乗り合いバスの女 物語です
その女はいつも
最後列の左端に座っている
女を見ないように
私はなるべく離れた席に座る
そんな事をもう
10年も続けている
交通の便の悪い田舎町
このバスを逃せば
1時間以上遅い帰宅となる
学生時代の恋人
六畳一間の安アパートに
一緒に暮らした事もあった
恋愛と結婚を
別のものと考えていた私は
資産家の娘との縁談を機に
彼女を切り捨てた
その女を見たのは
私がこの町に来て
一年が過ぎた頃の事だった
それは紛れもなく彼女だった
二十年以上の時を経て
彼女は私の元へと帰って来た
彼女が現れてから
ずっと考えていた事を
確かめに行く
10年の想いを今日
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あの廃屋の古井戸を
閉ざしていた重い石の蓋が
開かれていない事を