【TOLOPANの真髄に迫るvol.29】アメリカンなのにフレンチな、人気者のトロドック
ホットドックのイメージ。
朝のニューヨークでスーツを着た人がホットドック片手に、
もう片方にはコーヒーのテイクアウトカップ、
そして颯爽と歩く姿を僕は想像する。
昼なら、カルフォルニアの海岸沿いの屋台で。
スケボー少年やBMXに乗った少年たちが
一休みにコーラ片手に談笑している姿を想像する。
僕の「アメリカン」からイメージするホットドック。
行ったこともないアメリカを勝手に想像できてしまうのは、
僕がマイクタイソンを10歳で好きになってから42歳の今まで、
1日も観ていない日はないほどのオタクなおかげなのかもしれない。
アメリカの一部が映像として切り取られ、
僕の記憶の引き出しにたくさん入っている。
さて、そんなアメリカ好きの僕が作るホットドックの話をしよう。
トロパンのホットドックは、「トロドック」
ホットドックといってもさまざまな形があると思うが、
トロドックはサンドイッチではなく調理パンにした。
これはアメリカと同時にフランスのエッセンスを取り入れようと思ったから。
フランスの要素はというと、土台をデニッシュ生地にしたところ。
それもただのデニッシュ生地ではなく、ふすまを練り込んでいる。
「メインのソーセージをいかに美味しく食べてもらえるか」
を考えてこの生地にした。
バリバリの食感はデニッシュ生地を縦の層にすることで最大限に演出。雑味をクリアにするために、ふすまをローストし活性化炭素の役割を担ってもらう。
するとバターの香り、ふすまの香りが上品になっていきソーセージの味として出したい、つけたい香りをマリアージュさせることができる。
トマトソースにもこだわりがある。
玉ねぎをクミンで炒めて、煮詰めて、種と液を裏ごしして。液の方はカルツォーネ、種の方は酸味が少しあり旨味も強い。ソーセージの脂の重みに対して、酸味、旨味を当てていく。
また、トマトソースを置く部分のデニッシュ生地にも工夫をしている。
底を薄くすることでやさしい食感の層にしている。すると一口目からブールノワゼット臭とふすまのロースト臭がすぐにふわっと立ち上がり、トマトの爽やかさが追いかけてくる味わいに。
ソーセージは最後の最後までたくさん試した。
川島食品様にサンプルを大量にいただき、ハーブ、チョリソーなどさまざまなフレーバーで試した。追求したのは、好みがわかれない、旨味、食感、太さ。誰もが「これぞ」と思えるような、より多くの人から愛されるソーセージを選んだ。
焼き上がり直前には、グラナパダーノとシュレッドチーズを。
チーズから生まれるカリカリで珍味を演出、でもカリカリになり過ぎない溶け感に焼き上げている。
最後にオリーブオイルを少し。さらにオレガノ、パセリ。
ソーセージの旨味に合わせてセージにしようか迷ったのだが、今回はオレガノにした。オレガノは人が誰でも受け入れられるシソ科の爽やかさが特徴的。対してセージは、同じシソ科ではあるがハッカの爽やかすぎるところがあり、少し好みがわかれる。ジャンク的要素があってこそのホットドックなのでセージは外すことにした。
今回の構成はソーセージを一番に、万人に受ける味を考えた。
生地の食感と香りを決めると、おのずと焼き方が決まる。
ソーセージの油分を考慮して、単にケチャップマスタードではなく、
トマトソースを使用することで甘味よりの酸味にした。
さらにチーズで旨味と食感、オレガノの爽やかさ。
メインの主役は皆に受けるように、
でも演技派の脇役で全体をしっかりと固めた構成になっている。
調理パンには、映画的な要素があると思っている。
短いながらもストーリーがあり、その中に起承転結を考え俳優を決める。
指導なしでそれぞれのキャストを活かすためには、
量と個性のバランスが大切だ。
そのキーマンになるのが、監督の役割。
調理パンとは僕が唯一監督になれる、幸せな時間なのです。