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第1章 ジュニアスポーツにおける親の役割の変化とその意義~ジュニアスポーツと保護者~

The Anonymous Coaching Knowledge は、効果的なコーチングに必要な知識とスキルを提供するシリーズです。

導入

ジュニアスポーツは、子どもたちの心身の発達において重要な役割を果たします。運動能力の向上だけでなく、協調性、忍耐力、フェアプレー精神など、人間形成においても貴重な経験を提供します。このプロセスにおいて、親の役割は非常に大きく、子どもたちのスポーツ活動への参加意欲や成長に大きな影響を与えます。本稿では、ジュニアスポーツにおける親の役割が歴史的にどのように変化してきたのか、現代の親の関わり方が子どもたちの成長にどのような影響を与えているのかを、歴史的、社会学的、心理学的な視点から多角的に分析します。過去の親の関わり方と現代の状況を比較することで、現代における親の役割の重要性を改めて認識し、今後のジュニアスポーツの発展に貢献することを目的とします。

親の役割の変化

歴史的な変遷:

  • 戦前・戦後: 戦前は、スポーツは一部のエリート層のものであり、親は主に経済的な支援や精神的な応援にとどまっていました。戦後は、GHQの政策によりスポーツが広く普及し、学校体育が重視されるようになりました。この時期、親は学校や地域のスポーツ活動への参加を奨励する役割を担っていました。

  • 高度経済成長期: 高度経済成長期には、余暇時間の増加と経済的余裕の拡大に伴い、子どもたちは様々なスポーツに触れる機会を得ました。親は、子どもたちの送迎や用具の準備など、より具体的なサポートを行うようになりました。また、「教育ママ」という言葉に代表されるように、子どもの教育熱が高まり、スポーツを通じた子どもの才能開発に期待する親も現れました。

  • 現代: 現代では、スポーツクラブやスクールが多様化し、子どもたちは幼い頃から専門的な指導を受ける機会が増えています。親は、子どもたちの送迎、費用負担に加え、練習や試合の応援、食事の管理など、より深く関わるようになりました。一方で、過干渉や過度な期待といった問題も指摘されています。

社会的背景との関連:

  • 核家族化: 核家族化の進行により、祖父母など親族のサポートを受けにくくなったため、親が子どもの世話をする時間が増加しました。これはスポーツ活動においても同様で、親が送迎や付き添いを担うことが一般的になりました。

  • 女性の社会進出: 女性の社会進出が進む中で、母親が仕事と育児の両立に苦労するケースが増えています。スポーツ活動においても、母親が中心となって子どものサポートを行う傾向は依然として強く、負担の偏りが問題となっています。

  • 情報化社会: インターネットやSNSの普及により、スポーツに関する情報が容易に入手できるようになりました。これにより、親は子どものスポーツに関する知識を深める一方で、他の子どもと比較したり、過剰な情報を鵜呑みにしたりする傾向も見られます。

スポーツ界の変化:

  • スポーツの商業化: プロスポーツの隆盛やスポーツビジネスの拡大により、ジュニアスポーツも商業化が進んでいます。高額な費用がかかるクラブやスクールが増え、経済的な格差が子どもたちのスポーツ機会に影響を与える可能性が指摘されています。

  • スポーツの専門化: 早期からの専門的な指導が重視されるようになり、幼い頃から特定のスポーツに特化する子どもが増えています。親は、子どもの才能を伸ばすために、高額なレッスンを受けさせたり、遠征に付き添ったりするなど、多大な時間と労力を費やすようになりました。

現代の親の関わり方

ポジティブな側面:

  • 子どもたちの成長をサポートする役割: 親は、子どもたちの送迎、用具の準備、食事の管理など、生活面でのサポートを通じて、子どもたちが安心してスポーツに打ち込める環境を整えています。また、練習や試合の応援を通じて、子どもたちに精神的な支えを提供し、モチベーションの維持に貢献しています。

  • チーム運営への貢献: 多くのジュニアスポーツチームは、保護者のボランティアによって運営されています。親は、コーチの補助、会計、広報など、様々な役割を担い、チーム運営を支えています。

ネガティブな側面:

  • 過干渉: 子どもの練習や試合に過度に介入し、コーチの指示に口出ししたり、子どもにプレッシャーを与えたりするケースが見られます。これにより、子どもは自主性や判断力を育む機会を奪われ、スポーツへの意欲を失ってしまう可能性があります。

  • プレッシャー: 子どもに過度な期待をかけ、結果ばかりを求めることで、子どもに大きなプレッシャーを与えてしまうケースがあります。これにより、子どもはスポーツを楽しむことができなくなり、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。

  • 比較: 他の子どもと比較し、自分の子どもを劣っていると見なしたり、逆に優越感を持ったりすることで、子どもに不必要な競争意識を植え付けてしまうケースがあります。

  • 過度な期待: 子どもにプロスポーツ選手になることを期待し、幼い頃から過酷な練習を強いたり、他の可能性を奪ったりするケースがあります。

親の関わり方が子どもの成長に与える影響

心理的影響:

  • 自尊心: 親からの適切なサポートと励ましは、子どもの自尊心を高める効果があります。一方で、過干渉やプレッシャーは、子どもの自尊心を傷つけ、自己肯定感を低下させる可能性があります。

  • モチベーション: 親の応援やサポートは、子どものモチベーションを維持する上で重要な役割を果たします。しかし、結果ばかりを求めるような関わり方は、子どもの内発的なモチベーションを低下させる可能性があります。

  • スポーツに対する態度: 親がスポーツを心から楽しんでいる姿を見せることは、子どもがスポーツを好きになるきっかけになります。しかし、親が結果にばかり固執したり、他のチームや選手を批判したりする姿を見せることは、子どものスポーツに対する態度に悪影響を与える可能性があります。

社会性:

  • 協調性、コミュニケーション能力、リーダーシップ: チームスポーツへの参加は、協調性、コミュニケーション能力、リーダーシップなど、社会性を育む上で有効です。親は、子どもがチームメイトと良好な関係を築けるようにサポートしたり、リーダーシップを発揮する機会を与えたりすることで、社会性の発達を促進することができます。

学力との関連:

  • スポーツ参加と学力との関係性については、様々な研究が行われています。一般的には、適度な運動は脳の活性化を促し、学力向上に繋がると考えられています。しかし、過度な練習や試合は、睡眠不足や学習時間の減少を招き、学力に悪影響を与える可能性も指摘されています。

まとめ

本稿では、ジュニアスポーツにおける親の役割の変化とその意義について、歴史的、社会学的、心理学的な視点から分析しました。現代の親は、子どもたちのスポーツ活動において、送迎、費用負担、応援といった従来の役割に加え、精神的なサポートやチーム運営への貢献など、より深く関わるようになっています。このような親の関わり方は、子どもたちの成長をサポートする上で重要な役割を果たす一方で、過干渉やプレッシャーといった問題も引き起こしています。

今後の研究課題としては、スポーツの種類や子どもの発達段階に応じた適切な親の関わり方を明らかにすること、親向けの教育プログラムを開発することなどが挙げられます。また、保護者、コーチ、教育関係者は、子どもたちがスポーツを通じて心身ともに健やかに成長できる環境を整備するために、互いに連携していくことが重要です。子どもたちがスポーツを心から楽しみ、成長できる環境を作るために、大人が適切なサポートを提供していくことが、ジュニアスポーツの未来を拓く鍵となるでしょう。

お知らせ


ジュニアスポーツと保護者シリーズの第4章以降は、定期購読で公開予定です。全10章の予定となっています。
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