私のダンナが辞めるまで(21)
母親
勢いあまって、自分の家に夫を残し飛び出してしまった私。直前に"感情だけで動かないで!"と言い放った自分が恥ずかしい。
電車で2時間ほどの位置に実家はあったが、盆にも帰らない私の突然の帰省は、両親に無駄な心配をさせるだけだ。それに、結婚前に両親が夫に対して悪い印象を持つのは嫌で、帰ろうとは思えなかった。
とりあえずコンビニに行こうと歩き出した瞬間、携帯が鳴った。
私の母からだった。
こういう時の、母親の勘は恐ろしい。
「元気〜?あれ?あんた今、外?」
帰り道だよ。と答える私。帰る家がないのに。
「仕事は順調?彼は元気?」
-彼は元気。私は会社、辞めるかもしれない。
「は?」
私は会社での出来事、ジュニアの話、夫が先輩にスカウトされていること、夫が転職に乗り気ではなく、お母さんも反対していることを、オブラート5枚〜10枚くらいに包んで説明した。
しばし沈黙した後、母は言った。
「貴女が退職する理由が見当たらない。」
親子
-え?そう?
「そう?じゃないわよ。何考えてるの?
貴女は会社に必要な人材なの。ジュニアさんの言う通りよ。
収入も1.5倍稼いでるのよ?
結婚して、子供が出来たらね、お金だけじゃないなんて綺麗事言ってられないの。愛だけじゃ子供が苦労するのよ!
それに相手のお母さんが反対してるって、どうせ自分に都合のいい話しかしてないんでしょ?」
図星過ぎて何も言えない。
そして私とほぼ同じことを言ってのけた母。
私たちは間違いなく親子だ。
「何故うちの娘が辞めなきゃいけないの?私が言ってあげようか?それともお父さんからガツンと言う?」
-どちらもやめてください。
「とにかく貴女、絶対に辞めちゃダメよ。」
そう言い残し、私が返事をする前に電話が切れた。
嵐のような人だ…
コンビニの前でため息をつき、中に入る。
するとまた、電話が鳴った。
今度は夫からだった!
つづく…