後日談
待て。幸秋柄樹。
はい?
あぁ、お前か。つけてきてたのか。尾行が上手いんだな。はて?どこかで練習でも積んだのか?
うるさい。今更彼女にわざわざ会いに来て、なんのつもりだ。
別に良いだろう?
人が人に会うことに価値なんて無い。
それと同じように私が彼女と話したことに理由なんて無い。
ただの時間の『浪費』だ。
お前が彼女と接したり、それからこれから接する時間だって無駄だぞ。
意味が欲しければさっさと彼女との間に形ある子供でも作れ。
なッ…!違う!僕が彼女と人と向き合った時間は無駄なんかじゃない。
僕と彼女の間に蓄積されるんだ!『信頼』として!楽しかった時間として!
はぁ。これだから子供は嫌いだ。
なんでも人の行動にはそれをする原因があると思ってやがる。それにそれが後になって意味のある行為だと信じてやがる。
は?なにを言ってる?
これが分からないのならお前はこれ以上私と話す意味は無い。お前と俺では価値観が違った。それだけの話だ。
おい、何を…
全ての人間の営みが原因論によって説明し切れる訳では無い。
それが今の俺からお前に言えるアドバイスだ。
努力に対する結論が、実る、実らないだけでは無いように。
常に問題に対して回答があると思うな。
そんな考えをしていてはいつか痛い目を見るぞ。
いや、全く分からないぞ。何を…
それにこんなことを言ったところで、お前はこんな詐欺師の台詞なんて意に返さないんだろう。それでいい。
いつか痛い目を見ればいい。ざまあみろ。
だが、そんな猛々しい若さが、
私は嫌いでは無い。
若さ故の強さ、若さ故の過ち。
若気の至りは誰しも通る道だ。
否、誰しも通る道でなければならない。
どこかで見た台詞だ。
好きな人が自分のことを好きになってくれるとは限らないように、嫌いな奴が自分を嫌ってくれるとは限らない。
ざまあみろ。私はお前を嫌わない。
ざまあみろ。
お前は好きに俺を嫌え。
虚空に拳を振るうといい。
お前の新しい彼女の因縁の詐欺師だ。
きっとお前とはまたいつか会うだろう。
その時まで彼女から私の話をゆっくり聞いて、
せいぜい恨みを募らせておけ。
…出来るものならな。
それではさらばだ。夏目田 湊人。
また会ういつかに、また会おう。
その詐欺師は、息咳切ったようにまくし立てると、僕が次の台詞を言う前に、背中を向けて歩き始めた。
僕はお前を許さない。けれど、最低だけれども、少しだけ感謝もしてやろう。
お前がいなければ、彼女と僕が恋仲になることも無かった。
黒い背広の背中を、僕は見つめた。