忙しいデザイン学生の為の10分で読めるスペキュラティブ・デザイン
スペキュラティブ・デザイン(著者:アンソニーダン・フィオナレイビー/ 翻訳:千葉敏生)は2015年に邦訳版が発売された本であり、デザインリサーチに関する勉強を初めた学生の多くが最初に手に取る本といっても過言ではないと思う。
今回はスペキュラティブデザインの定義や実践に関してよりも、この本の内容を要約し、日夜課題や就職活動に追われるデザイン学生にもざっくりとわかりやすく説明したいと思う。
スペキュラティブ(思索)する?
まずこの耳慣れないスペキュラティブという単語、意味としては思索的、や投機的、というような単語である。わかりやすさの為に簡単に書くと
「今までと違う方向から考える」ということである。
ふつうのデザインの価値観から離れて、違う方向から新しい可能性や、未来の危険性などを、デザインのスキルを用いて表現していく。二つの表現の差を表したのが、著者のダン&レイビーが制作した、「A/Bリスト」である。
左側Aのリストは学校や、会社でふつうに行われているデザインだと言える。そして右がスペキュラティブデザインと呼ばれるデザインの特徴である。今回の記事では、このリスト中のいくつかにフォーカスしてスペキュラティブデザインと呼ばれるものがどの様な特徴を持つのかを説明したい。
特徴1.問題を発見し、疑問を提起する
まず非常に重要な考え方として、スペキュラティブデザインはそれ自体が問題の解決案ではない。最終的には解決になるかもしれないが、デザインした物が直接解決するのではなく、それを見た人の行動や価値観、考え方を変えることで長期的に社会課題の解決を目指すのである。
デザインと聞くと、ほとんどの人は問題解決のためのデザインを思い浮かべる。より表現性の高いデザインでさえ、その目的は審美的な問題解決と思われている。-中略- しかし現代の我々が直面する課題の多くは解決不能であり、これらを克服するためには、人々の価値観、信念、考え方、行動を変えるしか手は無いことは明らかだろう。(スペキュラティブデザイン, P27)
スペキュラティブ系の作品に対して多い感想が「これはアートではないのか?」というものだ、その原因は、提案が一つの解決案の提示では無いということにあるのではないだろうか。今のデザインは課題と解決を明確に示すことが必要とされているが、スペキュラティブデザインが取り扱う課題は複雑で規模が大きく、厄介な問題(Wicked-problem)が多い、その為一つの解決案ではなく、見る人がその事について討論をする為のデザインを行う。
特徴2.討論のためのデザイン
では、どの様なデザインが討論の対象になるのだろう?
この本の中では、ごっこ遊び理論という手法が紹介されている。
小道具とは、「想像を規程」し、「虚構の真実を生み出す」ためのモノである。「物語に没入する」こととは、「物語(または演劇、絵画)自体が小道具であるようなゲームに心理的に参加すること」を意味している。スペキュラティブデザインで用いられる小道具は、機能的で巧妙にデザインされている。想像を促し、日常生活に関する必ずしも自明とは言えないアイデアを抱かせてくれ、別の可能性について考えさせる。それは、物質文化の中に体現された社会の理想、価値観、信念に疑問を投げかける。(スペキュラティブデザイン, P138)
子どもはごっこ遊びの時、箱を家に見立てたり、紙でできた食べ物を食べたりと、小道具を現実世界の物に見立てるが、スペキュラティブデザインでは
今ここにない、虚構や架空の世界に入り込む為に小道具がデザインされる。現実の延長線ではなく別の切り離された世界を提示することが強調されている、SF映画やおままごとなどの小道具は見る人がすぐにわかる必要があるがスペキュラティブデザインではそうとは限らず、現実から離れたものが好まれる。
また、小道具だけでなく映像としての表現も有効である。
イギリス発のドラマシリーズ「Black Mirror」では今ある企業の製品やサービスが将来的に作り得る未来を描くことで現代への批評や議論を呼んでいる。
特徴3.社会の為に望ましい未来を考える
スペキュラティブデザインで討論されるのは「より売れるか」や「より役に立つか」ではなく、それが倫理的に望ましいと感じられるかである。
この図は未来学者であるデイビッド・カービーの著書から影響を受けてダン&レイビーが制作したPPPP図と呼ばれるものである。最も大きい円錐が「起こりうる」未来の幅、その次が「起こってもおかしく無い」未来、そして「起こりそうな未来」という風に、これから現実が進む先には無数の可能性がある。そしてその中で、起こりそうな未来と、起こってもおかしくない未来の間に望ましい未来が存在する、それがどのような未来かを、今までと違う方向から考える。それらは商業や産業の枠から離れて、社会的に有益な未来を考えるためのデザインである。
まとめ
スペキュラティブデザインは現在主流である産業の為のデザインから離れて
「今までと違う方向からデザインを考える」
社会課題など複雑で困難な課題を取り上げて
「解決ではなく問いを作る」
そしてその問いを多くの人が捉えられるように小道具や映像などをデザインすることによって、
「討論を促す」
その討論は便利か不便かや利益に繋がるかということではなく倫理的に良いかどうか、社会や人にとって
「望ましい未来の在り方を考えさせる」
その為のデザインである。
ネットで見れる参考資料:
以上すごくざっくりと本文を要約してみた内容ですが、まだまだ自分も勉強中かつ、文章をなるべく増やさずにまとめた為、伝わりきっていない部分が多くあると思いますので、興味を持っていただけた方の為に二歩目を助ける為の資料のリンクを貼っておきます。
また、画像などは保存元のリンクと繋げていますがもし不具合、不都合などありましたら、ご指摘ください。(noteでの引用の付け方が分からず,本文と混じって見づらくなることを防ぐ為の処置です。)
今更スペキュラティブデザインか、とも思われるかもしれませんが、デザイン学生(特にプロダクト系の学部生)の間ではまだまだマイナーで無意識的に産業の為のデザインに偏りがちです。よく知ってる人と知らない人の橋渡しができる資料があまりないと以前から感じていたので、今回取り上げてみました。