学校警備員をしていた頃 その36

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その35

 「秋元康があんな詞を書いているとはキモい」
 自分は、基本的には学校警備の仕事が中心だったが、時々学校が休みの日曜や祝日などにマラソン大会や花火大会などのイベント警備の仕事をしていた。
 ある日、どこかの区民祭りの警備の帰りだったと思うのだが、現場が遠方で会社の車に乗ってみんなで帰ってくることがあった。
 そういう場合、だいたい内勤者が運転して隊員が5人くらい同乗し、移動中いろいろと話をする。20代・30代の若い人と50代くらいのおじさんが同じ話題について話す場合もあり、ふだん聞けないような話の進み具合になったりして面白い。
 その時は、どういうわけかAKBや秋元康の話になった。
 30歳くらいの男性で、奥さんと子供もちゃんといる本山さんが、言った。
「AKBでの板野友美の立ち位置は、昔の『おニャン子クラブ』の工藤静香の立ち位置に似ている。まわりが可愛い女の子ばかりで、一人だけキャバ嬢みたいなところが似てる」
「うーん、そう言われればそうかもしれない。昔のアイドルって板野友美みたいなのが多かった」
 と、私はおじさんらしく昔の話をした。
 だれだった忘れたが「えー、昔のアイドルってあんないやらしいのかあー」という声がした。
私「まあ、昔のアイドルってああいうやらしい感じの人も結構いたんだ」
本山「それと、秋元康の作る歌だけど『I need you I love you』だよ。あの秋元があんな詞を書いていると思うとキモいぜ。そんなことを、うちのかみさんと一緒に時々話しているんだ」
 「なんだか、主婦の井戸端会議みたいな話だな」と思いながら聞いていたので、「かみさんと一緒に」というところを聞いて、若干納得した。こういう主婦の井戸端会議みたいな話が嫌いでないという人の方がモテるし、早く結婚できるのだろうか。
「確かに、あんな太ってメガネをかけて経済ヤクザみたいなニヤケてるおっさんが、ああいう青春の歌みたいなのを、ペンだか鉛筆だかで書いているところを想像するとキモい。まあ、しかし、秋元氏の歌は、『正直』とか『本当』とか、小学生の作文みたいな言葉がいろいろ出てきて、ああいう幼稚っぽい歌が若い男の子に受ける、ということを思いつくところが偉いなあ。それと、単に作詞するだけではなくて、『美空ひばりの歌を作る仕事をとった時には、年を上にサバ読んだ』とか、芝幸太郎とか窪田康みたいな怪しげな連中と一緒に仕事をしたり、いろいろと状況に合わせてうまく考えてやっていくところもエライ」
 と、私は、我ながら男性週刊誌ふうの意見を述べた。
 すると、男性で推定年齢50歳くらいの隊員が言った。
「でも、どうせ自分で作ってるわけじゃなくて、誰かに作らせたやつを適当に選んで、『秋元』というハンコを『ポン』と押しているだけだ」
 これまた、男性週刊誌ふうの意見である。
本山「ところで、あいつはおニャン子の一員と結婚したんだぜ。よくあんな奴がおニャン子なんかと結婚できる。えーと誰だっけ」
 運転している、やはり推定年齢50歳くらいの内勤者(男性)の大下さんが言った。
「高井麻巳子」
 なぜか、これに対して、だれもなんとも言わなかった。
大下「あれ、なんにも反応がないね」
 ここで、どういうわけか笑いが起こった。
 AKBや秋元康の話なんかは、主婦の井戸端会議ふうにあれこれ言うこともできるし、男性週刊誌(おじさん週刊誌)ふうに論じることもでき、オタクでなくても老若男女みんなが話に参加できる。「俺にも言わせろ」という流れで拡大再生産されていくので、話が途切れにくく車の中などで話すのにはいい話題なのかもしれない。
 これ以外にも、話が途切れにくい話題は、いくつかある。
 例えば、「どこどこの現場で芸能人のだれだれがいた」などという話題がある。これも、「俺にも言わせろ」になりやすい。
 それから、警備士同士の話題として私が一番の定番だと思うのは、「あそこの現場にいったら2時間で終わった」「どこどこにいったら1時間で終わった」という話題である(工事現場で警備していて工事が本来の警備時間よりも早く終わっても、一日分の日給がもらえる)。これは、「得した自慢」「楽した自慢」みたいな話で、別に意見が対立するようなこともないし、いい話題だと思う。 
 それから、貧乏話・倹約話や浪費話、競馬やパチンコの話などのお金の話も、メンバーによっては、話が盛り上がることがある。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その37

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