間に入って双方のフォローをするだけです。
課長が退社日が近い今、私たちはいがみ合うより協力し合わないといけないと思います。
課長代理は一体私に何を言われると思っていたのか、目を丸くしていた。
そして、うんうんと頷いた。
私は課長から引き継いだ業務内容と、各課員の取り組み案件、顧客の状況、私が彼らから相談を受けている内容を伝えた。
課長代理は真剣に聞いてはいるものの、情報量に処理が追いつかない様子だった。
-分からないことは都度聞いてください。私は12月末までいますから。
「ありがとう。頼らせてもらう。あと、貴女自身の引き継ぎはまだ始めないでね。課内が落ち着くまで待って欲しいから。」
そう言って課長代理は去った。腹の中は分からないが、とりあえず表面上は会話ができる状態になっただけでも進歩だ。
つづく…