ガブリエル・夏 17 「着替え」
皿に、葉っぱ、ハム、チーズ、トマト、それと、パン、ヨーグルト、切ったり皮を剥いたりしないで食べられる果物、牛乳か健康そうな果物ジュース、大人はそれとコーヒー、というのが、まみものうちの定番の朝ごはん。レイは、これに加えて、昨日の夕飯のお皿に載ってたものを全部食べた。柚の書いたインストラクションを、最初から最後まで声を出して読んで、自分で電子レンジを使って夕飯のおかずを温め、チーンがなるまで待つ間には、おやつのラインナップを指差し確認した。柚のリストにはないものが、1つあった。
「Reese’s のピーナッツバターカップス……、ピスタチオ……、ポテトチップス……、まずそうなHaribo……ははは、本当にまずそう! それから、クランベリー入りチョコレイト……、うん。全部あった。……ん? もう一個……。」
チーーン。(電子レンジ/レイの頭の中)
「ぅオイラのクッキー!」
まみもはグフグフと笑って、Cookie を鼻唄で歌った。
「焼いてくれたの? 昨日帰って来てから?」
レイの緑の目がみるみる大きくなって、覆い被さってくる。ように感じる。まみもは鼻唄を続けたまま頷いた。
2食分を完食し、クッキーもつまんで、おなかがいっぱいで、背中の側に鈍角になっていくレイが、柚のメモのマンガのリストのところを見直す。
「ガブくん、」
レイが腰のところでできている角度は変えず、平らだった首のところで新しく角度を作って、まみもの方を向く。目から平行なところまで持ち上げていた柚のメモは、腕の筋肉が弛緩して徐々に下がっていく。メモがテーブルの高さまで下がったところで、まみもが続けた。
「昨日の夜、ガブくんのお母さんと電話で話したよ。携帯に、たくさん電話かかってきてたでしょ?テキストも。やっぱりできるだけ早く帰ってきて欲しいんだって。お母さん、ガブくんがお母さんのこと怒ってるかなとか、嫌いになっちゃったかなとか、”ホリデー”のこととか、すごく心配みたい。
今日、帰ることにしてあげる? ほんで、とりあえずすぐ1回電話してあげてね。話さないと不安でたまらなそうだった。」
レイの首の角度がフラットに戻って、腰の角度は90度に近づいてくる。歯医者で治療が終わって、椅子が元に戻る時みたいに。でもレイの顔に、治療が終わってほっとした人の表情は出てこない。
「うん、じゃあ、着替えてから。」
レイは立って、ソファの方へ行く。バックパックの近くに、携帯と鍵と小さなタオルが出てる。バックパックを持ち上げて、レイが手を突っ込む。中からは、サンドイッチの包まれていたっぽいフィルムと、ほとんど空のお菓子の袋とそのカスが出てきた。それ以外は出てこない。振り返る。
「着替え持ってない。」
レイが笑って、まみもも笑った。
まみもは、昨日スーパーで見つけて買った、フルーツ柄パンツ2枚組セットを差し出した。黄緑の地にバナナの柄のと、ピンク地にレモンの柄の。
「パンツ以外はまた研のを借りよう。ノーモア ノーパン。」
「ノーモア ノーパン。」