地域金融とゼブラ企業
第13回目となるZebras Cafe。今回は【地域金融とゼブラ企業】というテーマで、地域金融支援室長として地域金融機関の活躍の後押しをしている金融庁の今泉宣親さんをお招きしました。(肩書は2021年10月当時)
日本の人口減少、地域の過疎化・衰退、それらに関連して地域金融機関の「持続的な経営」が話題ですが、コロナウィルスの流行によって地域金融の重要性が一層注目されている今だからこそ、改めて「地域金融の現状、課題、今後の見通し」についてお話を伺いました。
ぜひご覧ください。
*本記事は2021年10月14日に実施された、第13回Zebras Cafe「地域金融とゼブラ企業」を読みやすい形に再編集したものです。発言内容はその当時のものである旨、ご承知おきください。
地域金融機関を「育成」する意義
今泉:金融庁監督局地域金融支援室の今泉です。「監督」という名前ではありますが、地域金融「育成」のような仕事をしています。
なぜ「育成」なのかについてお話したいと思います。
今回のコロナで、実質無利子・無担保融資など、「金融が大事だ」ということが世の中で実感されたと思います。膨大な数の中小零細企業への資金繰り支援では、政府系金融機関の支店だけでは賄いきれず、民間の地域金融機関もカバーしました。金融というのは人間にとっての血液みたいなものなので、民間の地域金融の機能が今回、再確認されたと考えています。
そして企業への「支援」を考えた時、①金融面(調達側)と②本業(資産側)をいかに良くするかという2つの側面がありますが、従来、金融機関は前者(①)、特に融資(負債)に注力してきました。これと「エクイティ(資本)をどう組み合わせるか」が、我々が約5-10年前まで行ってきた直接金融の議論ですが、昨今は「本業(資産側)をどう支援するのか」も、スコープに入ってきたと考えています。
この背景には、金融機関の規制緩和が進んだことに加え、 地域の中小企業のニーズが多様化してきたことも影響しています。
我々が企業にアンケートを実施したところ、たとえば、販路拡大、中小企業補助制度の利活用や人材不足についてなどの悩みの声が聞こえてきました。このような悩みをワンストップで相談する最初のパートナーとして、民間の金融機関が期待されていると感じます。
これを踏まえて、我々金融庁としても、地域金融機関に「資金調達面の支援と本業の支援、両方に目配りしてください」とお願いして、実際に多くの金融機関が取り組んで下さっています。
「金融面」という意味でいうと、ここ約5年間で、グローバルにみても、銀行業はかなり厳しい状況に置かれてきたと思っています。預金金利と国債金利を比較すると、通常は国債金利の方が高くなるものですが、日本では逆転してしまっています。
つまり、預金金利と国債金利の利鞘によって構造上あげられてきた一定の収益が失われた結果、そもそも「取引先にどういう付加価値を付けられるのか」が迫られる時代になりました。他方で、企業のニーズも融資に限らず多様化も進んできたので、地域金融機関は企業に対してトータルに寄り添うことが期待されているわけです。地域金融支援室は、こうした動きを支援するような施策に取り組んでいます。
評価軸を変えて、企業を見る。
今泉:昨今、銀行に集まってくる預金は、融資の伸びと比しても非常に多く、銀行間で「貸し出し競争」が激化しています。企業側からすると、一見、これは合理的な競争に見えますが、より金利が安い銀行を求めて多数の銀行から借りた結果「メインバンクがどこか分からない」状態になって、危機の時に誰が助けてくれるか分からなくなってくるというデメリットもあります。
こうした状況も踏まえて、従来とは異なった選択肢も提示したいという想いがあり、「事業全体を担保にする」担保制度ができないかと考えています。
「所有する不動産ごとに担保を設定する」のではなく、「事業から生まれるキャッシュフロー自体を担保にして」金融機関から資金調達する。いくつもの銀行と均等に付き合うというよりは 1つの金融機関と強い絆で結ばれていく、そういう関係性の選択肢を作れないかと思っています。
また、「事業全体を見て将来のキャッシュフローを見積もって担保を取る」という仕組みには、たとえば、スタートアップでも、業歴に関係なく、将来のキャッシュフローがしっかり見積もれればファイナンスがしやすくなるといった効果もあるのではないかと思っています。
ゼブラ企業は、IPOによる短期間でのExitを前提としていないため、VCからすると積極的に投資しづらい可能性がありますが、従来であれば銀行は業歴が足りずに融資しにくかった企業であっても、この施策によって融資がしやすくなると考えています。現在、法務省が民法改正を議論する中で、我々(金融庁)も入って議論をしているところです(注)。
陶山:まさに「事業全体を評価してそこにお金を貸しましょう」という意味で、融資よりも、メザニン(投資と融資の中間的な金融手法)に近いですね。新しい法制度を、まさに作っている過程だと実感しました。
(注)金融庁自体においても2022年11年より議論を開始(金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」)。
地域金融の「あるべき姿」や「担い手」
陶山:地域金融の担い手として、新しい投資会社が設立されたり、元地域金融機関の方が会社を設立して中小企業をM&Aしてホールディングス化しているケースがあったり、地域金融機関が新会社を設立して外から人をスカウトして運営していたりなど、「地域金融は地域金融機関がやる、かつプロパー社員が担う」という世界が変わってきている印象を受けます。
地域金融機関の採用や外部連携の仕方について、今泉さんはどのように見ていますか?
今泉:ありがとうございます。中小企業との「顧客チャネルを誰が担うのか」が1つのポイントになると思います。
個人的な意見ではありますが、「地域金融機関の機能や強みをどこに見出だすか」が大事なことだと思っています。昔の銀行員の事務は「複雑かつ精緻」でそこに付加価値がありましたが、現在、こうした事務は「デジタル」に置き変わってきており、「付加価値の源泉」が移ってきています。
他方、金融の機能が地域経済の成長あるいは産業の成長のためにあるという観点から見ると、たとえば、法人との接点、法人向けの「顧客チャネル」というのは地域金融機関の一つの付加価値になるかもしれません。
法人には取引先以外にも様々なプレイヤーが接触しますが、それらの多様なプレイヤーを1人の社長さんや法人側が全て使い分けることは大変です。地域金融機関にとって、そこをワンストップで相談する相手として、「顧客チャネル」の価値が高まってきており、他方でファイナンスする(融資する)部分はコモディティ化されてきて価値が下がっているのではないでしょうか。
中小企業の経営者にとって大切なことは、人材サービスも含めて「世の中のサービスがどういうものがあってどういう風に利活用したら良いか」を対話できる人がいること。地域金融機関がこの役割を担えるのではないかと考えています。
地域金融機関に就職する方の中には、地域の企業や社会に貢献したいという思いで職業選択したけれども、ちょっと違ったので転職しましたというケースも聞きます。地域の中小企業とのチャネルになって、いろいろな域外を含む課題解決をしてくれるプレイヤーに繋ぐ役割と再定義されれば、職業としての魅力も取り戻せるのではないでしょうか。
陶山:とても興味深いですね。
本質を見極めるということ
陶山:地域金融機関に勤めているマネージャーや若手の方に対して、応援や「こういうことやったら良いのではないか」などのメッセージがあればいただいても良いでしょうか。
今泉:地域金融機関が「できること」の範囲は広がっていると思います。先ほど「顧客チャネル」の話もしましたが、企業はどうしても「運転資金」が必要になります。そのため、既に接点を持っている地域金融機関のアドバンテージは大きく、デジタルの導入にしても人材採用にしても、企業の課題を一番に聞けるプレイヤーだと思います。企業にソリューションを提供するというビジネスの可能性は高いのではないでしょうか。
私たちの金融システムを守るというミッションの観点から、規制することをやめたり過度に弱めたりはないですが、それと金融機関が顧客との接点をどう持つかは別だと思います。「銀行」本体ではなく「銀行グループ」で取り組んだり、「地域経済にどう貢献するか」を考えてもらうと、できることが変わってくると思います。
大事なことは「企業の課題をどこで吸い上げていくか」、「それをどう解決していくか」ということだと思います。例えば、規制があるから・あるに違いないと思考停止に陥るのではなく、「グループ全体でどうやって顧客にアプローチをしていくのか」を考えてもらいたいですし、「地域金融機関のビジネスモデルを高めていく」という同じ方向を見て、自分も金融機関の皆さんと動いていけたらと思います。
「対話」が「差」を埋めていく。
阿座上:これまで多くの方のお話を聞いてきて、金融庁さん側も「想い」を持っているように、地域企業や地域金融機関の方も「想い」を持っていて、その「差」が埋まっていない、つまり金融庁さん側の「規制する立場」としての印象を、皆さん強く持っているように感じてきました。この点、金融庁さん側ではどういった動きがあるのか、お伺いできると嬉しいです。
今泉:近代の初めには「銀行業を自由にやってもいい」という時代もありましたが、その後、どこの国でも規制を始めました。お金を現金という形で手に持っていなくても良い社会を作るためには、一定の規制は必要になります。そういった意味で、我々も「規制の面」をないがしろにできないのは事実です。
仰っていた「差」は、立場の違いがある以上、どうしても最後までなくならない気はしますが、金融庁も「予算や税制などのお金を使わずにルールを変えることでお金の流れを良くする」という発想を持っているので、その点では金融機関の活躍があってこそですし、金融機関とのコミュニケーションでも最近では、対決的ではない「対話をしましょう」、「常に同じ目線で話をしましょう」ということを進めています。
阿座上:ありがとうございます。守るものが大きいので、すぐには変えられないけれど、対話を続けることで、良いところに一緒に向いていこうとされているのですね。
地域金融の可能性
田淵:「エクイティの目線を持ったデットのプレイヤーがいると良い」ということにはとても共感しました。地域でエクイティプレイヤーが育ちにくいといった現状を踏まえて、銀行が自ら役割を担ったり、エクイティプレイヤーを連れてくるといった「立場の逆転」みたいなものがあっても良いと思いました。
また、仰っていた地域金融機関の役割は、実は僕らが目指しているところと重なる部分があり、 最近Zebras and Companyが始めた「Finance For Purpose」という事業は、融資やエクイティ、フィランソロピーのお金、補助金のような行政のお金など色々なタイプから、 その事業の性質を見極め、会社さんと一緒になってどういうタイプのお金を利用するかを考えていくものです。まさに、仰っていた地銀さんの役割と重なるものがあり、同じ方向性を見ていると感じました。
最後に
陶山:最後に、一言お願いします。
今泉:「金融機能が社会でうまく回り、 この国の経済や産業が発展していって、暮らしをよくしていきたい」という想いは、多くの関係者と共有できると思いますが、皆さんの話を伺って、これをいかに実現していくか、それぞれの立場でみんなで取り組んでいくのだということを今日は改めて思いました。ありがとうございました。
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