犬の個人輸入 (狂犬病清浄国から)
犬を飼いたいと思い立ち、いろいろな犬種を検討した結果、その犬のブリーダーが日本国内で見つからなかったら、あなたはどうしますか。「諦めて他の犬種にする」。それも一案でしょうが、どうしても諦めきれないのであれば、海外のブリーダーから直接、輸入してみてはどうでしょうか。
海外から犬を個人で輸入する場合、専門の業者に依頼することもできますが、結構な費用が掛かります。自分で(苦労して?)輸入すれば、費用を抑えることができるうえ、ブリーダーとの交流も可能です。何よりも、犬を迎えたときの感動・喜びは筆舌に尽くしがたいものがあります。
犬を輸入する場合、指定地域(狂犬病清浄国・地域)からとそれ以外の地域からとでは手続きが異なります。指定地域とは、農林水産大臣が指定している狂犬病が発生していない国・地域、いわゆる狂犬病清浄国で、2013年7月現在、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムが該当します。これらの指定地域から条件を満たして日本に到着した犬の係留期間(輸入検査にかかる期間)は、12時間以内です(問題がなければ数時間)。よって、生後2ヶ月齢の子犬を手に入れることも可能です。
一方、それ以外の国や地域から輸入する場合は、輸出国で狂犬病の予防注射を二回打ち抗体検査を受けるといった煩雑な手続きに加え、180日間の待機を求められるため、生後9か月以降でないと子犬を物理的に輸入することができません。
本稿では私の実体験をもとに犬の輸入を具体的に解説したいと思います。私の場合、飼い犬を指定地域であるオーストラリアから輸入しました。時期は10年ほど前になりますが、基本的な手続きはほとんど変わっていないはずです。また、輸入地は成田国際空港ですが、その他にも新千歳空港、中部国際空港、関西国際空港、北九州空港、福岡空港、那覇空港なども利用可能です。
始めに言っておきますが、犬を個人で輸入することは、さほど難しいことではありません。少しの手間と忍耐が必要ですが誰にでも可能です。しかしながら、子犬を出すブリーダーとのやり取りは、通常、英語となりますので、ある程度の英語力は必要になります。GoogleやDeepLといった翻訳ソフトに過度に依存するのは危険です。拙くとも自分の言葉(表現)でコミュニケーションをとることが大事です。子犬を入手した後もブリーダーとは交流が続きますので最低限の英語力は必須です。
では、手始めにウェブを通して海外のブリーダーをリサーチしてみましょう。オーストラリアの場合、DOGZONLINE (ドッグズオンライン)という純血種の犬のコミュニティ・サイトがあり、様々な犬種のブリーダーを効率よく検索できるようになっています。
通常、ブリーダーはホームページを持っていますので、そこに飛べば、そのブリーダーの詳細(ブリーディングしている犬種の解説、ブリーダーの所在地・環境・沿革、ブリーディング方針、在舎犬の紹介、子犬の出産情報等)を知ることができます。オーストラリアの場合、ブリーダーは首都シドニー (Sydney) があるニュー・サウス・ウエールズ州 (New South Wales、略してNSW) か、同国第二の都市メルボルン (Melbourne) があるビクトリア州 (Victoria、略してVic.) に集中しています。(実際の子犬の航空輸送に当たっては、日本とシドニーは直行便が就航していますが、メルボルンからは直行便がないのでシドニー経由となります)
気に入ったブリーダーを見つけたら早速メールしましょう。ブリーダーが多すぎて良く分からないときは、その犬種のクラブ (Club) や協会 (Association) が州ごとにありますので、そこに問い合わせてみるのも一つの手です。子犬の輸出に抵抗がない、あるいは輸出経験のある会員ブリーダーを紹介してくれます。
メールには、自己紹介とともに、いかにその犬種が欲しいか(惚れ込んでいるか)ということを丁寧に記述します。その際に家族構成 (あまり小さな子がいると子犬を出さないブリーダーもいる) や飼養環境、一軒家か集合住宅か、田舎か都会か、常に家に誰かいるかいないか (恒常的に長時間、犬に留守番を強いる環境では出さないブリーダーもいる) 等も書き添えるとブリーダーにも熱意が伝わると思います。
そうしてブリーダーと何度かやり取りして、子犬の購入で合意に達したら、代金の半額をブリーダーの口座に送金します(残りの半額は子犬を入手してから送金)。なお、国際送金手数料は銀行によって異なりますが「楽天銀行」や「ゆうちょ銀行」が安いです。その際、後述する40日間縛りにともなうブリーダーでの子犬の飼養料(Boarding Charges)を加算するのを忘れないでください。通常、子犬は生後二か月あるいは三か月で買主に引き渡されますので、買主の都合でそれ以降の引き取りを希望する(余儀なくされる)場合は、超過分の飼養料を支払う必要があります。
それでは、具体的な手続きを解説します。
1. 日本の検疫についてブリーダーに連絡します。日本の輸入検疫はオーストラリアの日本大使館のサイトでブリーダー本人が調べることもできますが、確実なのは動物検疫所のホームページから、輸入手続の手引書(指定地域)の英語版ファイル (import-free-23.pdf) をダウンロードして、そのファイルをメールでブリーダーに送ることです。
2. ブリーダーに日本までの輸出手続きとフライトを手配してもらいます(40日以上あとの日付。理由は後述)。具体的には犬の国際輸送に慣れた輸出代行業者を手配してもらうのですが、オーストラリアにはJetpets (ジェットペッツ)、Dogtainers (ドッグテイナーズ) など複数の業者がいて、費用もまちまちなので必ず相見積もりをとってもらうことをお勧めします。また、輸出代行業者へはクレジットカードでの支払いが可能なので、直接クレジットカード払いにすることにより、一時立て替えによるブリーダーの金銭的負担の軽減や送金手数料の節約などのメリットがあります。
3. 輸出代行業者がフライトを予約したら、「狂犬病予防法及び家畜伝染病予防法に基づく犬の輸入に関する届出書」を到着40日前までに、到着予定の空港を管轄する動物検疫所に提出します。(成田空港の場合は 動物検疫所 成田支所 貨物検査課です) 「届出書」の書き方については動物検疫所に電話すると丁寧に教えてくれます。2枚目の中段以降の「狂犬病予防接種」と「その他の予防接種」の欄は、オーストラリアから輸入する場合は記入不要です。また、「マイクロチップ(リーダー)の種類」はオーストラリアの場合、FDX-BもしくはISOと記入します。
4. 届出が受理されると「動物の輸入に関する届出受理書」が発行されます。「届出書」にメールアドレスを記入しておくと、「受理書」のPDFファイルがメールで送られてきます。ここで重要なのが「受理番号」です。日本語では「受理番号」とあるものの、英語では「Approval Number」となっており、ブリーダーや輸出代行業者にとっては(輸入)承認番号の扱いとなります。
5. オーストラリア政府機関の証明書の手配を依頼します。先の検疫の手引書に沿って輸出国政府機関が発行する証明書を取得しなければなりませんが、農水省推奨様式 別記様式第4号の1、 ”Certificate for dogs, cats, foxes, racoons or skunks to be imported into Japan from THE RABIES-FREE DESIGNATED REGION”のForm ABを使用すれば、自動的に確実に証明書の取得が可能です。Form ABは動物検疫所のホームページからEXCELフォーマット (import-free-3.xlsm) でダウンロードすることができます。ブリーダー(もしくは輸出代行業者)にファイルを送る際は、表の中にある"Consignee (荷受人)"欄に自分の名前と住所(もちろんローマ字です)を記入しておくと良いでしょう。また、到着日の10日くらい前までに、実際に現地でForm ABを記入して送り返してもらい、動物検疫所に事前確認をお願いすることを勧めます。(事前確認についての詳細は「受理書」のメールに書いてあります)
6. 後は現地(ブリーダーと輸出代行業者)を信用して犬の到着を待ちます。ここまでくると日本でできることは殆どありません。
7. 到着予定の一週間ほど前になると航空会社より連絡があり、エアウェイビル(Air Waybill、航空貨物運送状)の番号と到着ターミナルを教えてくれます。(オーストラリアのフラッグ・キャリアーであるカンタス航空の場合、日本航空が輸入貨物の取り扱いを受託しています)
8. さて、いよいよ待ちに待った到着(出迎え)の日を迎えます。到着予定時刻に合わせて成田空港の貨物ターミナルに向かいます。オーストラリアからのカンタス直行便は通常早朝到着ですが、検疫所が開くのが8時30分なので、そのくらいの時刻に日本航空の貨物受付カウンターに着くようにします。必ず持参しなければならないものは
・ 「動物の輸入に関する届出受理書」
・ 身分証明書(運転免許証等)
・ 仔犬の購入代金の請求書(Invoice)と外国送金依頼書(もし送金済ならば)
この他にあれば都合の良いものは、エアウェイビル番号を控えたメモ、現地輸出諸掛・航空運賃の請求書/支払い明細(クレジットカード支払い明細書等)です。
9. 航空会社の貨物受付カウンターで、エアウェイビルの番号を示し身分証明書を提示して、正しい荷受人(Consignee)であることを確認してもらってから、下記の必要書類を受け取ります。
・ エアウェイビル(原本)
・ オーストラリア政府機関の発行する輸出証明書”Permit to Export Animals or Animal Reproductive Material” (犬が輸送されてくるクレートに同梱されて日本に到着し受付カウンターに回付されています)。この証明書には、前述のForm ABも添付されているはずです。
・ 貨物引き渡し書 (デリバリーオーダー [Delivery Order])
・ 外国貨物運送申告書 (まだ輸入許可が下りていない貨物を保税地域間で移送するための書類。その場で申請手続きをします)
10. 航空会社に犬の入ったクレートを動物検疫所の検査場に横持ちしてもらいます。(この時にクレートの網目状の扉越しに犬と対面できます。尻尾をブンブン振って元気な子犬を見た時は、嬉しさのあまり涙が出そうになりました)
11. 動物検疫所の検査場に到着すると、検査官がクレートのシール(プラスチックの結束バンド状の封印。輸送途中で犬をクレートから出していないことを証明するもの)を切って犬をクレートから出してくれます。(犬は解放されて勢いよく飛び出してくるので、うまく捕まえて保定しなければなりません。私の場合、検査場で走り回る子犬を確保するのに少し手間取りました) 検査官が犬の状態を調べてマイクロチップリーダーで犬のマイクロチップの番号を読み取り、関連書類と照合します。問題なければ、事務室に行って「犬の輸入検疫証明書」を発行してもらいます。これで検疫(個体確認検査)が終了しました。最大の山場を越えたことになります。(ここで書類等に不備があると、犬は近くの天狼にある係留施設に送られ最大で180日間係留されることになりますので、検疫中はドキドキです)。この検疫終了時点で先程の「外国貨物運送申告書」に到着・発送印を押してもらいます。
12. ここで、一旦、犬をクレートに戻し、元いた日本航空の上屋に返却します。(通関しないと外国貨物である犬を国内に持ち込めません) 「外国貨物運送申告書」も、このとき一緒に渡します。
13. 通関のため税関(正しくは、東京税関 成田航空貨物出張所です。検疫時のすぐ近くです)に赴き、「輸入申告書」を作成し輸入消費税(関税は掛かりません)を支払います。輸入消費税の税額計算は、犬の価格に運賃・保険料を足した価額(CIF価格)に、地方消費税(2.2%)を除いた国の消費税率7.8%を乗じて計算することになっています。(どういう計算をしたのか分かりませんが、私の場合、予想よりだいぶ安かったように思います) 通関が完了すると「輸入許可書」が発行されます。
14. 税関を後にし、航空会社の貨物受付カウンターに戻って、「輸入許可書」と最初に取得した「貨物引き渡し書 (デリバリーオーダー)」を提出し、施設利用料、検疫立ち合い手数料等を精算(数千円です)すると、犬の入ったクレートを搬出窓口に出してくれるので、受け取って輸入手続きは完了です。
実際に犬の入ったクレートを受け取る際の注意点ですが、犬は10時間以上クレートの中に閉じ込められて到着するので、特に子犬の場合、糞尿まみれになっていることがあります。あるいは、糞尿がなくともクレート備え付けの給水ボウルから水が飛び散って、クレート内部が犬ともどもビショビショになっている可能性もあります。したがって、バスタオル、清掃用具(ごみ袋も)、新聞紙(清掃後のクレートの床に敷きます)などを持参することを勧めます。
家に到着したら子犬をそっとしておいて休息させましょう。(これは国内でブリーダーから子犬を引き取ったときと同じです。日本とオーストラリアは季節は逆になりますが時差は1~2時間なので、子犬は比較的、問題なく日本の環境に馴染みます) ここでブリーダーに無事到着したことを伝えましょう。ブリーダーはブリーダーで大事な子犬が無事着いたかどうかどうか、文字通り一日千秋の思いで待っています。(空港で引き取った時に一報を入れると、なお良いです) そして、一両日中に半金の支払いを忘れずに、送金が完了して初めて子犬はあなたのものになります。
海外から子犬を輸入する場合の費用ですが、一般的に子犬の販売価格自体は日本国内のそれより安いことが多いです。しかしながら、航空運賃、輸送に関わる諸掛り(輸送用クレート代、輸出検査料等)や輸出代行業者の手数料は、昨今、高騰しています。結果として国内で良血統の純血種を求めるのと変わらない、あるいはそれより高額になるかもしれません。
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