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大塚幸代さんの思い出的なもの

ライターの大塚幸代さんが亡くなってから4年と少しが過ぎた。ということに最近気がついた。


きっかけとしてはやはり、というかなんというか、TLに小沢健二さんの読点が驚くほど多い独特のツイートがリツイートされてきたことなんだけど笑。これにはきっと当の大塚さんも「あ、そうすか、、」って苦笑してくれることと思う。


あの日訃報を聞いてから今日まで、ボクは一度も大塚さんの話を人にしたり書いたりした記憶がない。たぶん皆無だと思う。単純に色々な人がweb上で思い出を語ってたし、何よりもあの時期のあの亡くなり方からある種「重力を持った意味」みたいなものを、まかり間違って見つけようとしてしまうと、たぶん自分的に面倒臭そうだな、と無意識になんとなーく避けたんだと思う。

ただ、そういう重力ぽいモヤりは時間が割と溶かしてくれるもので。そうすると4年もたったし今度は逆に何か断片的にでも書き記しといたほうがいいんじゃないか、という気持ちになってきた。曲がりなりにも大塚さんはボクのバンドの大ファンを公言してくれていたのだ。


そして今思い出した!

大塚さんが持ってたアマチュア時代のフリッパーズギターの前身バンドであるロリポップソニックのめっちゃ音が悪いライブ音源を「ノイズとって綺麗にできますか?」みたいに聞かれて「じゃあ時間あったらやってみるよー」て言って預かったままだー。やばい。やばくないけど笑。HDDのどっかにまだあるんだろうか。

この時代にはね、あの頃と違ってIzotopeのRXシリーズていうノイズ取りの画期的なチートプラグインがあるのだよ。とかはどうでもよくて。


小沢健二さんのツイートきっかけで思い出したのは、大塚さんが語っていた「オリジナリティ」の話だ。

ボクは小沢健二さんが90年代のなかばのある時期から突然、まるでこちらがMPを吸い取られるようなふしぎなおどりをテレビの中で踊り始めた(ボクにはそう見えた)ことを長年それこそ不思議に感じていた。

「なんか突然だったよね。なんでだと思う?大塚さんなりの解釈ってある?」昼下がりの吉祥寺の神田まつやでボクはお蕎麦をすすりながらズルズルとそのことについて聞くと、

「私は(なぜかボクのほうが年下なのにずっと敬語だった)あの時の小沢さんは『アーティストのオリジナリティって結局は体の動きなんじゃないか』って気付いたのかなー、と思ってるんです」と大塚さんは伏し目がちに天ぷらを箸でつついた。


これはボクにとって説得力があったよなー。音楽って結局は筋肉だと思うのさ。ろくにライブで演奏もせずにひたすら打ち込みと音データのエディットで音楽を作ってるボクからしてそう思うのだ。

たとえば、「ラテンのミュージシャンは独特のグルーヴがあって2拍目4拍目のスネアがレイドバック気味に遅れるから、それを表現するために少し遅れて打ち込もう!」みたいな指南書をたまに見かけるけど、それは恐らく意味がない。

彼らは彼らの筋肉に従って、踊り揺れながら演奏しているから、振りかぶりのタイミングなりで打点が遅れたり速くなったりするのだと思う。そこを表現できない限り、グルーヴの気持ち良さは生まれにくい。そのことでの当時のボクなりの結論的な答えが「サンプルを使う」だったのだ。トラック製作における筋肉をどう表現するか問題。次点で「自分の気持ち良い動きにしたがって打ち込む(踊りながら作る!)」である。

インスパイアをやりきった後の渋谷系になにが残るか、体の動きのオリジナリティの気づきについて、小沢さんは笑って全否定するかもしれないが、ボクには大塚さんの解釈がなにやら正しい気が今でもしている。


大塚さんからはインタビューを2回受けていて、1度目はファーストアルバムを発表した直後の2001年のクイックジャパン誌。2度目は大塚さんのサイト上で発表された4万字インタビュー(後述※)だ。

クイックジャパンのほうは、バンドとしてもインタビューの2回目とかでテンパってくるくせにとんがってて、結局何を喋ったのか正直あまり覚えてない。確か編集長の北尾さんも同席していて、クセナキスの話とか意気揚々とした気がする。クセナキスとボクのバンドの音とどんな関係があるというのか。意味がわからん笑 まったく若さ爆発としか。

4万字インタビューのほうは大塚さんと2人、長時間喫茶店でダベりながら語ったものを文字起こしして、インタビュー形式にまとめてもらったものだ。長いこと大塚さんのサイトに残っていたけど、昨年だったかにサイトごと消えてしまった。

※このインタビューに関しては「また読みたい」と思ってくれる奇特な人がどれくらいいるか、だけど一応事務所が保存してくれてます。ただ、掲載は大塚さんの親族とか、当時の近しい方に許可を取らないといけないかなー。

自分が思っていたアルバムのあれこれをチャクラ開きっぱなしでワシワシ語れたとても好きなインタビュー記事だったので、それをして何年後かに「やってよかった」と大塚さんに伝えたら、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれてた。


そういえば、晩年(?)はよく夜中に酔っ払って電話をかけてきて「今日は温泉でPSB(ボクのバンド名の略称)を聴きました。全裸で聴きました」とか
わけのわからない励ましの言葉を電話越しにボクに一方的に浴びせた後に「私のこと嫌いになりましたよね?早く新作出してください。やっぱり嫌いになりましたよね?」とか連呼する笑みたいなことあったけど、その度ボクは「嫌いにはなれないよなー」て思ってた。

そんなわけで年齢はあの年の大塚さんに追いつきつつあるけど、ボクは今からまたしてもポップ・ミュージックを作ってくわけだ。アルバムできたら届けるよー。

2019年 初夏



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