私の演劇の記憶-FRAGMENT- 丸山港都
この企画は『FRAGMENT』の主人公が俳優であることにちなんで、実際に俳優である出演者一人一人の、演劇に関する「記憶」を深掘りしようというインタビュー企画です。
俳優として生きている人の考えを「断片」を集めていくと、
自ずと『FRAGMENT』という作品につながっていくのかもしれません。
一人目は劇団員であり、『FRAGMENT』の主役でもある、丸山港都さんにお話をお聞きします。
まず最初に、丸山さんの演劇の原体験をお伺いしようと思います。丸山さんがこれまで見た演劇の中で最も印象的だったものを教えください。
高校一年生で演劇部に入部したての頃に見た、劇団燐光群の『犀』(作:イヨネスコ 演出:大河内なおこ)という作品です。当時は地元である長野の高校に通っていたんですが、顧問の先生が一年生みんなを高速バスで、わざわざ東京に連れていったんですよ。梅ヶ丘ボックスっていう20人入ったらぎゅうぎゅうの劇場で見ました。衝撃的でした。
熱心な先生ですね(笑)。どんな物語なんでしょう?
街の人たちがみんな動物のサイになっていっちゃっていくっていう話です。面白いんですよ。意思疎通ができなくなっていっちゃって、作品の中に暴力性と、でも美しさと知性もあって。最後の最後、街のみんながサイになって、一人になってしまった主人公が「僕は最後まで人間でいるぞ」みたいなことを叫ぶんだけど、それが虚しすぎるんですよ。劇が終わって暗転した時に「あ、世界終わったんだ」って思いました。
その作品はなぜ衝撃的だったんでしょう?
なんて言うか、ある種作品だけじゃなくて、一つには劇場の狭さ、俳優さんとの近さがありました。俳優さんが喋るたびに唾飛んでるのが見えるし、何ならお客さんにかかってる。狭い空間で転換がぐわーっと起こって、物語が動いて、すごい熱を持っていました。そんな中で「あ、世界終わったんだ」って思ったわけですけど、衝撃だったのは、不思議なことに劇場の外に出た後もその絶望感みたいなものが残っていたことでした。頭では、現実の世界は全然終わってないことは分かってるし、誰もサイになってないことも分かってるんだけど、心で「あ、世界終わったんだ」と思い続けてる。
劇場から出ても、作品がずっと心に残っているということでしょうか?
僕は中学の頃から演劇部だったから、それまでも演劇は見てるし、それで感動して泣くとか面白くて笑うとかももちろんありました。劇団燐光群の『犀』が特別だったのは、わざわざ東京という地に出てきて、劇場という空間でそれを見て、自分の身体で体験したっていう興奮もあって、劇場の外でも作品が心に残っていた。そんな経験が僕の原体験です。
それは演劇特有のものかもしれませんね。ではそんな経験の後、どんなことを経て丸山さんは俳優になったのか、語り切ることは難しいかと思いますが、お聞きしようかと思います。
少し思い切った質問かもしれませんが、丸山さんはなぜ俳優になろうと思ったのでしょうか?
ここまで少しお話ししたように、僕は中高と演劇部でした。俳優になろうと思ったのは高校2年の時ですね。地元・長野のまつもと市民芸術館主催で、『アルルの女』(原作:ドーデー 演出:内田紳一郎 芸術監督:串田和美)っていう小説を題材に、東京からプロの俳優を呼んで地元の市民キャストと演劇を作るっていう企画があったんです。その市民キャストにオーディションで選ばれて。それがきっかけです。
そこで何を思ったんでしょう?
ナイロン100℃の峯村リエさんと共演させてもらって、それで峯村さんを見て、俳優になろうって。峯村さんの独白のシーンがあるんですけど、もう、圧倒的で、とにかくかっこよくて。ああいう風に舞台に立ちたいって思いました。それからは大学選び含め全部、俳優になるためにどうしようかって考えてました。
強い憧れがエネルギーだったんですね。では俳優になってからのことをお聞きしますが、率直に、俳優になってから不安や気持ちの揺らぎはありましたか?
死ぬほどありますよ(笑)。向いてないんじゃないかとかはずっと思うし、山ほどダメ出しされてきたし。ボロクソ言われることも沢山あった。でも、何としても役者続けたいなともずっと思ってました。俳優としての喜びも感じたこともありましたしね。
俳優の喜びっていうのはどんな時に感じるんでしょう?
東京夜光の『ユスリカ』(https://www.youtube.com/watch?v=IwXC_4sVEeo&t=3s)をやった時に、僕は女性をバンバン殴る役だったんだけど、終演後挨拶に出て行ったら、お客さんがみんな僕を避けてたんですよ。僕はもう丸山港都として出て行ってるのに、お客さんからはもうその役として見られてる。避けられてるのは切なかったけど、それくらい集中して見てくれてるって思って嬉しくもありました。
劇場の外でもお客さんの心に残っていたんですね?
やっぱり演劇にはどこかで現実に踏み込む瞬間があって、それはある意味で演劇という虚構でしか踏み込めないこともある。僕の『犀』の演劇体験とかとも繋がってくるけど、そうやって誰かの人生を変える芝居がしたい。僕の芝居を見て、何か現実世界に戻った時に「いつもと違うことしてみようかな」とか「自分はこれで良かったんだな」とか、一人でも多くの人に思わせたいなって思います。
では少しだけ話題を変えて、『FRAGMENT』のこともお聞きします。
『FRAGMENT』は「戦争」をテーマの一つに据えた作品になっていますが、
ここまでお聞きしてきたような経験や思いを積み重ねてきた丸山さんの目には『FRAGMENT』はどうみえているんでしょう?
これまで生きてきて、あると分かってはいたけど向き合おうとしなかったものに、否応なく向き合わせてくる作品だなと思っています。戦争について別に全然考えないわけじゃなくて、たとえば終戦記念日とかには色々考えるけど、でも自分の日常のレベルに引き付けて考えることはなかったし、そして今ウクライナの問題があって。稽古中、様々なことを考えます。
『FRAGMENT』のもう一つのテーマとして「俳優」があります。丸山さん演じる白戸景は俳優の役ですが、こちらはいかがでしょう?
こっちもさっきと似ているところがあって、これまで俳優として生きてきて、あると分かってはいたけど、向き合おうとしなかったものに、否応なく向き合わせてくる。実は白戸が言われてるセリフの中には、実際に僕が川名さんに言われたことのあるダメ出しが多く入ってて、そういうのが散りばめられてる。俳優たちがみんなしてきたり、言われてきたりしたことだから多分みんなそうなんだけど、特に僕は自分のことだと考えちゃう。
そういう意味でどちらのテーマでも、ここまでは何とかやってきたけど、この先自分が俳優として生きていくために見なければならないものを突きつけられているような気分です。
そういった意味で丸山さんは、どんな人たちにこの作品を見てほしいと思うのでしょうか?
まずは表現者たち。この作品にもたくさんの表現者たちが出てきますが、彼らのことが実際に表現に関わっている人たちの目にどう映るのかっていうのは気になりますね。
そして若い人たち。作品の中で戦争や表現に関して、何かを突きつけられた時に右往左往する人たち、何かを選び取る人たちを見て、どう感じるのかなと思います。
でも総じて、この作品は一つには俳優をテーマにしているけど、別に表現者だけじゃなく、たくさんの人がこれは私の話だって思える内容になるかと思います。
最後にこの作品を見ていただくお客さまにコメントをお願いします。
この作品は劇場の中だけにとどまらず、これからの人生で考え続けていくことを扱った作品になるかと思います。カンパニーとして何か答えを作っていく作業はする必要があるけど、それを見た人とまたさらに考えていきたいし、もしかしたら10年後とかに振り返って見た時にあれは間違っていたんじゃないかって思うかもしれない。
見にきてくださって皆様にとって、その時その時に思う「正しさ」とか「信念」みたいなものを考えていけるきっかけになる作品になってくれればと思って日々稽古しておりますので、ぜひ見にきていただければと思います!
以上がインタビュー本編になります。
劇団東京夜光『FRAGMENT』、吉祥寺シアターにて上演いたします!
劇団東京夜光 公演
「FRAGMENT」
作・演出:川名幸宏
2023年、戦争が起きたら、俳優はどう生きるか。
その記憶は、誰の真実か—
2022年の本多劇場公演から1年半。
劇団東京夜光は”劇団とはいったい?”に勝手に向き合いながら1年間の創作を積み重ね、
劇場のある吉祥寺の1944年と2023年を繋いでみます。
1944年、B29東京空襲の最初の標的となったその場所に、2023年、あまりにも先が見えない 30 代俳優の男女ふたり。 広大な原っぱのベンチに座って、男の雑なプロポーズを皮切りに始まる痴話喧嘩。
その刹那、航空機の轟音。
地下壕に逃げ込んだ人々は、戦中の少女の日記を見つけ、“少女の記憶の真実”をとりとめもなく探しはじめる。
【出演】
丸⼭港都
草野峻平
笹本志穂(以上劇団東京夜光)
永⽥紗茅(柿喰う客)
阿久津京介(もあダむ)
堀⼝紗奈(劇団4ドル50セント)
⾓⽥萌果(劇団⻘年座)
⽥中博⼠(東京タンバリン)
都倉有加(C-PLUS)
ししどともこ
中⼭⿇聖
【チケット料金】
一般前売=5,000円 U-25前売=3,500円
一般当日=5,500円 U-25当日=4,000円
アルテ友の会会員=4,500円(武蔵野文化生涯学習事業団でのみ取り扱い)
*全席指定・税込*U-25は当日引換券のみでの販売。当日受付にて要証明書提示《チケット取扱》
▼ローソンチケット▼
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▼(公財)武蔵野文化生涯学習事業団チケット予約▼
【お問い合わせ】
劇団東京夜光
info@tokyoyako.com
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