4年目に突入した高輪のビールづくり ホップから広がりはじめた街づくりの輪
2021年から開始しているホップを育てるコミュニティ活動「TAKANAWA HOP WAY」は、ホップを栽培してビールをつくることだけではなく、共同作業を行う過程で地域のみなさまとの繋がりの輪を広げ、コミュニティを活性化させていくことを目的としています。
開発工事で回収した土を活用した土づくりと苗植えを行い、高輪ゲートウェイ駅周辺エリアの事業者のみなさまや学校、地域住民の方々にご協力頂きながら、TAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくり拠点であるTYビルディング(以下、TYビル)をふくめ、各所でホップを栽培しています。最終的には、ホップを収穫して醸造。参加者がデザインしたラベルの駅での公募や、その年醸造するビールの味決めなどの議論を経て、高輪産のホップを用いたオリジナルビールの醸造に向けたコミュニティ活動を、年間を通して行っています。
4月から4期目に突入するTAKANAWA HOP WAYですが、徐々に様々な変化が生まれ始めています。第1期の終了時に当活動のご報告をしましたが、今回は活動のアップデートやコミュニティで少しずつ芽吹き始めた変化を、参加メンバーである高輪中学高校教諭の押見誠則さん、地域住民の諫早菜々さん、明治学院大学の山崎陽菜さんの声も交えながら、JR東日本の桑原がお伝えします。
ホップを起点に広がる輪
ホップの収穫量は、第1期の約2.8キロ(プランター約80個)から約10キロ(プランター約150個)に、完成したビールも600本から1700本に増加しました。1期目からご協力いただいている大阪の醸造所「Nakatsu BREWERY(中津ブルワリー)」に加え、今年は新橋のクラフトビール醸造所「KUNISAWA BREWING(國澤麦酒)」での醸造も行うようになり、ホップの栽培だけでなく、ついに醸造まで高輪が位置する港区内で行うようになりました。
第1期目には8箇所だった栽培拠点は約20箇所にまで拡大。高輪地区の東に位置する、港南側での栽培もはじまりました。これまで高輪地区と芝浦港南地区側は、車両基地によって分断されてしまっていた背景があります。デッキと高架下連絡道路によってこの分断をしっかりと解消することが計画されていますが、開業前から物理的な接続以上の繋がりをつくりたいと考えていたところ、港区立港南中学校の生徒のみなさんの協力を得ることができました。港南地区の拠点は現在1箇所ですが、次年度以降も継続的に拡大していけたらと考えています。
また、JR東日本との関係性のある東京以外の地域へのホップの株分けも段階的に行い、輪を広げはじめています。新潟県湯沢町ではすでに収穫とクラフトビールの製造まで実現。スキー場で知られるガーラ湯沢での冬限定での発売も行われました。港区立高松中学校で栽培したホップを株分けした新潟県五泉市より、同校へチューリップの球根500個が送られたりと、交流の輪が生まれています。
自発的にスピンアウトしはじめた活動
TAKANAWA HOP WAYの活動の中心である高輪地区に目を移すと、当初はわたしたちからお声がけした企業や学校のみなさまが中心でしたが、地域住民の方々など、より多様なプレーヤーが自発的に参加してくださる活動へと変化しています。活動開始当初は新型コロナウイルス感染症による外出自粛の最中で、基本的にはオンラインでのコミュニケーションが中心でしたが、第2期以降はTYビルや各栽培拠点で直接顔を合わせての交流が加速していき、取り組みの幅も広がっています。ビールの醸造だけでなく、ホップを活かしたパンやサイダー、レモネードのほか、石鹸づくりなどにも派生していきました。
これらの活動の多くは参加いただいているメンバーのみなさまの「こういうこともやってみたい」という思いが起点になることが多く、ホップに限らない様々な取り組みもスピンアウトして生まれています。
例えば、TYビルの屋上では2023年より養蜂をスタートしました。これは、高輪中学高校で理科を教える押見さんの生徒のみなさんが、「ホップ以外の生物も育ててみたい」と伝えてくれたことからはじまった活動です。また、地域の生態系を知ることを目的に、白金台にある自然教育園や地域を巡るフィールドツアーなども生徒のみなさんの希望により行われました。東京都内の都市型農園を調べて冬休みに自発的に巡る生徒たちもおり、野菜やビオトープづくりを今後行なっていきたいという声も挙がっているそうです。
人生を後押しする、社会との接点に
また、ホップを起点にした駅での出会いが知的好奇心を生み、子どもたちの人生を後押しする機会にもなりはじめています。高輪ゲートウェイ駅の構内で開催した、ミドリムシを活用した燃料を開発するバイオテクノロジー企業・ユーグレナさんのイベントに押見さんの生徒のみなさんが参加してくれ、そのうちの生徒のひとりは、バイオエタノールの研究に興味を抱き、関連学問を学ぶことができる大学への進学を選択するなど、生徒の進路を後押しすることにもなりました。
加えて、学生によるコミュニティの横断も見られます。高輪ゲートウェイでのイベントやお菓子作りのイベントで出会った高校生が、それをきっかけにお互い情報交換をし、熱帯魚とミドリムシを交換するなどしているそうです。そのほか、大学生が小中学校のホップに肥料を撒きにいくなど、各年代を超えた交流が生まれています。地域学生とのイベントをはじめ、様々なイベントに参加してくれ、中高生たちと積極的にコミュニケーションをとってくれた山崎さんや、ビールを地域の方にPRしてくれ、イベントに友人を連れてきてくれた諫早さんなど、参加メンバーの何気ない小さな行動が積み重なり、自身が所属するコミュニティを横断した社会の接点が生まれるきっかけとなっています。
「小さな参加」を促す舞台へ
学校、または職場と家の往復だけになりがちで、特定のコミュニティのなかでの関わり合いで完結してしまう。その結果、街は通過するだけの存在になる。そうした問題意識は、「ホップの活動に参加するまで大学がある高輪のことをほとんど知らなかった」と明かした山崎さんだけでなく、高輪地区に長年住む諫早さんや押見さんにも共通していました。
歴史の古い地域であるけれども、かつてと比べて地域ごとの単体コミュニティは減少し、ビジネスの中心地でもあるため仕事のためだけに来る方も多い。そうした意味で、また諫早さんや押見さんは「高輪の地域性をぴったり言い表す言葉が出てこない」と言います。
特にコロナ以降、リアルの関わり合いが制限されたことも、この状況を加速させる要因になっているようにも感じます。そうしたなかでも、マイクロなコミュニティを保ち続けてきたことの意義は大きく、少しずつ街が「自分たちの街」になっていく未来に向けて、徐々に実を結び始めています。
こうした街を自分ごと化できる、参加を促す舞台をつくるために、3年間の活動のなかで見えてきたこともあります。
わたしたちの活動では、役割を固定せず、ビールのラベルから味に至るまで、すべてを参加者の意思で決めています。「あれをやってください」ではなく、参加者の「なにをやってみたいか」を起点にすることで、自身のアイデアやアクションが街の変化に地続きに繋がっていく。この実感が、「自分にも何かできるかも」と、それぞれが個性や能力を持ち寄って自分の手で変えていくような、自分ごと化された場所の出発点になるのではないかと考えています。
TAKANAWA HOP WAYの集まりでは、ただ出来たものを楽しんで終わりではなく、ホップにとどまらない、様々なアイデアが飛び交います。防災意識を高める活動が学校や会社の避難訓練しかないので、街で防災に取り組む活動がしたい。あたらしい街の入居企業に学生が社会科見学を行える取り組みがあったらいいなど、街を一緒になって考える場として機能しはじめていると実感しています。
ホップの活動も、これまでポップアップでの不定期販売だったものを、高輪ゲートウェイ駅構内のエキナカコンビニ(TOUCH TO GO)や地域のお店などで、継続販売にたどり着けるようトライを続けている最中です。街をフィールドに、地域のみなさまと小さな参加を積み重ねながら、学校を卒業しても、仕事が休みのときでも、特に用がなくてもふらっと戻ってくる街/コミュニティにしていきたい。ホップの活動が、そんな未来のきっかけになればと考えています。