オンライン英会話で反ワクチンの講師に遭遇した話。

先週末に帰省したら父親が濃厚接触者にギリギリならないレベルでコロナ陽性者さんと接触したらしいので、私がPCR検査を受けるハメになった。ややこしい。

状況を整理しておくと、
・私は所用で土曜〜日曜と帰省。
・父親は日曜に一度外出し、ご近所さんと5分ほど対話。
・そのご近所さんが翌日月曜にコロナ陽性と判明。
・しかし5分程度の接触だと厳密には濃厚接触者にならない。
・私自身は火曜から微熱と咳の症状が出た。
・上記を会社に報告したところ、父のPCR検査結果の報告を求められる。
・だが病院嫌いの父は検査する気ゼロ。代わりに5日間ひきこもるとのこと。
・でも私には会社への報告義務が有るため、症状も鑑みてPCR検査を受けることに。
・結果は陰性でホッとしたものの、検査費は身銭切ったためクソ高かった。

……ということで、オンライン英会話を日課にしている私は上記の話を早速ネタにした。まずは頻繁にフリートークしているフィリピン人の講師。彼はコロナが世界的に流行り出した比較的初期の段階で罹患し、集中治療室から生還したという経歴の持ち主で、私の話を大笑いしながら聞いてくれた。というのも、彼にはしょっちゅう「うちの頑固な父親」についての愚痴を聞いてもらっているので、今回も「父の病院嫌いによって私がひどい目に遭った」という、要するに「いつものネタ」って感じだったのだ。
このフィリピン人講師は(マジで一度コロナで瀕死になるという経験をしているので)当たり前のように回復後にワクチン接種していて、あの副反応けっこうキツいよね!なんてことも含めて楽しくトークして終わった。

まあ、そういう成功体験が有ったので、私は油断しきっていた、とも言える。

フリートークにおいて同じネタを別の講師にも振るのはよくやっているので(繰り返し口に出すことで、その時に使った語彙や言い回しを定着させたいから、というのが主な理由)せっかくだからもう一度くらい同じ話をしておくか、と今回も思った。それで今度は別の国の(国名は伏せます)講師を選んでフリートークに入った。

その講師のレッスンを受けるのは7回目くらいだった。私は、基本的に“初めまして”の講師とはフリートークをしない。何度かレッスンを受けて、ノリが合うと感じたり、話しやすいと思えばフリートークも選ぶようになる。
この講師とは好きな映画のジャンルも同じで、テキスト外のスモールトークで盛り上がることも度々あった。フリートークを選ぶのも初めてじゃなかった。だから本当に油断していた。
私の話を彼は静かに聞いてくれて、私が話し終えたところで、質問をしてきた。
「結果が陰性で良かった。Good newsだね。ところで、きみはワクチン接種を受けた?」
もちろん、と私は答えた。すると彼の表情が急に引きしまった。
「僕は反ワクチンだ。僕は今、セルビアに住んでる。セルビアは反ワクチンが多い。ワクチンは危険だ」

私はびっくりした。それは彼が反ワクチンだったから、というよりも、こんなにも硬く厳しい表情をしている彼を見るのは初めてだったから、だった。いつもニコニコ穏やかに話してくれる彼が、私には別人に見えるほど怖い顔をして続けた。
「知人はワクチンを打ったけど、2日も寝込んだ。あれはコロナだった。ワクチンを打つとコロナになる。政府はその情報を伏せて、国民にワクチンを勧めてる。だから僕は絶対にワクチンは打たない。きみはワクチンの接種を拒否しなかったの?」

私は私なりに医療従事者の方々が発信してくれている情報を集め、その上でワクチンを打てるものなら打ちたいと思い、職域接種で受けた。ただ、それをこの場で彼に説明するのは避けた方がいい、と先ず思った。彼が熱心に語ってくれたところの「ワクチン後に2日も寝込んだ」というのは、ぶっちゃけ副反応じゃないのか?と思ったりもしたが、それについて英語で突っ込んだ議論をするのは私の語彙力では無理だった。そもそも、私はワクチン接種の是非についてこの場で片を付けたいわけじゃなかった。私は英語で日常会話をする練習がしたくてレッスンに入ったのだ。

なのでとりあえず私は、自分が会社からのリクエストを受けてワクチン接種をしたこと、それから自分の周りでワクチン後にコロナ罹患した人はいなかったので、断る理由が無かったことを拙い英語で説明した。嘘は言ってない。職域接種は強制ではなかったものの、できれば受けて欲しいというのは会社の意向だったからだ。
そして、それらを述べた後で、彼にこう言った。
「I heard very important information from you, right now. Thank you so much.」

すると、それまで厳しい顔をしていた彼が、いつもの穏やかな笑顔に戻った。そして彼は言った。
「どういたしまして。大事なことをシェアできて、僕も嬉しい」
コロナワクチンの話はそれで終わりだった。彼はさらりと話題を音楽へと変えて、その後はいつも通りに楽しくフリートークをして25分は無事に終了した。

私が幸運だったのは、彼がワクチンを嫌っているとはいえ、その考え方を人に押し付けようというタイプではなかったことだと思う。というのも彼は、私から「ワクチンは良くないと思う」という言質を引き出そうとはしなかったからだ。さらりと話題を変えてくれたのも、もしかしたらワクチンの是非というのがとてもセンシティブな問題で、これについて深堀りしない方が良いと彼の方も判断してくれたのかもしれない。
そのセンシティブさに気づいていなかったのは私の方だった。元より私はワクチンについての話がしたかったわけじゃなく、単にPCR検査を受けたことや陰性だったことを英語で話せるようになりたかっただけだが、コロナからワクチンへと話題が流れるのは自然なことだ。色々と読みが甘かった。

そして(彼いわくの)「セルビアでは反ワクチンが多い」というのも、私は全く存じ上げていなかった。このレッスンの後で軽く調べてみたら、セルビアでは約半数の国民が反ワクチン派の為なかなか接種率が上がらない、という記事が出てきた。そういえばワクチン未接種を理由にオーストラリア入国を拒否されて話題になっていた某有名テニスプレイヤーはセルビア人だった、ということも、この時になって思い出した。

とはいえ、私の使っているオンライン英会話における、この講師の国籍登録はセルビアではなかった。彼は今セルビアに住んでいるというだけで、生まれも育ちも別の国だからだ。なので、セルビアでは反ワクチン派が多い(らしい)という情報を事前に私が知っていたとしても、この講師にはPCR検査の話題を振ってしまっていただろうから、避けられた事故ではなかったわけだが、まぁセンシティブなトピックを出してしまったことには変わりない。ちょっと反省した。

オンライン英会話では意外と、セルビア人の講師が多い。今後はマジで気をつけようと思う。

なお、クソ高かった検査代は結局、父が出してくれることになった。罪悪感は有ったらしい。ありがたく受け取ったので私はコレで市民税を払うことにして、これはこれでフリートークのネタとして冒頭で述べたフィリピン人講師に話すつもりである。

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