esportsにおけるクラウドファンディングの可能性を考える【後編:具体的活用方法】
今回は、esportsにおいてどのようにクラウドファンディングを活用するか、具体的な話を行っていきたいと思います。
(前編を未読の方は、こちらからどうぞ)
https://note.com/tom85y/n/n158d3ea1fc7b
まず、具体的な活用方法を話す前に、esportsになぜクラウドファンディングが必要かについて触れたいと思います。
それは、ズバリ”日本のesports界にはお金がない”からです。(苦笑)
こう書いてしまうと、色々と物議を醸しそうなのですが、海外のesportsと比べると決して潤沢に資金が回っていないという表現が適切かと思います。
改めてこうやって活字にすると不思議だなと思うのですが、任天堂やSONYとゲーム業界を代表する企業が生まれ、国内の経済発展に大きく寄与してきた日本のゲームですが、以前esportsも含め、”所詮、ゲームなんて”と敬遠されてしまいます。
以前、ゲーム=おもちゃという認識は根強く、esportsが、社会、そして企業にまだまだ理解してもらえていないのが現状です。
日本を代表する格闘ゲームのプロプレイヤー・梅原大吾氏がプロとして活動できるようになったきっかけは、アメリカの周辺機器メーカーであるMad Catzがプロ契約を申し込んだことから始まります。
こういった例から見れても、やはり日本の企業のesportsに対する姿勢はまだまだ慎重であり、故に海外に比べて、企業からの投資が少ないことは間違いないといえます。
しかし、世界のesportsは更に進んでいます。
世界のesportsコミュニティはますます大きくなり、比例して海外の強豪チームは企業のバックアップをさらに受けられるようになりました。
もちろん、それに手をこまねいているわけはありません。国内においても各チームの方々やイベント主催の関係者が、日々企業を訪問し、説明してくださっています。私も海外と規模は違えど、成果が現れていると思います。
ただ、それでも世界のesportsの拡大に対して、スピード感としては全く間に合っていないと考えます。この差をどう埋めて、世界と戦うのか。あるいは、日本のesportsを発展させるのか。
そこで、私が思いついたのは、”企業からの支援が難しいのであれば、ファンから直接支援してもらう仕組みを持っておくべきではないか”という考えでした。
ヒントは、YouTubeやTwitchの❝投げ銭制度❝にあります。この仕組はファンが直接金銭的な支援を配信者に行えるというものです。
ただ、esportsのチームなど、団体がYouTubeやTwitchで活動資金を得るのは難しいと考え、色々と検討した結果、行き着いたのがクラウドファンディングとなります。
では、クラウドファンディングに携わるものとして、具体的なクラウドファンディングの活用法を考えます。
幾つか方法はあると思いますが、今回は以下の3点について触れたいと思います。
1.プロチーム強化のための活動資金としてのクラウドファンディング
(esportsチーム向け)
2.イベント等を共に盛り上げるための仲間づくりとしてのクラウドファンディング
(イベント等の主催者向け)
3.失敗しないグッズ販売のためのクラウドファンディング
(esportsチーム、イベント等の主催者向け)
1.プロチーム強化のための活動資金としてのクラウドファンディング
3つの中で最も分かりやすい例が、これかもしれません。
国内において、esportsの競技に専念できている選手はそれほど多くありません。
選手の多くが別に仕事を持ったり、アルバイトをして生活を支え、日々研鑽しています。
しかし、海外のトッププレイヤーの多くはesportsのみで活動しており、日々、ゲームのことだけを考えて生活しています。シンプルに、練習量が決定的に違います。
また、トッププロともなれば、世界各国での大会参加も増えてきます。メジャー大会への渡航費などは、大会主催側から負担されることが多いようですが、時差ボケを解消する。あるいは、直前に強化合宿(ブートキャンプ)を行い、大会に備えるチームも存在します。そうなってくると、ブートキャンプのための宿泊費や食費、施設や設備の準備費用は全てチームが負担しなければなりません。
このように、日々のチームの運営費から大会出場に向けた費用まで、esportsのトップチームにおいては様々な費用がかかります。
こういった現状から、企業からの支援が満足に得られない場合において、直接ファンから支援してもらうというのは、ひとつの選択肢だと考えます。
では、具体的にはどのようにクラウドファンディングを活用すればよいのか。
幾つか具体的なアプローチがある中で、1つ事例を紹介します。
○悲願のBlizzconへ! オーバーウォッチW杯日本代表の挑戦応援プロジェクト!
こちらは、『オーバーウォッチ』のワールドカップ開催時のクラウドファンディングとなります。
この大会は日本選抜チームでの参加による国際大会のようで、主催側から渡航費などが発生しなかったため、集められた資金は選手の渡航費や宿泊費に当てられています。
こちらのプロジェクトに関しては、企画の狙いや情報提供、リターン(返礼品)など、とても明確になっており、ファンも支援しやすかったと思います。
実際、目標金額の200万はクリアしており、『オーバーウォッチ』ファンの熱意が見える化された好例といえます。
このような形で、世界大会への参加、海外遠征などにおいてプロチームが直接ファンから支援してもらうために、クラウドファンディングを活用してもらうケースは今後増えるのではないでしょうか。
また、別の方法としてCAMPFIREは特にファンクラブ型のサービスが充実しています。
○CAMPRIRE Community
ここ数年”オンラインサロン”という社会人を中心としたネットコミュニティが話題になっています。その仕掛け人の一人が幻冬舎の箕輪厚介さんなのですが、その箕輪さんのコミュニティ”箕輪編集室”が設けられているのが、このCAMPFIREのコミュニティ型サービスとなります。
では、具体的にどのようにプロチームに活用するのか?
簡単にいえば、ここで各プロチームがファンクラブコミュニティを開設してよいのではないかと考えます。
オンラインサロンにしろ、アイドルやミュージシャンのファンクラブにしろ、ファンが支払う月会費、年会費は運営においてかなりの資金となっています。
これまではトップミュージシャンなど、ある程度の規模感がないと人を雇うなどの運営体制を取ることができませんでした。しかし、今はネットのプラットフォームを使えば、遥かに安価にファンクラブを開設・運営することが出来ます。
ファンクラブを開設し、少しずつでもファンを見える化して、チームを支えてもらいつつ、その実績を企業にアピールすることで、支援も受けやすくなるのではないでしょうか。
ただ、当然ファンに対してリターンを行うという責務がチームには発生します。例えば、毎月ファンとの交流会を行うとか(オンライン、オフライン関係なく)。ファンのためだけに特別な動画を提供するとか。このあたりの創意工夫は各チーム必要になりますし、少なからず人手も必要です。ただ、長くチームを運営するプランがあるのならば、1つの選択肢としておすすめします。
2.イベント等を共に盛り上げるための仲間づくりとしてのクラウドファンディング
次は、プロチームの視点ではなく、イベント主催者の視点で考えてみます。
昨今esportsのイベントも大規模なものが増えてきました。大規模イベントであれば、演出もそれなりに凝っていて、来場者も思い出に残るでしょう。
ただ、毎回大規模なイベントができるわけではなく、コミュニティを支えるためには中小のイベントも効果的にやる必要があります。この中小のイベントでどこまでエンゲージメントを高められるか、それがポイントです。
そこでおすすめなのが、”来場した際にエンゲージメントを高める”のではなく、”企画段階からエンゲージメントを高める”というクラウドファンディングの使い方です。
前編でクラウドファンディングの特長の1つは、”資金集め=仲間づくり”であるという点に触れました。そこで、イベントの企画をクラウドファンディング上で発表し、仲間が増えるごとにイベントをグレードアップするという手法が取れます。
このケースも事例で紹介しましょう。
esportsではありませんが、バーチャル・シンガーの花譜が実際にライブを行う企画がありました。
○みんなで作る!花譜ファーストワンマンライブ
結果、4,000万円を集める一大プロジェクトとなるのですが、注目してもらいたのはこの点です。
このように、資金が集まることにイベントをグレードアップしていけるのも、クラウドファンディングの魅力です。
単に、ライブを実現させるだけではなく、資金が集まるごとに企画がブラッシュアップされていく成長感は、単に”支援する”という感覚ではなく、”参加して、企画を盛り上げる”という感覚をファンにあたえます。これにより、資金提供者ではなく、イベントの仲間としてファンは能動的に個人のSNSなどで発信してくれるようにもなります。
esportsにおいては、イベント主催というわけではないですが、esportsに興味のある方を集めて、様々な試みを行おうという但木氏のファンクラブも存在します。
現在は、但木氏による情報発信活動が中心ですが、多種多様な人材が参加しており、今後このファンクラブからのイベントなども開催される可能性はあるのではないでしょうか。
(私も参加しているので、可能性をとても感じています)
○eスポーツラボ【シーズン2】
3.失敗しないグッズ販売のためのクラウドファンディング
3点目については、前編でも触れたテストマーケティングの考え方を各チームのグッズ販売に利用してはどうかというものです。
グッズ販売は販売数が見込めないと、かなりのリスクを伴います。売れなかった場合のリスクや、在庫をどこで管理するのかといったリスクなどです。
しかし、クラウドファンディングにおけるグッズ販売であれば、それらリスクを軽減できます。
黒字になる商品数を超える支援が受けられれば、製造をすればいいのです。
グッズ販売は、(モノによるとは思いますが)チーム、団体を支える資金源となりえます。また、ファンからしてもクラウドファンディングで作られるものは限定品になることが多く、喜ばれるケースが多いです。
結果Win-Winが成立し、チーム、団体側はこの実績を元に、メーカー企業に商談を持ちかけ、販売規模を大きくすることも可能なはずです。
このように、クラウドファンディングでのグッズ販売もesportsにおいて、大きな可能性を持っていると私は考えます。
esports関係者にどんぴしゃな事例はありませんが、デバイス関係で面白い事例を最後に紹介したいと思います。
PS4で発売されたタイトル「とある魔術の電脳戦機(バーチャロン)」(http://vo-index.sega.jp/)に合わせて、ツインスティックをどうしても作りたいという企画です。
○PlayStation®4「とある魔術の電脳戦機」に対応するツインスティック!
ちなみに、この企画、あの体重計で有名ない株式会社タニタが手掛けているのですが、なぜタニタが手を上げたかというと、確か”社長がバーチャロンが好きだから”という理由だったと記憶しています(笑)
そんなわけで始まったこの企画ですが、実は上記で紹介したのは2度目となります。
これが、なかなか面白い話なんですが、1度チャレンジしていてその際には目標未達で企画は実行されませんでした。(このときは8,000万を集めている)
ただ、この時に話題となり、メディアに取り上げられたことで、別の制作会社が、”うちならもっと安くできるかも”ということで手を上げてくれ、結果、上記で紹介したとおり4,400万ほどの目標額に引き下げることが出来たそうです。
メディアに取り上げてもらうことはなかなか難しく、特殊な例であることは間違いありません。
ただ、クラウドファンディングにおいて、目標に達成しなければ、そこで失敗と諦めずに、企画をブラッシュアップして再挑戦すればいいのです。
シビアに考えれば、企画を考える時間はコストにはなりますが、持ち出す必要があるのはそこだけです。何かしら元手となる資金が必要なわけではありません。
喜んでくれるファンがいることがある程度見えているのであれば、是非、トライしてみてはいかがでしょうか?
さて、いかがだったでしょうか?
かなり長文になってしまい、申し訳ありませんが、1つでもクラウドファンディングの活用に向けて参考になることがあったなら、幸いです。
”やってみたいけど、なかなか企画が思いつかないよ”とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。そんなときな気軽にご相談ください。
私が関係しているCAMPFIREのスタッフは、とても丁寧に企画相談にのってくれます。
まだまだ国内のesports界が海外に肩を並べるには時間がかると思います。
昨今の世界的情勢からそれを座して待つのは、かなり厳しいものがあります。ですので、1つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか?
※本記事を読んで、”クラウドファンディングに興味を持った。相談してみたい!”という方は、tomohisa.yamano@camp-fire.jp までご連絡ください。